２００９年１０月、千葉県松戸市のマンションから出火し、女子大生が全裸遺体で見つかった。直後に逮捕された男が語ったのは、女性への執着と尽きることのない性欲だったーー。
週刊誌記者として殺人現場を東へ西へ。事件一筋４０年のベテラン記者が掴んだもうひとつの事件の真相。報道の裏で見た、あの凶悪犯の素顔とは。

欲望の塊

　千葉県松戸市内のマンションに住む千葉大学４年生の荻野友花里さん（２１）の部屋から煙が上がったのは、２００９年１０月２２日の午後８時半。焼け跡からは刺殺された全裸の友花里さんが発見され、傷は深さ１１センチにも達する惨いものだった。
　部屋には財布や現金２万円が残され、友花里さんが上野のキャバクラで働き、その交友関係の広さから「交際のトラブル」と連日ワイドショーで取り上げられた。 わたしは彼女の実家がある兵庫県加古郡に飛んだ。高校の同級生が目を潤ませ語った。
「成績はトップクラス。体育祭で応援団長を勤めるなどリーダー的存在でした」
　事件から３ヶ月後の翌１月２７日、友花里さんのキャッシュカードでＡＴＭから現金２万円を引き出した窃盗容疑で竪山辰美（４８・当時）が逮捕された。千葉県警担当記者の話。
「竪山は１１月２日に印旛郡の民家に侵入、１７日に強盗強姦未遂の容疑で逮捕されていたのです。竪山がＡＴＭに写っていた男に酷似していたため追及したところ、現金を引き出したことを認めたのです」

　竪山辰美は１９６１年に鹿児島で生まれる。早くに両親と離別、児童自立支援施設や少年院で過ごしたという。その後、千葉県に移り家庭を持った。当時を知る男性が語る。
「成田市の県営住宅に住み、子供が３人いましたが上の２人は奥さんの連れ子でした。子煩悩で、子供たちとよく公園で遊んでいました。でも７年ほど前、急に竪山さんの姿が見えなくなったのです」
　２００２年４月、竪山は神奈川県海老名市のアパートに侵入、看護師の女性（２２）を殴り現金６万円とキャッシュカードを奪い強盗傷害容疑で逮捕された。懲役７年の刑で北海道の刑務所に服役、９月に出所した竪山は荒川区のサウナを根城に凶行を重ねた。社会部記者が言う。
「２ヶ月の間に４カ所で女性を襲い約８０万円を強奪、キャバクラなどで豪遊していた。また、犯罪の手口が上智大生殺害事件に似ているので注目されました」
　１９９６年９月、東京都葛飾区の自宅で上智大生小林順子さん（２１）が殺害放火された事件の犯人は未だ検挙されていない。父親の小林賢二さんも「松戸と葛飾は約３キロの距離。被害者の年齢が同じで放火するなど類似点が多く気になります」と私に語った。

　竪山は、２月１７日に友花里さんの殺人容疑で再逮捕された。その２日後の１９日、窃盗容疑で逮捕されたＡさんは松戸署で竪山と同房になった。Ａさんが語る。
「竪山は連日調べがあったので会話は朝と夜だけでした。ほとんどが女の話なのです。『俺は女と喋るのが一番好きなんだ。女好きの変態だ。俺の接見禁止が取れたら彼女を連れて面会に来い』と言われました」
　プライベートは一切喋らなかった竪山だが、４日目に友花里さん殺害事件を自ら語った。
「金を盗ろうと部屋に入ったらその子が帰って来ちゃった。向こうが泣き叫びながら包丁を振り回してきたんだ。もみ合ううちにやっちゃったんだよ」
　暴行はしていないのかと聞いたＡさんに「それはやっていない。その子から俺のＤＮＡは出ていない」と淡々と語ったという。
「運動場で他の房の人が『柴又の事件はどうなの』と聞くと『あれは違うよ。俺じゃない。そのことは全部警察に話している』と否定していました」
　竪山を一言で表現すれば「欲望の塊」とＡさんはこんなエピソードを披露した。
「『オッ、朝立ちしたぞ』とパンツを下げ、勃起した股間をわたしは２回も見せつけられました。『仕事をするのは面倒くさいが女とやるには金がいるので出所したらまた（強盗を）やる』と真顔で言っていました。こんな男は死刑になって罪を償うしかありません」

　２０１１年６月３０日、千葉地裁は竪山辰美に死刑を言い渡した。殺害被害者が１人で死刑判決は、裁判員裁判では２例目だった。しかし、２０１３年１０月８日の控訴審で市民が判断した「死刑」を破棄し無期懲役とした。２０１５年２月、最高裁は上告を棄却し、無期懲役が確定した。