手料理オブザイヤー  コラムとかエッセイとか#4


「あんたー 今年の手料理オブザイヤー決めたー?」
 「今年もやんのそれ〜 オカンの料理に大賞つけるのうちの家族だけなんやけど〜」
4年前に突如始まった、年1回行われるわたしの家族特有の行事の話を母親と兄がしている。 兄が15歳の誕生日を迎えた日に突然始まり、今年で4回目である。 わたしはまだ投票権を持っていない。15歳になると投票権がもらえると、このコンテストが始まったときに母親が決めた。 わたしは来年投票権をもらえる年になるが、待ち遠しいと思ったことはない。 わたしの家族で投票権があるのは父と兄のふたりだけなので毎年大賞が2つ出てしまうというコンテストにあってはならない欠点が3年連続3度改善されていない。
父は記念すべき初年度に、アジフライを大賞に推した。理由を書く項目もあるので盗み見してみると、一言 ◉ヘルシー とだけ書いてあった。誇らしげなアジの顔と申し訳なさげな油と衣の連合軍の顔が浮かんでくる。
兄は初年度に焼きそばと書いて母からだいひんしゅくを買った。そんな手軽にできるお昼ご飯の代表を大賞に推すなんて信じられないと怒った。あまりの母親の形相に兄は焦って、いやだってUFOよりうまいしと言ったのがさらに良くなかった。その日からうちからUFOが消えた。

「あんたねー、来年からお母さんの料理食べれなくなるんだよー!たまには感謝の思いも投票用紙に書いてみなさい!」
「別にコンビニ弁当でいいしなー」
 評価を欲しがりすぎる母親と反抗期の終わりきっていない兄が野暮な言い争いをしているなか、わたしは今日の学校でのリナとの会話を思い出していた。
「リナのママとパパ離婚したの」
自分のことを名前で呼ぶリナは、顔もいいし人懐こいのでとにかくモテる。先生にも気に入られるタイプで、老若男女関係なく愛されてる。そんなリナと中学入学したとに同じクラスになり仲良くなり、今年も同じクラスになったため一緒にいる時間が多い。そんなリナの初めて見る深刻な顔に何故かドキドキした。
「ここ1年くらいパパが仕事から帰ってくるのが遅くて、夜ご飯とかもお母さんとふたりで食べてたの。ママ最近は、パパの分のご飯作ることもなくなってちょっとおかしいなと思ってたんだけどね」
こんな時に気の利いた励ましの言葉が思い浮かばないあたり、わたしはお父さんに似てるのかもしれない。◉ドンマイ なんて言わなかっただけマシかもしれないが、初めて見るリナの表情に圧倒されて何も言えなかった。

「ご飯できたよー!今日の主役はから揚げよー」
うちの家族はほぼ毎日4人が集まってご飯を食べる。改めて兄のことを観察してみるととても美味しそうに食べている。コンビニ弁当でいいとか口では言ってたくせに、お母さんの手料理をしっかり噛み締めている。
来年から兄は大学進学で県外に出ることがほぼ決まっている。この表情が見れなくなるのはお母さん寂しいだろうなあ。多分わたしはこんなに美味しそうな表情でご飯を食べていないから、言葉でちゃんとお母さんに伝えよう。投票用紙いっぱいに感謝の言葉を書いてみよう。
まだ投票権持ってないけどね。

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