【裏話】日奉欅について

※スポイラー、ネタバレ全開なので注意

※著者の脳内独自設定ですので公式見解ではありません

※2021年9月当時の設定ですので、以降に出る記事等で異なる設定が使用される可能性があります

※たぶん著者ページとかに書いとくべきことだけど、上記理由により念のため別サイトに置きます

SCP財団には"日奉一族"と呼ばれる日奉性の特殊能力を持った人物群が登場します。最近要注意団体認定もされましたね。この記事ではその日奉一族に繋がる一人、日奉欅についての記事です。







日奉欅って誰?

「私は日奉一族に詳しいけど、そんな奴いなかったぞ?ほら、総覧にも載っていない」と思ったそこの貴方。それは正しいです。2021年9月現在、SCP-JPで日奉欅 (Isanagi Keyaki) という名称は一度も使われていません。

では彼女は何者なのか。

その答えは酩酊街の酒場での一幕を描いたTale「呪いの夜道」にあります。この物語には酩酊街の酒場の店員として"きぃちゃん"と呼ばれる少女が登場します。これまで酩酊街の酒場が描かれるTaleはいくつかありましたが、店員として出るのは女将ばかりで少女の影はありませんでした。

この少女こそ私がこれから語る"日奉欅"なのです。

名前について

日奉欅という名前の基本設定は「呪いの夜道」中で語られています。

まず、欅という名前について。

私は"きぃちゃん"って読んでるわ。ここに来たとき、ケヤキの匂いがしたから。でもケヤキちゃんって呼ぶのも何か可愛くないじゃない?

普段は"きぃちゃん"という愛称で呼ばれていますが、女将によって少女には"欅"という名前が付けられたのです。

日奉という苗字を説明するには他の記事も参照する必要があります。

まず、酩酊街の女将の名前は"日奉柊"であるというカノンが存在します。初出は「第一〇九一番 - 「日奉柊」」であり、この記事では日奉柊と呼ばれる人物が禁忌を犯して日奉の地を去ったのち、酩酊街で居酒屋風の飲食店の店主となっていることが語られています。同作者によるTale「酩酊へ沈む」においても女将の名前が柊であることが仄めかされています。そして、彼女が中心的な役割を果たす「時絡の提言 - 酔醒」においても女将の本体は日奉柊であることが明記されており、"きぃちゃん"が登場する二記事「呪いの夜道」「酒場の忠犬は夢を見る」ではこの提言での女将の設定が継承されています。(継承されているという根拠は後に。) 

さて、また「呪いの夜道」に戻りましょう。酒場の女将、日奉柊が"きぃちゃん"について語るシーンがあります。

「ずいぶんとべっぴんさんじゃないか。女将の娘かい?」
「冗談。でも娘のように大切にしたいとは思ってるわ。彼女は最近この街に来たのよ」

日奉柊にとって"きぃちゃん"は娘のような存在になります。そうして彼女は日奉性を継承しました。

日奉欅。彼女は日奉一族の血は引いていませんが、日奉の者によってそう名付けられました。

彼女は何者か

Tale「酒場の忠犬は夢を見る」の一幕を見てみましょう。

「あのお客さんこういった気がしたんですよ。『今日もアイツは来なかったか』って」

少女は声を低くして老いた犬の真似をした。

「きぃちゃん、犬の言葉がわかるの?」
「私、誰かが「失くしたもの」とよくお話してたんです。この街に来ても「失くしたもの」の言葉が分かるみたい」

不思議な能力を持つ彼女はいったい何者なのか。その手掛かりは「呪いの夜道」にあります。

「じゃああれだ、この街に来た時を教えてくれるかい」
「そうですね、私はここには並木道を歩いていたら辿り着いたんです。気づいたら一面雪の街があって。ぷぅんとお酒の匂いがしたのを覚えています。

彼女は並木道を通って酩酊街にやってきました。ここで気づく方はいるでしょうか。とあるTaleで同じ境遇の少女が語られているのです。

そのTaleとはこちら、「並木道のその先から」です。

このTaleでは「SCP-461-JP - 隠れ樹」に登場する少女、SCP-461-JP-2が姿を消した後、酩酊街へ流れ着いたことが描かれています。SCP-461-JPの担当博士とまたいつか会いたいことが語られ、この手紙形式のTaleは締めくくられています。

