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青の彷徨  前編 21

 二人が露天風呂を出て、家に入ろうとした時、ニッサンローレルが駐車場に入ってきた。
 「ノッピ、あれ梅ちゃんだよ。協和製薬の」
 「そう、もう一人いるわよ」
 梅ちゃんと一緒に降りたのは、大日製薬の今村裕史だった。二人とも福岡だから、乗り合せて来たのだ。
 「師匠、おめでとうございます」
 今村裕史が走ってきた。
 「師匠って誰?」
 ノッピが聞く。
 「おいその師匠は止めてくれ」
 周吾は今村裕史に言う。
 「いえ師匠は師匠ですから」
 「蒼井さん、おめでとうございます」
 梅木康治が顔を近づける。
 「ありがとう」
 周吾はノッピに二人を紹介した。
 二人ともどこかで見たことがあるような、と言った。
 「それはまあ後にして」
 とノッピが、
 「なぜアオのこと、師匠、って言うの?」
 「新人の営業で外回りを始めた時から、師匠によくしてもらっています。訪問する相手が何を待っているのか、師匠はそれを的確に教えてくれます。初めて営業した時は、社内教育で受けた内容の繰り返しでしたが、実際は一軒一軒みんな違うし、こちらがこれを勧めたいと思っても、相手の望むものが読めないと、自分を信頼してもらえません。信頼してもらえない営業なんて糠に釘です。師匠はそれを教えてくれました。それに師匠は、メーカーは自社品に特価することは当然だけど、他社品を非難したり、排除するのは、絶対にしてはいけない、と言われます。なぜならいま処方されている薬剤は、その先生が患者のために最高の処方と思ってだしているのですから。頭から否定してくる営業を信じるはずがありません。同種同好品なら、薬剤の有意差や効果比較で選択されるというより、営業にくる人柄の信用度によって選択される割合が多いと、自分を覚えてもらって、選択の土俵に乗せてもらうことをまず考えなさい。師匠にこう教わりました。そのとおりだと思っています。僕にとっては、メーカーとか卸とか、そんな垣根のない、人としての師匠です。ほんとうに助けられています」
 「梅ちゃんとこは、奥さん順調?もうそろそろじゃない」
 周吾が梅木康治に聞く。
 「それがさ、先月二四日、ぽろん。できた」
 梅木康治が答える。
 「生まれたの、それはおめでとう。で、どっち?」
 「黒なすび」
 「黒なすび?」
 ノッピが声をあげた。梅木康治が笑う。
 「はい、あそこにちっちゃい黒なすびがついていて、これで黒なすび二つになりました
 「男二人か、いい兄弟になるといいな。それで誰か見てくれる人はいるのか。今日誘ってまずかったか」
 「いえ女房のお母さんが来てくれていますから、私はいない方がいいんです。三連休ずうっと、ここに居たいくらいです」
 ノッピが声をあげて笑った。四人で中に入り、和室を男に使ってもらおうと説明すると、了解、どこでもいいよ、だった。やがて、キョーシンの和田昇と薬師寺が別々の車で同時に着き、すぐ後から太陽会病院の千葉陽子と小野智美が乗り合せて来た。女性二人も部屋に荷物を入れ、居間に座った頃、最後の二人が同時に着いた。まだ五時前だった。男四人は露天風呂に行き、ノッピは女たちに手伝って貰いながらご飯や鍋の用意を始めた。いろりには炭も赤く燃えていた。
 全員が揃って、貸し切られた古民家のいろり端で、静かに披露宴が始まった。新郎新婦手作りのもてなしを堪能してもらうよう、周吾が簡単な挨拶をし、周吾が周吾の友人を、ノッピがノッピの友人を紹介した。周吾とノッピは二人がどうして夫婦となったか。馴れ初めを隠さず話した。ノッピをどこかで見たことある、と思った梅木康治も今村裕史も納得した。和田昇と薬師寺尚哉は初耳だった。
