3b 伝えるための「シンプルさ」

⚫写真でもっとも大切なことは「何を撮りたかったのか伝わること」。

⚫​伝わるために大切なことは、撮影者の明確な意図。

⚫​昔から言われるように「写真は引き算」である。

⚫​被写界深度やシャッタースピード、ポストプロダクションによる画面の再構成によっても引き算をすることはできる。

​最も大切なのは「伝わること」

写真において最も大切なことは何でしょう?

それはずばり、「何を撮りたかったのか伝わること」ではないでしょうか。

写真家が、その瞬間に何を感じてシャッターを切ったのか。何に心を動かされてその瞬間を写真に残そうと思ったのか。

写真を見る人にも、その感情が共有できてこその写真芸術です。逆に言うと、それが共有できない、伝わらない写真では意味がないのです。

シャッターを押す瞬間の衝動は、それぞれの写真家の持つ、それぞれの「フォトグラファーズアイ」によるものです。その価値観は写真家の数だけあるものですが、それが見る人に「伝わる」ためには、心がけるべきテクニックがあるのです。

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非常事態宣言が発令された東京において、あっという間に増えたのがUber Eats配達員の姿でした。しかしどの配達員もとても忙しそうで、きっと疲弊しているに違いないと思っていた矢先に、こんな姿を目撃したのでスナップしました。
コロナ渦というかつてない時代の激動のなかで、時代の記録としてのストリートスナップが撮りたいと思っていたので、チャンスをものにしたという思いで満足です。

​何が言いたいのかわからない写真

ひとが撮った写真を見せられたとき、正直なところ「うーん……」とリアクションに困ってしまう写真というのがあります。

なぜリアクションに困ってしまうのか、それにはいくつかの理由があるとは思いますが、最も多いのが「何を撮ったのかわからない写真」ではないでしょうか。

たとえば街頭に設置された監視カメラ、その一瞬を切り取って静止画の写真にしたところで、その写真は面白いでしょうか?

いや、まあ、何かそれなりに面白い瞬間は撮れてるかもしれませんが、基本的には、ただ漫然とカメラのシャッターを切っただけでは面白い写真にはなりません。

そこに必要になるのは「撮影者の意図」です。

写真というものは、カメラという機械を使ってその場にあるものをただ忠実に描画する芸術です。なので、画家がキャンバスや画用紙に描き始める、その瞬間から能動的なアクションを必要とする絵画と違って、その場の光景にただリアクションしてシャッターを切るだけの、受け身な姿勢でも成り立ってしまうものなのです。

それだけに、シャッターを切るカメラマンには、なぜその瞬間にシャッターを切ろうとしたのか、他の芸術以上にそこに明確な意図が求められるのです。

明確な意図を込めてシャッターを切ることによって、「何を撮ったのかわからない写真」になることを防ぐことができます。

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行楽に出かけた日の記録写真はみなさんよく撮られるものだと思います。この写真も典型的な行楽写真ですが、このときは愛嬌を振りまくシロイルカ、身をかがめた調教師、それを見守るふたりの観光客というこの場の登場人物たちを効果的に構成するための自分の立ち位置を素早く見つけて、うまいこと撮影できた写真だと思います。
これは撮ったまま、トリミングなどなしです。

写真に意図を込めるためのテクニック

さて、では写真に意図を込めるためにはどうするべきか?

シャッターを押すときに「今だっ!」と念を込めるのもアリですが、それだとよけいなチカラが入って手ブレの原因にもなりかねません。

様々な方法があるとは思いますが、ここでお伝えしたいのが「引き算」の手法なのです。

「写真は引き算」そんな言葉を聞いた事のある方は多いと思います。

現代のデジタル・ポストプロダクションの時代ですと、撮影後に作品に何かを付け加える「デジタル処理」なんてモノもあって、あながち一概には「引き算」ばかりと言えない時代にもなってきてますが……

