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愛なき結婚の末に夫の首を切り落とした美人妻の本性は「見栄っ張りの成金」|セレブ妻バラバラ殺人事件

2006年12月16日、東京・西新宿の路上で、同28日には渋谷区内で、上半身と下半身に切断された男性の遺体が見つかった。男性を殺害し切断、遺棄したとして逮捕されたのは、被害男性の妻だった……。
週刊誌記者として殺人現場を東へ西へ。事件一筋40年のベテラン記者が掴んだもうひとつの事件の真相。報道の裏で見た、あの凶悪犯の素顔とは。

やられたら、やり返す

 2007年は、相次ぐ猟奇殺人で年が明けた。1月3日、渋谷区幡ヶ谷の歯科医師宅で短大生の長女(20)が十数カ所に切断、ビニール袋3つに分けられ見つかった。遺体から乳房や下腹部を切り取ったのは、予備校に通う実兄(21)だった。
 一週間後の10日、そこから僅か1500メートルしか離れていない渋谷区富ヶ谷のマンションに住むK(32)が、夫のYさん(30)を自室で殺害、ノコギリで遺体を切断、都内3カ所に遺棄した疑いで逮捕された。家族の殺害事件は珍しくはないが、身内を切り刻む行為に世間は驚愕した。バラバラにした2人の理由は同じだった。「遺体の処理に困った」から。

「ふつふつと怒りがわき、別れるだけじゃ済まされないと思い、眠った夫の頭をワインボトルで殴った」
 こう殺害動機を語ったKがYさんと出会ったのは02年11月、東京・高円寺の焼鳥屋での合コンだった。翌年3月には入籍している。Yさんの知人が語る。
「Yの一目惚れでした。実は“できちゃった婚”なんですが、家計の問題でKさんは無断で堕胎したそうです」
 Yさんは出産を希望していたというから、2人の歯車が狂いだした最初の出来事だったのかも知れない。当時のYさんは弁護士を目指し定職がなかった。だが見栄っ張りのKは「弁護士と結婚した」と友人に吹聴していた。弁護士を諦めたYさんは05年、米大手の投資金融会社モルガン・スタンレーの関連企業に就職した。
 収入が増えた二人は家賃20万円のマンションに転居。ブランド品で身を包んだ180センチと170センチの長身カップルが愛犬を連れ、井の頭通りを散歩する姿にすれ違った人は思わず振り返ったという。セレブ生活を謳歌していたはずのKはこの年、渋谷のデパートで5万6千円の洋服を万引きしようとして書類送検されている。捜査関係者の話。
「激怒したYさんと諍いが絶えなかったようだ。6月にはKの鼻の骨を折るほどの暴力をふるっている」

 06年11月、Yさんは結婚を考えるほどの女性と合コンで出会う。先の捜査関係者が続ける。
「浮気の証拠をつかんだKのプライドは傷つき、さらに離婚を迫られ殺意を抱いた」
 12月12日午前4時、酒に酔ったYさんが帰宅。激しい口論のあとリビングで寝入った夫の頭に、Kは白ワインのボトルを振り下ろした。
「夫との争いに決着がついた。今はよく眠れる」
 逮捕後、そう捜査員に供述したKの生い立ちを取材するためわたしは逮捕翌日、上野発とき351号に乗り新潟へ向かった。暖冬で雪が全くない市内をレンタカーで走り回った。Kの実家は、近くに新潟大学がある閑静な住宅街にあった。主婦の話。
「Kちゃんは小さいころからスチュワーデスになりたいと言って英語を勉強していました。目標に向かって突き進むお子さんでしたね。誰もが知っている大きな会社に勤めている、とお母さんが言っていたので、今回の報道で派遣社員と聞いてアレッと思いました」

誰もが羨むセレブ生活 に裏には、虚飾にまみ れた実態があった

 父親は新潟市内でコピー会社を経営、裕福な家庭に育ったKは恵まれた少女時代を送った。
「親父は他にも車のディーラーをやっていた。景気もよかったが、見栄っ張りで成金。Kの性格は親父に似たのだろう」(地元住民)
 通っていた新潟中央高校(女子校)の同級生もKの性格をこう証言した。
「当時から背が高くて美人でしたが、他人を見下すところがありました。ヴィトンやハンティングワールドなど、ブランド物のバッグを平気で学校に持ってきました」
 翌年12月20日から東京地裁で公判が始まった。Kの愛人が「結婚前の4年間、家賃16万円5千円を負担していた」と法廷で証言、セレブの虚飾が次々と剥がされた。2010年、懲役15年が確定した。
 未来の凶行を予言したかのように、小学校卒業文集でKはこう書いた。
「わたしはとても勝ち気な女の子です。何かやられたらやり返す」
 底なしの漆黒の業は、鎮まったのだろうか。

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小林俊之(こばやし・としゆき)
1953年、北海道生まれ。30歳を機に脱サラし、週刊誌記者となる。以降現在まで、殺人事件を中心に取材・執筆。帝銀事件・平沢貞通氏の再審請求活動に長年関わる。