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『新・養生訓 健康本のテイスティング』出版記念・露払い(その一)

こんにちは。

いち編集部のリアルです。

今回は10月新刊の話。配本日は、10月23日になりそうです。

ちなみに配本日って、何だかわかります? 配る本の日と書きますが「どこから?」「どこへ?」本を、配るのでしょう。そう、取次から全国の書店へ、です。では取次って、何でしょう? 日販とかトーハンとか、本の仲卸業者のことです。でもなぜ出版社は全国の書店へ直卸ししないのでしょう? 全国にあまたある書店やコンビニ、売店、もちろんネット書店も含め、「どの店に」「何部卸して」「隈なく運ぶ」なんて、それこそ何百、何千とある届け先にいち出版社が膨大な労力とお金をかけて物流するなんて離れ業は、そもそも「非現実的」だし、無理だからです。ゆえに版元(出版社のことを業界ではこう呼びます)さんは、取次さんに、「流通」を「委託」するのです(おまけに返品管理や代金回収もしてくれる)。もちろん価格や印刷部数や配本部数は版元で決めるので、その先の卸の話です。委託する前には取次審査といって、版元は出来立てほやほやの見本(サンプル)を持参して、取次に本の目利きをしてもらいます。ま、魚市場(違うかな?)みたいなものですね。「この本は、こういうジャンルの本だから、これこれの小売店に、これこれの部数ずつ流通させるか…」と品定めをし、取次の高度な物流システムで全国の書店に配本されます。版元からすれば、配本日はまさに「いざ、初陣!」と、手塩に掛けたわが子が全国の書店さんに送り込まれる日ですから、いよいよ感、半端ありません。

が、しかし、配本日=販売日とはなりません。

なぜって、地方であれば流通に2~3日かかりますし、都内大型書店でも、仮に当日、本が納品されたとしてもすぐには店頭に並ばないからです。そう、本をエンドユーザーにお届けする最後の仕上げの作業をするのは書店員さんです。本の特性を慎重に吟味し、展開の仕方を考え、棚決めをし、ディスプレイされて、新刊本ははじめて皆さんの眼に触れます。版元にすれば、いつ店頭に並ぶのか、それこそわが子の社会人デビューの親の心境ですから、エディタによっては(俺か)毎日書店に足を運び、まだかまだかと書店詣でを重ねるわけですが、よくあるパターンとしてフロアの端のほうにまだ段ボール箱に入った(ママ)新刊本がスタンバイしている、なんて光景を目にするのは、そのためです。

というわけで、またまた話が脱線しましたが、配本日から皆さんのお手もとに届くには、3~4日後と考えたほうが安パイなのです(営業の方、上記解釈で、だいたいOKですよね?)。なので、今回の新刊が店頭に並ぶのは、10月27日ぐらいですかね。

で、何の新刊や…!? とそろそろお叱りを被りそうですが、なんと、

感染症医で、シニアワインエキスパートの岩田健太郎先生

医療ジャーナリストで、BuzzFeed Japanニュースエディターの岩永直子さん

の対談本なんです。各界を代表されるダブル・ストーン(岩つながり)ですよ。すごいじゃありませんか。で、お二人が何を対談するのかといえば、巷間にあふれる健康本のソムリエ企画、もっといえば、医療情報の吟味の仕方を7時間もかけて徹底的に議論した本が、

新・養生訓 健康本のテイスティング(ダ、ダーン!←効果音)

なのですね。主に2018年(昨年)にベストセラーになった健康本の中から11冊(皆さんもご存知の本ばかり)を選りすぐり、クリティーク(批評)してもらったのが、この本です。ところで、この対談、ものすご~~~~~く、いつも対談の途中で、議論が脱線しまくりでして、その脱線の内容がまた、ものすご~~~~~く、今旬の切実性のある話題ばかりでして、本のクリティークはもちろんこと、その脱線加減も本書では忠実に…(あ、もう、これ以上は詳しく述べますまい)。

と、いうことで、この「脱線」のキーワードを鑑み、今回は冒頭、あえて意図的に脱線してみました。おい、「配本日」で脱線するなよ!(早くも二度目のお叱りを被りそうですが)


さて、本題に入りましょう。「わ~い、内容の話ですか…」「いいえ、違います」。こうしたお話は城攻めと一緒で、天守閣を攻略するには、まず外堀りから埋めますよね。同じく本の中核の話に到達するには、それなりにマナーというものが必要なのです。それに至る経緯や物語…、ゴールに至った道筋のようなものですが、なので、外縁からすこし述べさせていただきたいのです。さぁ、これから、土、どぼどぼ、お堀に入れちゃいますよ。