しかしやはり、昔ながらの基本としては、「写真は引き算」はいまも生きている格言なのだと思います。

では、写真における「引き算」とは何か、具体的に考えてみましょう。


画面構成による引き算

画面構成による引き算とは、平たく言えば「よけいなモノを写さない」ことです。

シャッターを押す前に熟考し、そのときに自分が写したい被写体だけを残して、それ以外は画面内に入れないようにフレーミングしてみましょう。

場面としては、三脚を据えてじっくり撮るような、風景写真の現場が思い浮かびますが、スナップを撮るときだって、野鳥を撮るときだって、ポートレートのときだってそれが該当します。本当に必要な被写体だけで画面内を構成した、隙のない写真というのは美しいものです。

撮影する瞬間にそれができれば最もいいのですが、瞬間的なシャッターチャンスでそれが難しいときは(そういうときがほとんどだと思いますが)、それこそ「ポストプロダクション」でそこを補うことができます。

いわゆる「トリミング」ですね。

ただ単に、被写体を大きくしたいというだけのトリミングではなく、画面内を再構成するトリミングは、ワタシが強く推奨したいもののひとつです。

これについては後にひとつ章を割いてお話したいと思いますが、そこまでしてでも、画面を引き算することは大切だということは、覚えておいてください。

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カワセミなど、野鳥写真のなかでも小さな鳥の撮影では、トリミングは当然行われるポストプロダクションですが、単に被写体を大きく見せたい、というだけでなく、横位置を縦位置にすることで、カワセミのポーズととまっている枝を画面内にバランスよく構成することに成功していると思います。
この場合はトリミングだけでなくその他もろもろの現像を行って写真を仕上げることになるわけで、当然RAWファイルで写真を保存してある必要があります。

被写界深度の調整による引き算

よく、100mm前後の中望遠レンズでポートレート撮影をすることがあります。各社の85mmや135mm相当のレンズなどは「ポートレートレンズ」として宣伝されてることもありますよね。

実際使ってみると、それくらいの中望遠レンズはモデルさんとの距離もある程度とる必要があるので、決して人物撮影がすんなりとできる焦点距離ではないのですが、なぜ「ポートレートレンズ」なのか。

それは、中望遠レンズで背景をボケさせることで、モデルさんを浮かび上がらせるような効果が得られるからです。そのようなちょうどよい背景ボケを簡単に得られる焦点距離が中望遠域で、ボケによってモデルさん以外の必要ない背景を「引き算」することができるというわけなのです。

もちろん、中望遠レンズ以外の焦点距離でも、そのようなボケを得ることはできますが、F値が明るいレンズが必要だったり、撮るときに背景とのバランスをよく考える必要があったりで、条件によってはなかなか難しいこともあります。いずれにしても、ポートレート撮影において必要のない背景をボケによって消してしまうことは普遍的な手法で、それは画面を「引き算」する有効な手段なのです。

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典型的な屋外ポートレートの作例です。このときはCanonのフルサイズ一眼レフEOS 1DXに、名高いCanonのポートレートレンズ EF85mmF1.2L II USM を装着して撮影しました。絞りはF1.2開放で、背景を思い切りぼかしてます。
ロケ地は東京神楽坂で、背景には当然神楽坂の商店街があるわけですが、このときはモデルさんと手にした紫色のお花だけの世界を作り出すべく、背景は全てぼかして「引き算」したというわけです。

シャッタースピードによる引き算

シャッタースピードを調整することで引き算をすることもできます。

ちょっと特殊撮影の範疇に入るかもしれませんが、街の写真をスローシャッターで撮影することで、そこから人の姿を消すことができるのです。

やってみると驚くほどキレイに人のいない街の写真を作ることができるので、誰もが一度はやってみたことがあるのではないでしょうか。ただし、気をつけなければならないのが、「ただ面白がって撮っても写真としてはどうなの?」ってことになりがち、ということですね。

明確な意図を以てスローシャッターを使うなら、かなり有効な引き算の手段となります。

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渋谷の道玄坂でポートレート撮影をしたときのものです。このときは三脚をもってなかったので、手前の石段にカメラバッグを置いて、その上にカメラを置いて撮影しました。露光時間は0.5秒なので通行人が消えるとまではいきませんが、渋谷の道玄坂くらいの人ごみならかなり通行人はボケてくれますね。
結果としてモデルさんだけが時間を超越したような瞬間の写真になりました。

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