 ノッピの友人で歳生会病院の榎裕子は、キョーシンの和田昇が何度も面談したことがあるそうだ。また別府山手病院の後藤倫子には、梅木康治が何度もお邪魔をしている。太陽会病院は誰も担当ではなかった。一番若いのが薬剤師の小野智美だ。今年新卒で入ってきた。一年上が大日製薬の今村裕史。協和の梅木康治とキョーシンの和田昇は同じ年で二八。薬師寺尚哉と周吾は三十。ノッピと榎裕子、後藤倫子は三一。千葉陽子は三二だった。独身者は今村裕史に小野智美、それに別府山手病院の後藤倫子だった。榎裕子は医師同士で結婚し二人とも日田に住んでいる。子供一人いるそうだ。
 後藤倫子は別府山手病院に勤めているが、実家は宮崎の高鍋だという。高鍋で後藤病院をやっていると言う。それを聞いた和田昇が、この三月まで訪問していたこと、院長はまだお元気でやっていることなど話した。キョーシンの薬剤も随分たくさんお世話になったと言った。後藤倫子はその病院を継がないといけないので、今度見合いをしないといけないと言った。
 千葉陽子は、夫は県庁に勤めている役人だそうで、子供がまだできないらしい。梅ちゃんは黒なすびが先月できたことを話し、みんなに祝福された。
 薬師寺尚哉はキョーヤクで長年漢方の推進営業をやっていたが、今度突然万丈に転勤になった。金曜の夜、お疲れ様、と仕事を終えて帰ろうとしたら、突然上司に呼ばれ、月曜朝から万丈に行け、辞令だ。と言われた。人生予想しないことが起こる。薬師寺は出産が来年の予定だと言った。こちらは予想通りで嬉しい。
 今村裕史が師匠と言って、酒を持ってくる。小野智美は先生と言ってノッピに酒を持ってくる。若い二人がホストホステスみたいに働いて、それぞれ勝手に好きなものを飲んでいる。話は弾んだ。帰ることもない。次に行くところもない。気の会う仲間内の小さな集まり。いろりの火を見ながら話はつづく。
 由布院牛も地鶏もなくなり、刺身を取りながら、ノッピ特性の鍋を二つ並べる。ふたを取ると古民家の高い天井に湯気が立ち上る。今村裕史と小野智美は二人で酒の燗をしながら話しこんでいる。新しいカップルが生まれるかもしれない。
 和田昇が、そういえばと言って、周吾に日向市の木本先生のことを話しだした。周吾が万丈に転勤になる前、新人で担当した得意先だ。一見怖そうな顔だが、優しい先生でゴルフとボーリングが好きだった。周吾も初めてゴルフに誘ってくれたのも木本先生だった。宮崎青島コースで初めてゴルフをして、散々な思いをしたことを覚えている。九番ホールだったと思う。グリーンが傾斜していて、そばにはバンカーがいくつもあって、グリーンにボールを乗せても止めきれないと、またバンカーに落ちる。周吾はそこで酷いことになった。なんどグリーンにのってもボールは向うのバンカーに落ちるか、こちらのバンカーに落ちるか、また隣のバンカーに落ちるのだ。バンカーまではどうにか上手く来たのに、どうしてもグリーンに乗らない。やっとのってさあパターだ。グリーンが速いからパターでもまたバンカーに落ちる。その繰り返しだった。結局そこだけで十一叩いた。トータルで一〇八だった。周吾はそれ以来ゴルフが嫌いになった。あんな思いをしたくない、と言う気持ちと、ゴルフをする人たちのマナーの悪さに嫌気がしたのだ。以来その一〇八以上のスコアは出したことがない。ゴルフ好きの多い万丈でも周吾は一回もゴルフはしなかった。その木本医院の忘年会は、先生があまり酒を飲まないのもあって、一次会はボーリングをやって、二次会は表彰をかねて忘年会をした。周吾が始めて担当になった年に、どういうわけか周吾が優勝してしまったことがある。その時に和田昇は一緒だった。和田昇が言うのは、昨日宮崎の同僚から電話をもらって、木本先生がなくなって、葬儀が終った、と言う。胃がんで、診療を休診にして二ヵ月も経っていない。信じられますか。木本先生はそれこそ消化器外科の専門科だった。
 千葉陽子太陽会病院消化器科部長は、専門科は自分のことは診ないから、おかしいと思ったら間に会わないことが多い。特に腺癌だったりすると、難しいと言った。それに開業していると、休めないから、悪い方には考えないでしょう。ノッピもそう言う。まだ六三歳だった。突然何かが起きるのだ。
