池波正太郎が通い詰めた蕎麦店「刀屋」とは

長野県上田市に、県外からも愛好者が訪れる有名な蕎麦店がある。同市が誇る戦国武将、真田家一族にフィーチャーした「真田太平記」の著者である池波正太郎氏も、執筆中によくこの店を訪れたそうだ。

その店の名は「刀屋(かたなや)」。
近隣の蕎麦愛好者なら知らない人はいない、全国にその名を轟かす(未確認)ほどの有名店である(と僕は思っている)。

メインストリートの商店街からやや外れた住宅地の一角にある店は、一階に立てかけてある大きな葦簀が目印。店内に入ると、木造の小ぢんまりした日本家屋風。やや狭いし薄暗いが、その雰囲気がいかにも昔ながらの蕎麦店という感じで趣があっていとをかし。

蕎麦茶に口をつけながらお品書きを見上げ、もりそば・普通盛りを注文。
刀屋における蕎麦の量は小盛り・中盛り・普通盛り・大盛りの4段階。なお、この店では他店における「盛りの量」の常識が通用しない。そこそこお腹空いてるから大盛りにしちゃおっかなーなんて生半可なノリは許されないのだ(後述)。

待つこと10数分。目の前に現れたのが、
こ れ だ 。。

「普通盛り」でこのインスタ映えする盛りの量。およそ600gと、普通のオトナ男子なら充分に満腹感を味わえる量だ。山盛りになった蕎麦を少しずつ箸で摘まみ崩し、つゆを絡ませて豪快に啜る…いやちょっと待て、簡単には啜らせてくれないことにこの時点で気付く。とりあえず麺太い、そして硬い

喉を抜ける時の蕎麦の香りを楽しみ、「蕎麦は喉越し」でございますなぁ、なんて優雅な貴族みたいなことは言わせない。刀屋ユーザー視点からすれば、蕎麦は喉越しの前に「噛み応え」でなければならないのだ。何しろ太さは細めのうどんくらいある。顎が痛くなるくらい本気で噛み砕きにかからなければ喉を通っていく代物ではない。ものの三分足らずで啜ってハイご馳走さん、という立ち食い店とは全く趣向の違う蕎麦がここにはある。

まさしくガテン系蕎麦、蕎麦界の二郎とも言うべき唯一無二感、競走馬に例えるとゴールドシップのような気性難のじゃじゃ馬、そして好き嫌いがハッキリ分かれるタイプ。これが刀屋の特徴であり、最大の魅力でもある。

ちなみに刀屋で調子に乗って「大盛り」を注文すると、推定総重量1kg超の巨大な「蕎麦のかたまり」がお目見えするので注意が必要だ。注文する時には必ず店員が「大丈夫ですか?」と確認するし、食べている作業中(もはや作業としか呼べないと思う)にも「食べきれそうですか」と細かい気配りをくれるし、とりあえず店内のその場にいる人たちの中では英雄視されること間違いないけれど、ノークレーム・自己責任でお願いします。

刀屋の人気メニューの一つが、オリジナルの「真田そば」だ。他店ではまず目にしたことのない、鰹節・味噌・なめこ・そしてだし汁の組み合わせ。

食べ方は店員が説明してくれるが、味噌の入った器にだし汁を少しずつ投入しながら味噌を解いていき、麺つゆを足してお好みの味に調整する。それをつけ汁として、例のごときゴールドシップ的なハード蕎麦を食らうというシステム。味噌で食べる蕎麦というだけでも珍しいが、味噌特有のふわっとした甘みが感じられると共に、なめこ汁を思わせてくれるようなつけ汁のだし感が実に風味豊か。斬新さと懐かしさが同居していて、これまた美味い。

ちなみにこれを書きながら、僕の頭の中では鮮明に刀屋の蕎麦特有の強烈な噛み心地がフラッシュバックしており、脳内に「カタナドレナリン」とでも呼ぶべき興奮系快楽物質が大量に分泌されている。あの極太麺を噛み噛みしたくてたまらない衝動に駆られている。

一度でも刀屋の蕎麦の良さに気付いてしまったら、虜だ。
もう刀屋なしでは快適な蕎麦ライフを過ごせない身体になってしまう。それほどの魅力と深みが、この蕎麦店にはある。刀屋とは、そういう店なのだ。

長野県を訪れた際には、ぜひ刀屋にお立ち寄りください。
その後、刀屋なしでは生きられなくなってしまったとしても、まあ責任は持てませんが。


(了)


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コメント2件

刀屋常連しか注文しないものがある。それは「冷やしたぬきそば」なんだよね。品書きには「たぬきそば」としか無いから殆どの人は注文しないけどね。次回行ったら品書きの「もり蕎麦」とかと比べて食べてみると判るよ。
矢島さま
絶対そういう裏メニューあるだろうなーと思っていたんですが情報に辿り着けず...惜しみないご教示ありがとうございます!
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