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雨の音では踊らなくてもお腹は鳴る――痛みにより成長すること Break free starsデューク考察

Break free starsはヒップホップが禁止された世界において、元々同じヒップホップクラブ「ブレークフリー」で遊んでいた仲間だった検察官「ソーマ」とヒップホップを踊ったことが罪として囚われの身となってしまった主人公「アース」を中心とする囚人達の対立と和解の物語である。私は俳優の松田昇大さん目当てで足を運んだので、松田さん演じる「デューク」という役に注目して見ていた。デュークは囚人側のキャラクターとしては珍しく楽しそうな表情を見せる訳ではなく、明るいキャラクターでは無い。それは他のヒップホップ音楽を楽しむ仲間と性格や考え方が違うことの象徴で、序盤雨の音で踊り出す仲間を冷ややかに1人だけ壁にもたれ見ているシーンにも現れている。だが、彼は主要キャラで、この舞台を通して成長していくのだがそれは明らかに「痛み」による成長である。私が思わずクスッと笑ってしまったのはデュークが囚人用の硬いベッドに寝かされて身体が痛いものの、それを認めず「違う違う違う違う……いて」と本音をこぼしてしまい、「ほらほらやっぱり身体は正直」と仲間に言われる場面である。は大抵BLなどで顔を赤らめたりしたせいで好意がバレてしまう場面に使われるイメージだったのでこのシーンのように苦痛の唸りによって苦痛がバレるという風に使われるのが面白くて妙に印象に残っている。もうひとつ、「身体は正直」な場面がデュークにはある。
パンを差し出されたデュークがまた意地を張り受け取ろうとしないもののお腹がなり、結局受け取ってしまうという場面だ。私の見た回のひとつではデュークは目をつむりパンを見ないようにしていた。こう見るとデュークは自分の感情、身体的感覚に対する自覚もしくは表現が乏しいように見える。それはまた彼は他人の痛みにもそうかもしれない。警官に囲まれるシーンでは輪になってお互いを守り肩を組む仲間の輪の中に入り悠然としており肩を組むなどしていない。そんなデュークの1番の見せ場は仲間を助けるために鍵を持ってくるシーンだ。そして、その少し前に彼はブレークフリーが壊されることを知らされている。建物の痛み、仲間の痛みである。恐らく、それが彼の痛みに対する自覚及び他人の痛みに気づかせたきっかけなのだと思う。鍵を持ってくる直前、アースたちは明らかに檻に衝突し、セリフや効果音によりこの舞台で1番ここぞとばかり身体を痛めているのが強調されている。そしてその後、彼は突如として他人の痛みに敏感になる。彼はアースの手錠が引っかかった時に1番最初に駆けつけてる。検察官にアースが反論する場面では『どんな法律にも縛られねぇ心の旋律は止められねぇ』とラップしている。これは今までのデュークが決して言いそうになかった言葉だ。また、檻を登る描写が急ぐ様子を描きながら彼が自身の身体能力を考え仲間を先に行かせ自身は1番最後に昇っている。デュークは雨の音では無く痛みによって成長した、若しくは彼の成長は痛みを象徴して描かれている。

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