岩田健太郎先生といち編集部のリアルの出会いは、かれこれ5年前に遡ります。今日は、あえて尊敬の念と親愛の情を込めて、「イワケン先生」と呼ばせていただきます。ある日、「極論で語る」シリーズのコウサカ先生よりメールがあり、イワケン先生から極論で感染症の話をやりたいというオファーがあった、どうだろうか? 問題ない? たしかそんなご趣旨だったかと思います。岩田健太郎先生といえば、もう医療界でこれほど名の通った方はなく、医学書編集に従事する身としては「いつかお仕事をご一緒できればなぁ(遠くの山を眺めるような表情…、あ、六甲山の山並みがかすかに見えました)」と半ば憧れ、半ば畏怖を抱いていた存在でしたので、

「はい、やります! やります! 問題なんてあろうはずもございません」

ま、誇張しすぎですが、丁寧に応答しつつも心の中は「In den Himmel(天国へ)」でございまして、早速、都内の某映像スタジオに挨拶に赴いたのでした。なんでスタジオかと申しますと、イワケン先生、もうすでに極論のシナリオは仕上げてあり、しかもそれを映像にして、ケアネット様から映像配信する段取りまで組んであったのです。しかもその原稿は、なんと

たった7日で書いてしまった

まず映像の収録が先、出版化はその次と、こんな進め方って、あり…? という感じですが、完全にイワケン先生の頭脳プレイに「1本!」「2本!」「3本!」と立て続けに技(わざ)しかけられまくりでして(まだ、お会いする前に、やば、俺のほうが、外堀も内堀も埋められているじゃん)となったのでございます。当日は、どないシマショという感じで、スタジオに参りますと、すでに収録中。イワケン先生は白いパンツに黒の七分丈の夏ものおしゃれな羽織、Y字ネックのTシャツで、2人の研修医(男性と女性)らしき方と感染症診療の「極論」を流麗な日本語で語りながら問答しているシーンでした。

やべぇ、本物、かっけぇ。

もう一瞬で、魅惑のオーラに包まれたのでした。またその語りの淀みなく流麗なこと、思わず「俳優か!」と突っ込みを入れたくなるほど、感染症の極意をとうとうと語り(まさに「立て板に水」)、そして2人の研修医にここぞというタイミングで絶妙の質問を投げかけるのです(そのとき、先生の瞳が「ここがポイントなんですよ」とひときわ眼力がきらめきます)。初々しい2人がはにかみながらもようよう答えると、「そうですね」と優しく相槌を打つさまが、もう「イエス・キリスト」。などと勝手に思いを巡らしながら収録を見学しておりました。

収録の合間に休憩となったので控え室に挨拶に行くと、あっ、みたいな感じで、とても紳士的にお辞儀をされてナイスガイなのですよ。皆さんもイワケン先生といえば、Twitterでケンカばかりしている舌鋒鋭い御仁(ちょっとこわいかも…)みたいな印象がおありだと思いますが、拍子抜けするくらいのジェントルでマナーを重んじるお方なのです。

当方は開口一番、

「いや~、先生。落語家のように流暢にお話をされますね。」

(あらら、何言ってんだ、俺!)のようなコメントしてしまったのを覚えています。岩田先生、あのときは、本当にごめんなさいでした。それからのご縁で、『極論で語る感染症内科』『高齢者のための感染症診療』『高齢者のための漢方診療』『高齢者のための糖尿病診療』(もう、こちらのシリーズも共著の先生方スゴスギでして、個性と実力ありありなんで、毎回スリリングにお仕事ご一緒させていただいております)、今も次の編に取り組んでおりますが、何だかかんだの経緯で、今回の対談本の縁(えにし)をいただいたのです。
 
ちなみそのときのケアネット様の映像配信&DVDは、こちらです。

イワケンの「極論で語る感染症内科」講義

Online版 

DVD版

とても面白いですよ。本当に。


さて、イワケン先生にはある特徴があります。まず、①原稿が早い。本当に早いです。あの速さに唯一匹敵する方といえば、え~と、Y先生ぐらいでしょうか。しかもイワケン先生の場合、②その原稿の完成度が99%(まじですよ、一発でOKなくらい、直しがありません、といより、直せないですよねぇ)、③校正紙(ゲラ)の修正がほとんどない(当たり前ですね、②がすごいのだから)、④原稿整理や校閲をしていて文章が気持ちいい(いい文章を書く著者さんの特徴ですが、完成度の高い文章ほど構成や言い回しに十重二十重の配慮が施されているので、編集部も読んでいて心地よいのです)、⑤締め切りは必ず守ってくれる、⑥その他の編集上のことでくどくどしいことは一切言わない(表紙なども、編集部側の仕事として、こちらのプロフェッショナルを尊重してくれます)、というより、通常の臨床業務や研究、指導,講演活動という過密スケジュールの中で、年間7~8冊も本を出してしまうスーパーDr.でいらっしゃるので、「時間は資源」という意識が徹底しており、

