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【写真家・近未来探険家 酒井透のニッポン秘境探訪】茨城県日立市・日本最後の『架空索道(かくうさくどう)』

 2019年3月、日本国内から鉱石などを運搬していた架空索道(かくうさくどう)が消えてしまった。索道と言われても「なんじゃそりゃ!?」、「そんなの知らな~ぃ」となるだろう。無理もない。普段の生活で見ることはできないのだ。

 索道というのは、空中に渡したロープに輸送用機器を吊り下げて、人や貨物を乗せて輸送を行う交通機関と思えばいい。ロープウェイやゴンドラリフト、スキー場などのリフトなどもこれにあたる。

 茨城県日立市に本社を置く日立セメント株式会社(ひたちセメント)大平田鉱山にあった索道は、セメントの原料である石灰石を工場に搬出するために使われていた。同社がセメント生産から撤退することによって運用が終了している。

 取材に行ったのは、同年の3月中旬になったが、まだまだ元気な姿を見せてくれた。最後の”勇姿”をカメラに収めるためにやって来たカメラ愛好家の方々や鉄道マニアの姿もあった。

「日本で最後まで残されていた索道がなくなってしまったことは寂しいですね。設備関係が好きで日本中を回っています。日立では、現地をよく知っている方と回りました。ポイントポイントで石灰石を運んでいるところを映像に収めることができましたね。貴重な記録になったと思います」(会社員で廃線マニアの歩鉄の達人さん)

 取材当日、現地では、様々な角度から写真を撮ったが、索道というのは、とてもカワイイものだと思った。ゴンドラが真上を走り抜けて行くときは、「シュィィィ~~ン」という耳障りのいい音を響かせてくれたし、何らかの作業をしていたのか、「ピタッ」と止まったときは、大人しくしていた。海を見ていたのかも知れない。1台1台は、とても小さい。索道は、ちょっとした心の安らぎを与えてくれる存在だった。

写真・文◎酒井透(サカイトオル)
 東京都生まれ。写真家・近未来探険家。
 小学校高学年の頃より趣味として始めた鉄道写真をきっかけとして、カメラと写真の世界にのめり込む。大学卒業後は、ザイール(現:コンゴ民主共和国)やパリなどに滞在し、ザイールのポピュラー音楽やサプール(Sapeur)を精力的に取材。帰国後は、写真週刊誌「FOCUS」(新潮社)の専属カメラマンとして5年間活動。1989年に東京・埼玉連続幼女誘拐殺人事件(警察庁広域重要指定第117号事件)の犯人である宮崎勤をスクープ写する。
 90年代からは、アフロビートの創始者でありアクティビストでもあったナイジェリアのミュージシャン フェラ・クティ(故人)やエッジの効いた人物、ラブドール、廃墟、奇祭、国内外のB級(珍)スポットなど、他の写真家が取り上げないものをテーマとして追い続けている。現在、プログラミング言語のPythonなどを学習中。今後、AI方面にシフトしていくものと考えられる。
 著書に「中国B級スポットおもしろ大全」(新潮社)「未来世紀軍艦島」(ミリオン出版)、「軍艦島に行く―日本最後の絶景」(笠倉出版社 )などがある。

https://twitter.com/toru_sakai