 別府山手病院循環器科医長後藤倫子は、その木本先生は昔うちの病院にいたと言った。自分がまだ小さい小学生の頃、顔は怖そうだけど凄く優しい先生でよく抱っこしてくれた。大好きだったのでよく覚えている。それをここでそんな悲しい話を聞くなんて、信じられない、と言った。
 周吾は咽喉癌について聞いた。これも胃の腺癌と似ているのか。実は知合いの先生が咽喉癌でいま医大に入院している。もう一年近くになるがどうなんだろう。すると、後藤倫子が、
 「その方中根なんとか、というのじゃなくて?」
 後藤倫子が言った。
 「そうです。中根茂信です」
 「先週私用があって医大に寄ったの。そうしたらあの放射線の厳しい先生がいたでしょ」
 「松本武史でしょ」
 ノッピが言った。
 「そうそう厳しかったね。あいつ、ちょっと影みそこねたら、誤診だ、誤診だ、って。たまたまあったじゃすまないぞ。目開けて見れって、怖かった」
 榎裕子が言った。
 「その松本先生が医局の外の椅子に座って頭を抱えているのよ。黙って通るのもどうかと思って、先生どうかされましたか、って、聞いたらね」
 「おう、後藤じゃないか。久しぶりだな。いやすまんな。みっともないところ、見られたな。実は、いま俺の師匠がここに入院している。咽喉癌で、もう三回手術を受けた。声はもうでらん。それでも師匠なら目は間違いないから、何とか助けてほしいと、頼んでいるが、みんな首を立てにふらんのだ。俺は師匠に写真の取り方見方全部手ほどきされた。俺がいま写真を見られるのは師匠のおかげだ。俺もいまだに見えないのがあると、師匠に来てもらっていたんだ。この前もここのベッドにいるのに、もって行って見てもらったよ。県内では最高の人だよ」
 と言った。
 「松本武史先生の師匠が、中根先生だと言っていました」
 「そうです。それが僕の先生です。そうですか。いえ何の情報もなくて、もう一年近くなるんです。万丈の学術担当だった先生です。僕の高校の先輩です。毎月最低一回は飲みに行って、ほとんど担いで送っていました。いい先生なんです」
 周吾は涙を流した。周吾は涙もろい。つい涙をこぼす。わかっているのに流れてしまう。
 空気を換えようと思ったか、後藤倫子が、口を切った。
 「最近インフルエンザみたいな風邪で、熱はなくなって治りかかっているのに抜けきらない、って症状多くない?」
 「そうそう、多い。何で、かな。インフルの時期じゃないし、マイコとも違うし、風邪には間違いないけど、治りそうで治らない。多いわね」
 ノッピも言った。
 「それって、竹筎温胆湯の証ですよ。薬師寺そうだろ」
 「蒼井よく覚えているな、確かそうだったよ」
 周吾は、漢方の証にそれがある話をした。それも先日、万丈の自分が担当している先生が、同じような症状の患者さんがいて困るという話を聞いて、その薬を紹介して使ってもらったところ、患者にすっかり良くなったと喜ばれた、と言う話を聞いたばかりだった。漢方は、三割著効ならいいと思ったほうがいいが、試す価値はあるかもしれない。周吾はそう言った。
 「それって、どこの漢方?」
 「天狗堂の九一番です。薬師寺そうだよな、九一番だな」
 「そうです。九一番です」
 「アオそんなこと知っているの?」
 「ノッピ、これがぼくの仕事だよ。本来の、ね。おばあちゃんの話を聞くのも、酔っ払いの肩を担ぐのも、宴会係りをするのもそうだけど」
 「ノッピ先生、師匠はとにかくよく知っています。私が師匠と一緒によく行く先生も、蒼井に聞けば何でもわかるから、本を調べる手間が省ける、と言います」