自分の仕事はここまで、あとは編集部、出版社側のマター(頼んだぜ)

とされているのでしょうね。なので、最後の特徴、⑦本当に一緒に仕事をしていて「面倒を覚えない先生」なんです。もう、ここまで来たらイエス・キリスト+孔子レベルじゃないですか(いち編集部のリアルの個人的な感想です)。それと仕事と関係ないですが、毎回お会いするたびに若々しい(本当です。マラソンやサッカーをされ、食事等も節制されているのかも(?)しれませんが、加齢というコトバがこの先生ほど似合わない方はありません)。おそらくお疲れのときがほとんどなのでしょうが、少なくともいち編集部のリアルがそのような負のオーラを感じたことはありません。

余談ですが、イワケン先生、コウサカ先生、カワイ先生(睡眠医学の)は、米国臨床留学時代、同じアパートメントにお住まいで(すごすぎるメンバーと思いません?)、『少年ジャンプ』とかまわし読みされていたそうです。大変おこがましいのですが、1971年(いのしし)生まれで、この先生方とは、生まれた時代だけは共有させていただいておりますので、何と申しますか、もうこちらとしては「完全な黒子として」、この先生方の出版活動をご支援申し上げることが密かな誇りでもあります。ま、勝手に思ってろよ、の世界ですが。


ここで話をもとに戻します。(ダ、ダーン!! ←効果音・その2)

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去年の6月、イワケン先生のツイッターにこちら(↑)がアップされたのです。まさに、

新・養生訓 健康本のテイスティング

は、ここからはじまりました。いってみればSNS上の公開入札ですから、いち編集部のリアルもだめもとみたいな感じで(そりゃ、講談社さんとか、文藝春秋さんとかのよりメジャーな版元様のほうが展開力もありますし、ブランディング的にもそちらのほうがいいでしょう)、半ば焦りつつ、半ば諦めつつも、名乗りを上げたのです。そしたら翌日、イワケン先生からメールで

「ありがとうございます。ちょっと検討して企画を練らせてください。」

きぃ~~たぁ~~。それからはとんとん拍子で課題とすべき健康本の選書、そして対談相手の選考(岩永さん、そのお話は次回で)、課題図書の読み込みと整理、2度の対談(東京と神戸)開催となりました。

長くなりましたので、この辺で収めますが、この対談本、今マスコミやSNS上で医療上の話題(問題性のあるお話)となっているマターのほとんどをカバーしているといっても過言ではありません。もちろん11冊の本をきちんとクリティークいただいたうえで、プラスアルファの医療上の、あるいはメディア上の胆(キモ)テーマが満載なのです。しかもそのキモテーマについて、薄く表面をなぞっただけの議論かと申しますと、結構Deepなのです。対談中、何度もはっと息を飲むような考え方の表白に遭遇し、かつ原稿起こしの際も「思考の唸り」を覚え、企画当初の想定より100頁も増えちゃいましたが(ちょっとコストの問題が…)、そこは割愛せず、紙面に反映した次第です。

もっといえば、平成から令和に切り替わる時代、「あの時代の人たちはこんな医療リテラシーの危機に遭遇していたのだ」と、そんなことをもし30年後にこの本を読む世代が現れたとしたら、その時代の切実なテーマとして、2人の論者が真剣に議論した事柄が「30年後にはどのような変転を遂げたのか…」と、そんな未来の検証もできる本としても仕上がっていると思うのです。ちょっと難しいいいまわしですね。要は、時代の風雪に耐える本というものを、著者も編集部も目指したのです。

ぜひ30年後にも読んでほしい。

最後に、編集者である以上、本は売れて(読んで)ほしいと思っています。売れなければ、多くの人に結局届かないわけです。でも「売れる・売れない」が本の良し悪しの判断材料とするのはあまりにも短慮と思いますし、もちろん別の尺度もわきまえておりますが、そうはいってもビジネスである以上、本は売れなければ意味がない、本を取り巻くあらゆるステークホルダーに対しても貢献がない。こうした至上命題が、いち編集部のリアルの中にもございます。でも、今回、この対談本を担当して、

売れなくてもいいや、やるだけのことはやったのだから、

そう思えた瞬間が確かにありました。いいえ、嘘です。売れてほしいのです。読んでほしいのです.やっぱり多くの方に届いてほしい。でも本当にそう思えた瞬間があった本ということだけは、刊行前、ここに表明させていただきます。


都合3回に分けて、本書のことを述べさせていただく予定です。

次回は、岩永さんのお話を少し、ご迷惑をお掛けしない程度にさせていただければと。

ご清聴(読)ありがとうございました。

2019.09.20(配本1カ月前に思うこと)

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