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男のカメラには遺体写真が何枚も…「現場に週2、3回通い興味本位で撮影した」|豊川・下呂連続猟奇殺人事件・後藤明弘

2011年4月、岐阜県下呂市で女性の白骨遺体が見つかった。捜査線上に浮かんだ元同僚の後藤明弘は、2006年発生のベトナム人女性殺害にも関与しているとの容疑がかけられ、逮捕される。所持していた携帯やカメラには、遺体を写した画像が残されていた……。
週刊誌記者として殺人現場を東へ西へ。事件一筋40年のベテラン記者が掴んだもうひとつの事件の真相。報道の裏で見た、あの凶悪犯の素顔とは。

「すべてやっておりません」

 2011年4月9日、岐阜県下呂市の県道脇に車載用の三角表示板を通行人が見つけた。そこに貼り付けられたコーヒーフィルターには「白骨遺体がこの下にあり。110番通報願う」と書かれていた。その一週間前には匿名の男から「遺体がある」との謎の通報があった。
 県道下の山林から、高山市内に住むコンビニ店員・長瀬まゆみさん(44)のほぼ白骨化した遺体が発見された。3月8日から長瀬さんの行方が分からなくなっていた。捜査線上に浮かんだのは、長瀬さんと同じコンビニの同僚で、親しかった後藤明弘(46)だった。岐阜県警担当記者の話。
「後藤は、県道のメモ書きや『遺体がある』と下呂署に通報したことは認めたが、長瀬さんの死体遺棄は否定した。捜査の中で、後藤のDNA型が、愛知県豊川市で殺害されたベトナム国籍女性のアパートに残っていたものと一致した」

豊川と下呂の2事件で逮捕された後藤明弘。
殺害遺体を傷つけ内蔵を撮影するなど、遺体に対して異常な執着が窺える

 2006年7月、豊川市のアパートに住む自動車部品工場の派遣社員レ・ティ・リーさん(24)の他殺体を友人が発見した。死因は首を絞められたことによる窒息死。頭には鈍器で殴られた痕があった。リーさんの遺体に付着していた唾液が後藤のものと一致、8月6日に殺人容疑で逮捕された。
「後藤は犯行を認めたが『被害者と面識はない』と供述している。事件当時の後藤はトラック運転手で、休憩中に立ち寄っていたオートレストランからリーさんが住むアパートは丸見えだった」(捜査関係者)
 後藤の自宅から押収された携帯電話からは、被害者と見られる遺体の画像が保存されていた。事件に猟奇性が漂ってきた。8月8日、わたしは豊川市に入った。現場アパートは建て替えられ、オートレストランも無くなっていた。後藤の自宅がある高山市に向かった。

 後藤明弘は母親の実家で独身の兄、弟夫婦とその子供らと同居していた。小中の男子同級生は「2クラスしかなかったが、あいつの記憶がない。中学では卓球部だったようだ」と語った。後輩だという女性は「キモイの一言。挨拶しても無視するし、当時から変な人でした」と眉をひそめた。
 後藤が長瀬さんと出会うことになったコンビニ店で働き始めたのは3年前の6月だった。後藤は24時から9時までの深夜勤務。店長が印象を語った。
「無駄欠勤もなく、性格は穏和でトラブルはなかった。長瀬さんが遺体で発見されたあとも後藤に変わったこともないし、至って普通でした」
 長瀬さんは1年半前にアルバイトとして入店。勤務時間は7時から9時までで、後藤とは勤務が2時間重なっていた。主婦の長瀬さんは早朝しか勤務ができなかったのだ。長瀬さんの実家がある奥飛騨を訪ねた。知人が言う。
「彼女には前夫との間に子供もいましたが暴力や借金で悩み、その相談をしているうちにデキたそうです。親子ほどの年の差に、両親は再婚を認めませんでした」
 実母は目を潤ませ語った。
「何があったのか早く知りたい。何であんな奴について行ったのか……。わたしの教育が悪かったのでしょう」

 2013年2月、初公判が岐阜地裁で開かれた。検察側は冒頭陳述で、後藤のデジタルカメラから長瀬さんの内蔵が写った写真データが見つかったことを明かした。後藤は「すべてやっておりません」と長瀬さん事件の起訴内容を否認、無罪を主張した。司法担当記者が語る。
「リーさん事件の公判では後藤が暴行目的で侵入、殺害後遺体を切り裂いて撮影。その画像に犯行の様子を記したコメントを付けて保存されていたことを明らかにした。法廷のモニターに遺体映像が流れ、女性裁判員が卒倒し審理が中止になりました」
 後藤は、長瀬さんの遺体撮影について「現場に週2、3回通い興味本位で10枚撮影した」(司法記者)と語った。
 2014年3月、リーさん殺害で無期懲役、長瀬さんの傷害致死で懲役12年の刑が確定した。長瀬まゆみさんの死の真相は謎のままだ。

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小林俊之(こばやし・としゆき)
1953年、北海道生まれ。30歳を機に脱サラし、週刊誌記者となる。以降現在まで、殺人事件を中心に取材・執筆。帝銀事件・平沢貞通氏の再審請求活動に長年関わる。