見出し画像

異常気象で売上を伸ばすウェザーパーソナライゼーション

 近年の異常気象は日本に限ったことではなく、世界各地で記録的な猛暑、豪雨、干ばつなどの被害をもたらしている。国連によると、最近20年間の気候変動による世界の経済損失は2兆2,200億ドル(約244兆円)にもなり、地震による損失額を上回っている。その中でも、日本は米国、中国に次いで世界で3番目に損失額が大きい。

異常気象による自然災害は、経済大国ほど損失額は大きくなる傾向があるが、その一方で、企業に新たなビジネスチャンスをもたらしている。身近なところでは、気温が30度を超える日には、各種のドリンク飲料、日焼け止め、帽子、サングラスなどの売上が伸びる。

また、台風接近の数日前からは防災グッズの売上げが伸びることに加えて、屋内で楽しめるレジャーとして、ゲームアプリや映画レンタルの利用率も高まると言われている。こうした気象条件の変化で生じる売れ筋商品を発見して、販促していく手法は、「ウェザーパーソナライゼーション」と呼ばれている。

具体例として、英国のアマゾンでは、2013年から2016年の売上データを分析した結果、6月4日から夏関連の商品が3倍以上に伸びることを発見している。そこで「#Now Its Summer store」というコーナーを設置して、Amazonプライムの会員であれば、日焼け止め、サングラス、BBQセットなどの夏商品が即日配送されるようにしている。ただし、英国では雨や曇りの日も多いため、気象分析により天気が悪い日には、傘や長靴などを中心とした商品構成に自動変更されるパーソナライゼーションが行われている。

また、米国の中西部や南部を中心に500店舗以上を展開しているエコノミーホテルチェーンの「Red Roof Inn(レッドルーフイン)」では、オンライ予約の集客ルートとして、Googleを中心とした検索広告を利用しているが、大手の宿泊予約サイトが高い入札単価で検索上位を占めてしまうことが多く、通常の方法では予約件数を増やすことが難しくなっていた。

その打開策として、気象条件と予約率の関係に着目してリサーチを進めたところ、悪天候でフライトの欠航率が高くなる空港付近のホテルでは、当日の予約件数が増える特性を突き止めた。そこで、飛行機が欠航になりそうなエリアのホテルを割引価格でオファーする検索広告(スマホユーザー向け)を重点的に出稿するシステムを独自に開発したことで、集客効果を高めることに成功している。

このようなウェザーパーソナライゼーションは、IoTセンサーやビッグデータ分析により天気予報の精度が高まることで、さらに高度なマーケティングが展開できるようになる。タイヤメーカーでは、数日以内に局地的な大雪が降る地域をターゲットに集中的な広告を出稿することで、冬用タイヤの売上を伸ばす手法が研究されている。

天気によって小売店や飲食店の売上に影響が出ることは、古くから知られていることだが、近年の異常気象を逆手にとって、猛暑や台風の到来、気温や湿度の急速な変化により、消費者の購買行動がどのように変化するのかを科学的にデータ分析して、メーカーや小売チェーンに提供するビジネスには商機がある。

■関連情報
異常気象を察知するIoT気象ステーションのビジネスモデル
変動価格で利益を最適化するレベニューマネジメント
環境ビジネス事例集ビジネスモデル事例集

JNEWSはネット草創期の1996年から、海外・国内のビジネス事例を精力的に取材、会員向けレポート(JNEWS LETTER)として配信しています。また、JNEWS会員読者には、副業ビジネスの立ち上げ、独立起業までの相談サポートをしています。詳細は公式サイトをご覧ください。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?