 「この前万丈の西谷先生にお会いして、うちの去痰剤を勧めたんです。いまご使用になっている薬剤と併用すると、痰を出す作用と、出た痰を滑らせてきる作用と相乗して効果がありますから、と言ったら、蒼井君に聞いてくれ、だって。うちの薬は全部蒼井君に任せてあるからと言われました。僕は宮崎から知っていますからわかりましたが、蒼井さんは薬に関しては薬剤師以上によく知っています。その後蒼井さんに了解をもらって納品させて頂きましたが、いきなり月に一万錠の処方ですよ」
 「それって、使いすぎじゃない?」
 ノッピが聞いて来た。
 「そうでもないんだ。患者さんの数が多くて、月一回しかこない患者がほとんどなんだ。労災のじん肺患者さんだ。外来は一日に百人はくだらない。その先生は、余分な薬を使えば税金の無駄だ、なんて悪口も聞くが、じん肺の患者さんは、この辺に仕事がなくて、遠いところにトンネル堀などの出稼ぎに行って病気になった。朝起きているうちも、夜寝ている間も呼吸するたびに息苦しさを感じている。痰が詰まったり、出なかったり、ぜー、ぜー、耳が聞こえる間は呼吸する音まで聞こえる。この苦しさが少しでも薬で楽になるなら是非使う。病院に毎月一回しか見られない患者さんがほとんどだから、それこそ真剣に聴診器をあて必死に音を聞いているんです。先生のカルテを見てびっくりしました。とにかく丁寧に細かく診察所見を書いているんです。誰が見てもすぐわかるように。一度きれいなカルテですね、って言ったら、僕がいつ診察できなくなるかわからない。患者さんの病態は、これまでの経緯と比べないと、労災の対象から外されやすい。だから、誰が引受けても直ぐわかるように書いている。沖縄とか鹿児島なんかからも患者さんが来られるんです。それにその先生もう七十過ぎているのに、毎日三時に起きて勉強するんです。患者さんが来られる前に。年をとると忘れることが多いから、忘れないように、まだ覚えてないことも多いから、勉強しないと、患者に悪いから、と言うんです。昔西谷医院は労災の申請が異常に多い、というので労働基準局が調査に入ったことがあったそうです。患者と結託しているの、じゃないかと。ところが、カルテを見て直ぐ帰ったそうです。一応決まったことなどで調査には参りましたが、まったく問題はありません。今後もよろしくお願い致します。だって。患者さんの口コミです。患者が多いのは。労災の認定が取ってもらえるだけじゃなくて、診察が丁寧で、少しでも苦痛を和らげようと必死で診療をしている老先生に、患者はもう全てを任せているからです。亡くなった患者の家族はほとんどみんな、亡くなった後お礼に来られます。信じられないでしょうが、ほんとうです」
 周吾は言った。
 「それ、あの有名な奥さんの?」
 ノッピが言う。
 「そう。夫婦のバランスって面白いね」
 信頼は大事なことだ。とくに命に関わる仕事についているものは、信頼をなくしては何も始まらない。
 万丈の岩下病院の話になった。榎裕子がつい、
 「信枝のもと彼の病院は信枝が辞めて上手くいっているの?」
 と聞いた。もちろんノッピはもう今は何も知らないと言った。周吾はノッピが毎日見ていた分の患者さんがいなくなっている、と言った。医大から、誰か行っているはずだから、そんなに減ることもないのに。事実だった。今村裕史が、ノッピ先生は偉大でしたから、当然だと思います。好きな先生がいなくなると、もう寄り付きもしなくなりますから。
 「そんなことあるの?勤務医が変ったくらいで患者が減るの?」
 千葉陽子が問いかけた。
 医師が変れば患者も変る。患者は極端な話、命を懸けて来ている。病院の名前で選ぶ人もいるかも知れない。施設の大きさを信じる人もいるかも知れない。最終的には人対人の信頼に尽きるのではないか。話はそう持っていかれた。ノッピが落ち込んでいるように周吾は見えた。
