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架空の文章例2021:1

本格的にグミで毛穴を作ることに注力しよう。そう言って私と力強く拳を突き合わせようとしてきた彼に異論は無かった。軽く話をきいてみたが、かなり建設的な内容だと感じた。彼の提示してきた代替案9とは、先日偶然インターネット紀行をしていた際発見した闇サイトで入手した皮膚キットを用いてグミを作り、グミを用いて毛穴を構成したのち、その毛穴に化粧水を流し込んで、最終的には浸透していく様子を撮影したいという内容であった。注文から数日後、届いた皮膚を確認すると、あのサイトの怪しさの割に案外皮膚っぽいなとは思ったがそれは誰が見ても完全に1ペアのニップレスだった。この男は一般的なセーラー服の上下をトレードし、一方をランドセルに、もう一方をローファーに改造して着用する熱帯魚屋である。彼は毎年開催される『菅原自由研究発表会』に関してだけは、日頃の入浴よりも熱量をかけて挑むのである。『菅原自由研究発表会』は一応コンテストであり、優勝した者は、プリントクラブにより撮影された自画像をプリントしたTシャツを販売する権利を獲得し、販売の売り上げを独占できるという報酬が用意されてきたが、当該グッズに対して毎年のように参加者が不満を連ねていたり、完全に無視するなどといった行為が絶えなかった。その原因を探るべく2週間前、ふと思い立って街の大きなスーパーマーケットの入り口のリサイクルボックス横に『お叱りの声ボックス』をひっそりと設置してきたものの、翌週回収しに行った際には、なんと外まで『お叱りの声』が溢れ、辺りに散乱していたのであった。こんなにも多くの『お叱りの声』が短期間に集まるとは思えず数分突っ立って考えていたところ、駐車場精算機の側に置いてある明らかに座用目的でない石の近くに集まっていた奥様方が、これに3人で座るには一体どうしたらいいかしらねえ!と騒いでいたと思ったらいつのまにかこちらに近づいてきていたらしく、私は忽ち囲まれてしまった。これは叱られると思い多少縮こまっていると、彼女達は私にボックスの諸注意文に問題があったという情報をよこし、直ぐに散っていった。どうやら「注意!一文字ずつ別の紙に書いて投稿すること。」などと書き加えられていたようで、しかもどういうわけか皆がこれに素直に従ったことにより発生した光景が目の前のそれなのだということがはっきりとしてきた。私にはこの惨状を片す責任があるし、皆様の勇気あふれる『お叱りの声』をこのまま解読しないわけにはいかないという気持ちになり、18年間乗り回している赤い芝刈り機のカゴに全ての『お叱りの声』を詰め込んで家に持ち帰った。筆跡などの推測を立てつつ文章を組み立て、私は遂に『お叱りの声』の解読に成功したのである。今回の『お叱りの声』はほぼグッズに対する不満、投函者全員が、「ダサい。」という旨の内容を連ねていた。参加者のグッズに対する異様な評価の低さ。グッズの売り上げはほとんどゼロに近く、何かを生成してもそれがプラスにならない、という事象が少なからず昆虫の世界にも存在しそうだなと思い、この瞬間、何となく左半身が騒いだので、只今より昆虫の図鑑を隅々まで読んで学ぶことを決意した。そもそも『菅原自由研究発表会』というのは、会場設営等などは必要ではなく、彼自身がインターネット上に所有する数千ものアカウントを駆使して成り立っている"ヤラセ"の行為を指しているのである。その"ヤラセ"を作品として発表し、彼のうちから1人が優勝する。優勝という華やかな事実は"ヤラセ"であり、彼の作品の一部に帰属する。勿論、著者である私もまた、彼に帰属しているのである。

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