魚

宇宙人とチャーハン餃子ネギまみれ

お客様の中で、宇宙人とのおつきあいがある方はいらっしゃいませんか?

宇宙人が出てくる映画や小説、マンガは星の数ほどある。それはつまりみんなが「いてほしい」と願っているからだろう。私だってそうだ。できればいてほしい。できれば友好的で、かつ進んだ文明を持ち、あっという間に地球の科学力を引き上げてくれ、空中に浮かんだ透明なパイプの中を車が走る未来都市にしてくれる宇宙人だ。ヒト型でなくていい。サカナ顔がいい。タコ型ならなおいい。宇宙船に乗ってわかりやすく登場してくれたら、最高だ。

だが一方「そんなもの、いるわけない」と信じてもいる。宇宙人などいない。可能性はゼロではないかもしれないが、私が生きてるうちに出会うのは無理だ。いたとしても、遠い昔はるかかなたの銀河系で戦うのに忙しく、辺境の地球までは来れないと思っている。

ところが世の中には、実にカジュアルに宇宙人との交際をたしなんでいる人々がいるのである。
それは、家の近所で居酒屋に入った時のことだった。

他の街にいる時とは違い、自宅の界隈は半径数百メートル内の選択肢しかないため、他の街なら決して選ばないタイプの店にもチャレンジすることが多い。2周くらい遅れた「かつてのオシャレ店」だろうが、店主のおもしろギャグが店の外にまでベタベタと貼ってある店だろうが、店名が放送禁止用語だろうが、家の近くであればとりあえず入ってみる。その日もそんな「ご近所じゅうたん爆撃ツアー」の一環で、はじめての店に入ってみたというわけだ。

「いらっしゃいませ。お好きなお席にどうぞ」カウンターの中からそう言われた私たちは、奥のテーブルに座った。他のお客は、カウンターに座る常連客らしき男女が5人だけ。常連同士、店主も交えた楽しげな会話が程よく聞こえてくる。聞くともなしに聞いていると、どうやらちょうど私の横に位置する男子Aが、会話をリードしているようだ。

「...でさ、俺のおばあちゃん、逆さまつげのガンを宇宙人に治してもらったんだよね」

え?

待って

今なんて?

逆さまつげは知っている。寡聞にして「逆さまつげのガン」はご存知ないけど、ま、もしかすると、逆さまつげによる炎症から目のどこかに患いができ、それがガンになることも無いわけじゃあないかもしれない。いや、違う違う。そこじゃない。それよりもっと気になる言葉が聞こえたじゃないか。確かに言ったよね?そう「宇宙人」て。

驚いてビールも飲めない私たちを置いて、話はスルスル続いていく。

どうやら彼自身も宇宙人体験は豊富であるらしい。「こないだ山道で迷って車をぶつけちゃったんだけど、宇宙人がすっと手助けしてくれてさー」と、まるで会社の先輩の話でもするかのようなノリで、宇宙人話を繰り出す。

「昔のことなんだけど、宇宙船に乗ったらすっごいキレイでポーっとしちゃってさー」と、高校時代に好きだった子の話をするかのようなノリで、宇宙船について語る。もう私たちは飲み食いするどころではない。いや、それどころか呼吸するのも苦しいほどだ。助けて、怖いよ。もう宇宙人でお腹いっぱいだよ。

さらに聞いているうちに、私たちはもっと恐ろしいことに気づいた。

カウンターに座って話を聞いている他の常連客も、カウンター内から接客している店主らしき人も、誰1人として驚いていないのだ。ふつう隣の客が宇宙人との交際を告白し始めたら、めちゃくちゃ驚くだろう。なのに誰も「え、宇宙人!?」と驚いたり「いやいや、宇宙人なんているわけないじゃん」とさえぎったりしないのだ。みんな「あるある〜」「わかる〜それ〜」とさも当然のことのように、ワイワイと会話しているのだ。