そう、"きぃちゃん"こそ日奉欅はSCP-461-JP-2として知られ「かくれんぼ」をしていた少女なのでした。当時語っていた「失くしたもの」の気持ちが分かるチカラは酩酊街に行っても残っていたのでした。

彼女の行く末

先程、"きぃちゃん"が登場する二記事で酩酊街の女将の設定は「時絡の提言 - 酔醒」を踏襲していることを説明しました。その根拠を説明しましょう。

「酒場の忠犬は夢を見る」で女将は"きぃちゃん"に対して次のように発言します。

「少し、羨ましくなるわね。私は夢を見れないから。私自身が夢みたいなものだから」

そして、「時絡の提言 - 酔醒」においてSCP-975-JP-A内に存在する"女将" (紛らわしいですが、この"女将"は酩酊街の酒場の女主人、日奉柊とは別人です)は女将についてこう語っています。 

私が夢を見たって話したときにうらやましそうに言ってたんです。私は夢を見れないからうらやましい、私自身が夢だから、って。

女将は同じ台詞を使っているんですね。これが両記事を繋ぐ証左です。

さて、お気づきでしょうか。前者の"きぃちゃん"、日奉欅に向けられた台詞を、SCP-975-JPの”女将”が語っているのです。つまり"きぃちゃん"、日奉欅とSCP-975-JPの”女将”は同一人物なのです。

「SCP-975-JP - 道を紡ぐ廃忘」は、廃建造物中に現れた扉の先は秋の異空間でそこには屋台を引く"女将"と呼ばれる人型実体がいて‥‥という話です。この入り口は"怪奇部門"を思わせる造りをしており、酩酊街の怪奇部門を意識した作品です。SCP-975-JPーA内部の空間はいわば"プロト酩酊街"といった空間になっています。季節もまだ秋ですし、道と屋台しかなく街というにはほど遠いものとなっています。

SCP-975-JPの”女将”はかつて酩酊街にいましたが、会いたくなるものを思い出して日奉柊から屋台を貰って酩酊街を出てプロト酩酊街に流れ着いた、と「時絡の提言 - 酔醒」で自身の来歴を説明しています。この彼女が会いたくなったもの、ここまでの説明を聞いていたなら分かる筈です。"女将" = きぃちゃん = SCP-461-JP-2なのです。SCP-461-JPの担当博士を彼女はずっと思っていたのです。

最後に

私が"女将"という存在を出したのは2019年8月に投稿した「SCP-975-JP - 道を紡ぐ廃忘」です。この時から"女将" = SCP-461-JP-2という設定は考えていましたが、あまりにも両者を繋ぐには道が遠く、また当時それを語る技量もありませんでした。あれから2年、2021年8月になってようやく"きぃちゃん"というミッシングリンクを生み出すことによって"女将" = SCP-461-JP-2を示すことが出来ました。SCP-461-JPと酩酊街を繋げたTale「並木道のその先から」の著者であるFesさんに、このTaleと繋げる作品をいつか書くので待っていてくださいと言ったこと、彼は覚えていらっしゃるでしょうか?だいぶお待たせしてしまいましたね。

最後に、"女将" = きぃちゃん = SCP-461-JP-2ということを意識して彼女たちの台詞を見てみましょう。

「SCP-461-JP - 隠れ樹」より

████博士: ありがとう。私の名前は████、皆から████博士って言われてるから、博士とでも呼んでもらえればいいよ。君の名前は?
SCP-461-JP-2: ・・・名前かぁ。覚えてないんですよね。

「呪いの夜道」より

「お嬢、名前は何てぇんだ」

少女は少し困った笑顔を浮かべる。

「名前かぁ。覚えてないんですよね」

「SCP-975-JP - 道を紡ぐ廃忘」より

小泉助手: ではまず名前を教えてください。

女将: 名前かぁ。覚えてないんですよね。

彼女はこれまで幾度登場しても名前を付けられることはありませんでした。名前を聞かれても、寂しそうに笑って答えるばかり。「SCP-975-JP - 道を紡ぐ廃忘」で彼女は自身の思いを吐露します。私は何にもない。名前は何なのかも、わからない。そして懇願します。私に何かを下さい、と。名前の無い彼女はこれからどのような道を歩くか、それはまだ示されていません。

彼女の道明かりになることを信じて、今私はここに示します。



彼女の名前は日奉欅です。

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