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青い等級帯の「色」について-2(整理)

皆さん、こんにちは。こんばんは。今回も前回に引き続いて、戦後の客車・電車の青帯の話を書いていきたいと思います。

前回の記事は青帯の色が昭和24年頃に変化したという通説を紹介したうえで、鉄道図書刊行会の日本の客車にある略史などを参考に「実務資料や実務者が関わった資料の中で、最初に示した”問題”について明示的に示しているものは「今のところ」確認できていない」ということを整理し、検討するという内容でした。今回は趣味者が残した記録から整理・検討を行っていきたいと思います。(例によって趣味者による記録も数少ないですが...)

機芸出版社の鉄道模型趣味1950年1・2月特別増大号、表紙を開いた最初の頁目次の下にその記録は掲載されています。

「試運転を数日の後にひかえた快晴の一日、東芝車両において電装中の湘南電車初姿をキャッチしました。京王電車を府中駅に下車して徒歩20分、陽日さんさんたる中にくっきりと浮かび上った巨体が遠目にも鮮やかに視線を射ます。B型タンクロコにひかれてテストにいそがしいその一瞬をスナップしたのが、表紙にかかげたクハ86、帝国車輛製の86012です。内部ではシートの取付けなど最後の仕上にいそがしく、未だ自連のままの正面もかえって 『完成迫る』の感を強めます。もえいづるように鮮やかなグリーンの車体に一線を画した窓廻りは、予想していたよりもずっと赤に近く、けがれを知らぬ下廻りの黒色と共に極めて強烈な色彩感。けねんしていたドアー部分の不釣合もさして気にとまらず、みなれるに従って好感のわくのを禁じえません。ただ最後に目にとまったサロ85の青帯に妙に白っぽい感じであったのが、何か気にとまって仕方がありませんでした。 Yuri 生」          (※筆者注 旧字体と仮名遣いについては現用のものに改めた)

1950年1月のなかば、80系の現車が蕨の日本車両から府中の東芝に回送された直後の状況について書かれたこのレポート。塗色研究分野において気に かかる記述は やはり太字の部分でしょう。 後半の青帯の記述だけでも気になる文章となっていますが、前半の”けねん”との対比が更にその色を印象づけているといえます。

サロ85

サロ46

サロ45

画像は上から サロ85(80系)・サロ46(70系)・サロ45(32系)です。 (※全て ぜかまし文庫(仮)さんで公開されている「電車形式図 1953」の中からお借りしてきたものです)                    これら3枚を比較してみると、筆者が書かれた「ドアー部分の不釣合」が 何となくイメージできるのではないでしょうか。80系電車の側面デザインは後位側ドアと後位妻の間に窓やスペースがない客車の様なもので、それまでの国電にはない(その後の形式にもない)ものとなっています。           筆者が”けねん”を抱いていたのは、この点であると思われます。

もう一点確認しておきたいのは、筆者がこの文章を書くまでについてです。本人からお話を伺えない以上  文章から背景を想像することしかできませんが、

① 知人から80系電車のデザイン等の話を聞いた/図面を見せてもらった (当時走っていた電車や客車に関する知識はあったものと想定される)   ② 現車を見に行く前の段階で、ドア部分に対し”けねん”を抱いた                  ③ 府中で現車を見た/撮影した                            ④ "けねん"していたドア部分はさして気にならなくなっていった          ⑤ 事前にさして想定していなかった(書いていなかっただけかもしれない が)青帯の白っぽさが気にとまった                  

...という流れがあったものと、考えられるのではないでしょうか。

車両の形状・黄かん色と緑2号の湘南色塗装・サロ85の白っぽい青帯、どれもこれも筆者は初めて目にしていたことに変わりはなかったはずです。  そんな何もかもが気にとまってもおかしくなかった状況下で、対比による 表現を用いながら帯色の話だけが強調されて書かれている。           明らかに普通の書き方ではないこの文章に、私はどうも妙な力を感じてしまうのですよね...。

(当時の趣味者の特質から 従前の電車や客車の2等車を見たことがなかったと考えにくいことも、この文章に力を感じる理由の一つなのかもしれません)

今回の記事では、先のレポートを受けて検討した「電車における青1号帯の初使用は80系電車のサロ85ではないか」という仮説を置いておこうと思います。(ここに置いた仮説が拾われて議論されることにより、少しでも鉄道研究に貢献することが出来たら良いなと思っていますが...どうなんでしょうか。)【次回へつづく】

(2021.12/29 第1版公開)

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