 「ノッピの責任じゃない。患者さんは医師を信じられるか、スタッフを信じられるか、その問題だよ。患者は当たり前だけど、自分の命を預けに行くわけだから、この病院は医者も看護婦も信頼していないみたいな空気を悟ると、もう何をしても信頼は取り戻せないよ。先生が看護婦さんを信頼していないのに、どうして自分の言い分を聞いてくれるのか、と思うよ。スタッフから全員チームワークが良くて、みんな揃って、自分の言っていることを聞いてくれるようなところには、直ぐ患者さんも集まるよ。今は患者さんの選択肢が増えてきているから」
 「師匠の言うとおりです。僕が行っている先生も蒼井さんの言葉どおりにやったら、患者さんがどんどん増えて、まだ開業二年も経っていないのに、どこかに新築しないといけなくなった、って言っていました」
 今村裕史が言う。
 「でも、その通りね。蒼井さんのおっしゃるとおりだわ。私も忙しさに託けて患者さんの言葉を半分も聴かないことがあるわ」
 後藤倫子が言った。
 「ノッピは凄いんです。この前、田舎で内輪の披露宴をやった時にね。来ている人はお年寄りばかりだけど、ノッピはあっという間に手玉に取って、僕はもうびっくりした。方言丸呑みで二言三言返すだけで、年寄りの顔がいきなり笑顔になるんです」
 周吾が言った。
 「ああ、好きになるのはいいけど、それお惚気だわね。信枝も幸せね」
 榎裕子が言う。
 「ほんとだわ。羨ましい」
 後藤倫子も言う。
 「要は、好きになることが大事なんです」
 梅ちゃんが言う。
 「そうよね、私達って。患者を診ようとは思うけど、この人どんな悩み抱えてきたのかなって、考えもしない時あるものね」
 千葉陽子が言う。
 「私はただ、心配させないようにしているつもりだけど」
 ノッピが言う。
 「ノッピはオーラがある。僕はノッピを見たらそれでもう天国だ」
 「アオ酔ったの」
 「ノッピに最初に会った時から酔っている。とってもいいくらい。だからいつも楽しいし、幸せだ」
 「私だってほんとうに幸せよ。アオと一緒だと、凄い安心できるの」
 「おいおい。おいおい。もう溜んないね。もう二人でやって欲しいよ。もう冬だって言うのに、暑い、暑い」
 梅ちゃんが喚く。
 「ほんとだわ。でも先生いいですね」
 小野智美が言った。
 「そうよ。いいのよ」
 ノッピも正直だ。
 「ああもうだめだ」
 梅ちゃんが喚く。
 「鍋片付けて雑炊にしましょうか」
 小野智美が切替えた。
 「そうね。そうしましょう」
 ノッピが動いた。雑炊を食べ、皆で片付けて風呂に行く。風呂が終ったらウイスキーを用意して、チーズや豆菓子をつまんでまた話そうとなった。コバルトブルーの大露天風呂は夜になると女性専用になっていた。他にも露天風呂はあるので、男達はそちらへ行く。周吾もノッピも二度風呂に入った。
 風呂から出てリビングのソファーに卓を囲んで座るとちょうど十名が収まった。お茶を飲む人。水割りを飲む人。好きな飲み物を手に話は弾んだ。今村裕史と小野智美はいつかこんな披露宴をしたいと言った。極々親しい人だけ集めて、温泉に入って他へ行かず、泊り込みでゆっくり、とてもすてきでいいです。と言った。普通の結婚式と披露宴のセットは、本当は近い間なのに遠くなった感じがするし。何より本当のお祝いの気持ちも伝え切れない。儀礼だけのような気がする。今回のこの企画はとってもいい。元々普段の付き合いの継続を願うものだし、堅苦しい服装でないのがいい。それになんたって、親戚に紹介されてもどうにもならない。同じコミニテイが一番効果的だ。と言うことで評判は良かった。それで、できたら年に一回でもいいからもう一度このメンバーで集まろうよ。贅沢は言わないから、今度は海のそばでお魚をいっぱい食べようか、と言う話に発展した。
 「会の名称はなんか適当に決めてしましょうよ。師匠、僕が幹事になります。是非やらせて下さい」
 今村裕史が手を上げると、小野智美が
 「私もやります」
 と言うことになった。企画以上の楽しい集まりになった。

 

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