そのうちに男子Bが「俺のときは〜」と宇宙人話に加わってきた。驚いた。この居酒屋には宇宙人と話したことのある人間がもう1人いたのだ。もちろん周囲は相変わらず「だよね〜わかる〜」と通常運転だ。さらに女子Aが「私じゃないんだけどうちの姉が〜」と、参戦し始めた。いったいどうなっているんだ。私が知らないだけで、宇宙人はすでに来てるのか。インバウンド市場はそこまで広がっているのか。

 ◇

そこから先のことは、あまりよく覚えていない。その夜は何を食べたのか。どうやって帰ったのか。そもそも、そんな和気あいあいの話をさえぎってまで、どのタイミングで「すみません、お勘定お願いします」と店主に声をかけたのか。私の口がそう言ったのか。いったいそんなことができたのか。

しかしこれだけは言える。宇宙人はい...いや、宇宙人居酒屋は確実に存在する。あの店内で異邦人だったのは、明らかに我々の方だった。いや異邦人じゃない、異星人か。それか「異世界に転生したら宇宙人と付き合うのが当たり前だった件」かもしれん。ともかく異世界への入り口はけっこう身近にある。覚えておいてほしい。

さて宇宙人の話ばかりしていたら、タコが食べたくなったことだろう。タコはいい。タウリン豊富だし、太らないし、なおかつ美味しい。私はタコが大好きだ。結婚するたび相手の人が「タコ好きだよね」「タコ、よく買うなあ」「またタコですか」と評することでおなじみってくらい、タコが好きだ。

名古屋でやっていた飲食店では、タコがいつでもオススメだった。東京では無名かもしれないが、三河湾のタコは本当に美味しいのである。

昔は自分で茹でていたが、今近所のスーパーではめったに生タコは売られてないので、茹でたものを買ってくる。ゆでダコはいい。切るだけで食べられるし、太らないし、美味しい。普通のお刺身みたいにワサビ醤油で食べてもいいのだが、私のオススメをいくつか紹介しよう。

【タコのネギまみれ】

ごま油と、ほんの少しの塩。そしてたっぷりのネギとサクサクあえるだけ。1分で出来る。ネギをパクチーやシソの千切りに変えてもいいし、バジルとオリーブオイルにしてもいい。プランターにパセリがあればそれでもいい。タコの赤っぽい皮と白い身、緑の野菜の色彩が実に映える。辛いのが好きならラー油をあとがけで。

【タコ三つ葉チャーハン】

卵とご飯を炒めたら、最後に三つ葉のざく切りと、適当な大きさに切ったタコを加えるだけの塩味チャーハン。このチャーハンには紅ショウガがめちゃくちゃ合う。ネギでもいいがあえて三つ葉を使うのは、紅ショウガ+タコ+卵+三つ葉の組み合わせが、ほんのり明石焼きを思わせるからだ。市販のゆでダコはけっこうピンキリで、美味しいものとまずいものの差が激しいのだが、そのまま食べるにはイマイチなタコを買ってしまった時もチャーハンならイケる。

【タコ餃子】

店で出していたタコ料理の中で、個人的に最も気に入っているものだ。うちでよくやるのは「セロリとタコの餃子」と「トマトとタコの餃子」である。画像はセロリタコ餃子。いつもと同じように餃子の中身を作ったら、そこにタコを入れるだけでいい。タコは5ミリ〜1センチくらいが食べやすく、歯ごたえがあっていいと思う。

   ◇

宇宙人居酒屋は今どうなっているのか。ストリートビューで探したが、どうも建物ごとなくなっているようだった。ただもっと深く検索すれば、どこかに記憶の残滓くらいは残っているかもしれない。名古屋の名東区、一社の駅近くにあったあの店...ええと...あれ、ええと、店名が出てこない...

はっ...もしや宇宙人が記憶を

めちゃくちゃくだらないことに使いたいと思います。よろしくお願いします。