生姜焼き定食

引っ越す前に買っておくべきアレとあれ

3月である。春である。春は出会いと別れの季節である。

今月は引越しする人も多かろう。進学や転勤による引越しで、うちのマンションもスコッと3部屋ほどいなくなってしまった。少しだけ仲良くしていた隣の隣の若夫婦は、なんと高知への転勤が決まったという。それを聞いたとき、私はどうしてもこの若夫婦に伝えたいことがあると思った。お前が引越しをする前に、言っておきたいことがある。かなりきびしい話をするが、私の本音を聞いておけ、と真剣な顔をした。

今からよその土地へ移るみなさんも、真剣に聞いてほしい。

今の土地で醤油を買ってから引っ越せ。

自炊派なら、味噌も必ずだ。

長崎から千葉、東京から三重県、名古屋、そして東京へ戻ってきた私にはわかる。日本は狭いが、味の幅は広い。ナショナルブランドは数々あれど、その土地で1番強いのは、大抵がローカルブランドだ。特に醤油と味噌に関してはその傾向が強い。今自分が使っている調味料が、引越し先でもふつうに買える保証はどこにもないのだ。

数ある調味料の中で特に醤油と味噌に違和感があることは、日常生活をかなりむしばむ。日本人の食生活は、醤油と味噌が大きなウエイトを占めているからだ。

魚が美味しい街に転勤した!やった!寿司食べ放題だ!と喜んでいた友達が「醤油が甘くて寿司が食えないんだ...」と泣いていたこともある。転勤先でもラーメン道を極めるぞ!と勇んでいったものの「醤油ラーメンがくさいから」とすっかり塩ラーメン派になった知り合いもいる。街中どこにも逃げ場がない。どの店に入ろうと、どの家で食べようと、自分の好みではない味噌と醤油がお待ちかねだ。冷ややっこですら食べられなくなる可能性がある。

これは「どちらの醤油が上か」という話ではない。慣れ親しんだスタイルと微妙に違うものを、強制的に摂取させられるストレスと向き合う話なのだ。ぴっちりトランクスが好きな人に「この土地じゃ、ふんわりトランクスしかありえないから」と、ゆるゆるした下半身を強制する話なのだ。しかも大抵の場合、四面楚歌。味方はいない。

唯一の逃げ道は、キッコーマンだ。なぜかキッコーマンは、どんな辺鄙な土地でも売られている。キッコーマン派なら、どこへいっても困らない。常日頃キッコーマンを使っている人だけが、どこへ行っても日常を送れる。だがそれ以外はしのごの言わず、ただちに今使ってる醤油を備蓄用に買っておくこと。どんなに新世界が辛くても、いつもの醤油があれば落ち着くことができる。間違いない。

自炊派でなかったとしても、味噌を買っておくのはオススメしたい。キッコーマン同様、シェアNo.1のマルコメなら、比較的入手しやすいかもしれない。だがそれ以外の人は「まっっっっっっったく好みに合わない味噌汁しか選択肢にない地獄」を覚悟しておく必要がある。世の中には「黒い味噌しかない地獄」とか「甘い味噌しかない地獄」があるのだ。泣きたくなければ、今すぐ味噌を買いに走るがいい。

ちなみに我が家は「え、信州以外でも味噌作ってるの?なんで?信州味噌があればそれでいいじゃん。信州味噌が1番美味しいんだし」てな信濃国粋主義者のオットと、知らん顔して長崎の甘い味噌をチョイチョイ使う私との攻防が続いている。たまに「...甘い」とイヤな顔されるけど、しょうがないじゃない。甘い味噌がDNAに刻まれているんだもの。

こちらは私のデフォ醤油、長崎のチョーコーブランドだ。現地でのシェアは、8億%。もちろんデフォ味噌もチョーコーで、現地では10兆%のシェアを誇る。スーパーのひとつの棚がすべてチョーコーだなんて、珍しくもなんともない。そんな土地で「醤油はイチビキだ!」「いいや、ワダカンだ!」と叫んでも、誰も聞いてくれないのである。

だからね、悪いことは言わない。
引っ越す前に、醤油と味噌は買っておけ。

めちゃくちゃくだらないことに使いたいと思います。よろしくお願いします。