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色の話、貝紫とコチニール

化学染料のない時代、全ての色は自然界から抽出されました。
いわゆる、草木染です。
自然界にある色素を抽出して染める、という広い意味での
草木染めには 虫や貝、鉱物などの染料も存在します。
鉱物は日本画などにも使われる顔料がありますが
動物系染料で有名なのは
貝殻虫のコチニールと巻貝の貝紫です。

コチニールはメキシコ産のサボテンの一種に寄生している
カイガラムシで これから取れる赤い色素は中南米の染織に
古くから使われて プレインカ帝国やインカ帝国の遺跡から
発掘される裂類に見られます。
コロンブスが新大陸を発見してから
メキシコはスペイン領となり 原住民のインディオ達が使う
美しいコチニールに目を付けたスペイン人が
貿易品としてヨーロッパに伝えました。
18世紀にメキシコの独立運動が盛んになると
スペイン人はコチニールを持ち帰りました。 
カナリア群島の気候はコチニールに適したようで
現在ではこちらが産地として知られています。
南蛮貿易により日本に持ち込まれたコチニールは
猩猩緋(しょうじょうひ)や陣羽織の赤ラシャ等として
持てはやされました。 
現在も 染料の中では高価なものなので
全体をコチニール染の糸で織り上げることは少ないです。


さらに高価な染料としても有名なのが貝紫です。
アクキ貝という巻貝の内臓に含まれるパープル腺を
使った染色です。パープル腺は貝の中にあるときは
黄色味かかった乳白色ですが日光に当たると赤紫に発色します。
古代オリエント三大文明の中心であった
地中海沿岸で活躍した海洋民族たちが
紀元前16世紀ごろに 貝から色素が取り出せることを発見しました。
貝から取れる色素の量は2000個で1グラム、という
僅かであり、その色の美しさと相まって高貴なものとされ
帝王紫と呼ばれ、帝王や貴族にのみ使用が許されました。
帝王紫は古代ローマでも大切にされましたが
東ローマの滅亡と共に滅びてしまいました。
貝からの染色はインカ帝国でも行われていて
地中海では貝ろ割って中のパープル腺を取り出したのに対し 
メキシコインディオは海岸へ糸を持って行き
生きた貝から直接染めては貝を海に戻す、という染色方法で
現在も僅かに行われています。
国内でも 秋山眞和さんが
明石海で採れる アカニシ貝という貝にもパープル線があることを知り、
苦労の末 アカニシ貝での貝紫染めに成功しています。
さすがに 貝紫だけの着物、というのは
一部の作家さんが展覧会の出品用に創るなど
ごく限られたものがほとんどです。


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