高度経済成長期の痕「オートレストラン」の巻【ヤスデ丸の1万逃歩日記 #6】
なかなか運動する機会もないため、毎日1万歩は歩くように心がけている編集部員ヤスデ丸(27歳・独身女性)。健康増進というだけでなく、散歩は日々の現実逃避にうってつけ。その道中で見たもの聞いたものは、こんなもの──
この日は友人の誘いで展示を観に群馬県館林市へ。前回の日記も群馬だったし、先週載せた「アダルト保育園」があるのも群馬だし、何かと群馬に縁があるみたい。
クレイジージャーニを見たことある人にとってはお馴染みらしいが(私はほぼ見たことない)、佐藤健寿という写真家の展示が群馬県立館林美術館で行われた。
来場者は中年夫婦から20代のカップル、小さな子どもを連れたファミリーまでさまざま。客の風体と飛び交う単語から雰囲気を察するに、サブカルクソ野郎よりも意識高い系の客が多いことが伺える。クレイジージャーニっていうから、ピチピチのシャツを着た体のでかい禿頭の人とか、顔中にヒゲを蓄えたベスト姿のオジサンとかが来てるのかと思った。
よく考えれば、そんな人は県立美術館なんかには行かない。錦糸町の居酒屋で1円フライを食べたり、田原町の韓国料理屋でひとつまみのアミエビをアテにホッピーを飲んだりしている(マッコリではない)。
展示自体はまあまあ面白かった。世界中の奇妙な風習、珍品、稀有な建造物や自然現象の写真の数の多さには驚いた。が、全体的に、よりアーティスティックに魅せるような構図に収めた印象も強い。どちらかというと、テーマごとの解説文にややクセがあって、後半はそれを読むことが楽しみになっていた。
一番面白かったのは、展示中盤でめちゃめちゃ臭い屁をした客がいたこと。27歳にもなってどうかと思うが、やっぱり屁とかウンコって未だに面白い。特に、意識高めの洗練された人らがキレイな服を着て、ウンチクを垂れ流しながしているときの放屁は最高でしかない。
数年前、祖父の葬式で知的障害の親戚が木魚に合わせて凄まじいヘドバンをかましていたときに、涙で肩を震わせるフリをして笑いを堪えていたことを思い出す。
料理にとって空腹が最高のスパイスなら、笑いにとっては張り詰めた空気がそれな気がする。
その後、我々は敷地内の人工芝の間に流れる川の水面をツーーと滑るアメンボたち、その上空で交尾をするギンヤンマを観察し、美術館を後にした。
車に戻り、友人がナビにどこかの住所を入力する。
「行きたいところあるんだけど、行っていい?」
友人の運転する車に揺られて20分ほど、着いたのは明らかに廃墟化している施設。
まだコンビニや深夜営業の飲食店が広く普及する前の70年代後半に隆盛を極めた「オートレストラン」である。
高度経済成長期後、長距離ドライバーたちの簡易的な食事処として利用されていたオートレストラン。ここ数年の食べ物自販機ブームに乗じてメディアがピックアップすることもしばしばあるが、そのほとんどは閉店し、自販機は回収されることなく、ガランとした屋内に佇み続けている。
意外にもすべてが閉店しているわけではなく、ゲーム機やパチンコ台が併設された施設は細々と営業している模様。
そして行き着いたのは「オレンジハット沖之郷店」。友人いわく「オートレストランを残すために精力的に宣伝活動をしている」らしいオレンジハットは、令和唯一といえるオートレストランらしいオートレストラン。
中に入ると、パチスロ台を囲む50、60代のおじちゃんたち。目当てのレトロ自販機も稼働中! さっそく食べてみることに。
全部予想外にちゃんと美味いが、いずれも300円超とコスパがいいのかは不明。しかし、パチスロ台にしがみつくオジサンを横目に、カップヌードルをすする小太りの中年カップル(ラブホ帰りかもね)とともに食べるホットスナックからは、何やら昭和後期~平成初期の香りがする。いずれの時代も知らない私からすると、ちょっとしたタイムスリップ気分で、なんだかオツな気がしないでもない。
そこそこ腹も満たされたところで、次に向かうのはオレンジハットからほど近い、「日本のブラジル」こと群馬県邑楽郡にある大泉町。友人にブラジルハーフが多いためしばしば話は聞いていたものの、実際に行くのは初めて。
てことで次回は大泉編!
>>後編