【雑文『カンピオーネ!』】 カンピオーネと例の七人についてあれこれ1

 このテキストは丈月城のライトノベル『カンピオーネ!』をお読みの方々へ向けたものであり、おそらく、読まれている方々の多くが拙作の読者であろうと想定しております。そうでないという御方にはまったく無意味な雑文ですので、あしからず。
 さて。
 というわけでカンピオーネ、神を殺めて、その権能を簒奪した者たちについての四方山話となります。
 いわゆる『champion』をイタリア語にしたものが『campione』。
 チャンピオン、勝者、国や部族を代表する戦士・勇士。
 この単語に相当する日本語は存在せず、丈月城はchampion=戦士という定義を昔なつかしのSF&ファンタジー小説家マイクル・ムアコックの作品で知りました。『エルリックサーガ』など、黒の剣とエターナル・チャンピオン――多元宇宙に繰りかえし転生と転移を遂げる戦士たちの年代記を長年書きつづけた方ですね。
(余談ですが、昔はクトゥルフ神話とムアコック、どちらも『ごく一部のマニアだけがやたらとくわしい』位置づけの“知る人ぞ知る”的ガジェットだったのですが、あれから幾星霜。ラブクラフト御大の架空神話はなぜか日本のおたく界において、驚くほどの知名度を得るにいたっております・笑)
 戦士すなわちchampion。
 なかなか中二マインドをくすぐってくれるワードですが、日本では格闘技のタイトルマッチくらいでしか、なかなか聞く機会がありません。
 が、あるとき、このワードをやたらと連発する世界があると作者は知ります。
 イタリアとかスペイン語圏のサッカー業界では、偉大なプレイヤーたちのことをもうやたらと『campione!』『campiones!』と、メディアも一般人も選手たちも呼びまくるのです。そのカルチャーギャップが妙に面白くて、頭のなかでいろいろなアイデアが悪魔融合を起こしていった次第です。
 そうだ。人類を代表して戦うチャンピオンがいるとしよう。
 人類代表が戦う相手だから宇宙人とか神様みたいなのがいい。舞台はイタリアとかスペインあたりで。当然、彼らの呼び名はアレだ……。

 このような過程を経て、世界に七人しかいない神殺しの戦士たち“カンピオーネ”が誕生したわけです。
 彼らは常人から“神殺し”に生まれ変わる課程で、特異な能力にめざめます。
 それは獣のような野性であり本能、動物的直感です。
 さらに異常な生命力にも。彼らはどれだけ傷ついても、死なないかぎりはバカバカしいほどのタフさで大復活を遂げるのです。
 何かの折にカンピオーネたちの能力について語る必要があったとき、
「あの連中は、みんな爪の出てこないウルヴァリンです」
 そう要約しました。
 言わずと知れたX-MENの人気キャラ。
 超人とミュータントひしめくMARVELユニバースにおいて、能力で彼を勝るキャラは大勢おりますが、そのタフさと野性、そしてキャラの強さで圧倒的存在感と活躍シーンをもぎ取っていく不屈の男。
 そういう能力者を主人公格に据えたのは、単に作者の趣味嗜好です。
 実は『カンピオーネ!』シリーズ、多くの設定を作者が愛してやまないアメコミと中国武侠小説から拝借しております(プリンセス・アリスが使う霊力《精神感応》なんて、まんまプロフェッサーXのテレパシーです)。

 とはいえ。
 さすがに敵は神様というシリーズなので、主人公の武器が野性と驚異的生命力だけではこころもとありません。かくして、倒した神様から能力=権能を奪えるという設定をくっつけて、カンピオーネたちの基本設定はできあがったのです。
 そして、もうひとつ。
 作者を苦しませる悪魔的な能力『勝つのが絶望的な状況でも勝機を見出してしまう』力までも。これがなければ、バトルの展開は実力で勝る方が勝つというシンプルなものでよかったのですけどね(苦笑)。

 以前、『カンピオーネ!』20巻とコミック版3巻に、付録として七人のカンピオーネたちの能力解説をつけたことがあります。
 一部の好事家の方たちにご好評をいただいたようなのですが、どちらも紙幅の都合によって、不完全な内容となっておりました。
 今ここで、それらと作者が隠し持っていたテキストなども合わせまして、初の完全版公開とさせていただきます。
(……実は作者的に、設定の羅列を読むのはあまり面白くなかろうと考えていたので、公開するつもりはあまりなかったのですが。カンピオーネたちの権能についてはご要望をいただく機会がしばしばあり、「需要あるのか」と途中で考え直した次第です)

 さて。では七人のプロフィールをば。

■■ デヤンスタール・ヴォバン ■■

【基本能力】
体力:超タフ
運動能力:狼のような身のこなし
知力:抜け目のない聡明さ
感覚:動物的直感
生命力:獣のごとき生命力

【人格的特徴】
●闘争を求める非合理的な欲求
●えせ紳士にして、えせインテリ
●素直じゃないツンデレ気質
●実は護堂と似ている

【権能】
『貪る群狼』Legion of Hungry-wolves
 数十~数百匹の魔狼を呼び出し、使い魔とする。
 ヴォバン侯爵自身も狼ないし人狼に変身できるほか、実は自分以外の人間も変身させる(しかも永久に)ことができる。侯爵は己に忠誠を誓う者への罰/報償/遊び心の表れとして、稀に彼らを人狼化させることがあった。(狼の太陽神アポロン・リュカイオスより簒奪)

『疾風怒濤』Strum und Drang
 嵐を呼び、風と雨と雷を操る能力。侯爵がしばらく寝こんでもいいくらいに全力を振りしぼると、実は地球規模の天候を長期にわたって操作できる。(嵐の三神・風伯、雨師、雷公より簒奪)

『死せる従僕の檻』Death Ring
 自らの手で葬った者を、生ける亡者――アンデッドにして下僕とする。
 また古戦場や墓場などにいる場合、この地で死んだ者の素性や数を霊視できる。死者の霊と語り、質問に無理矢理答えさせたりも可能。
 侯爵はかつて殺した神獣たちを数体、アンデッド化して下僕にしている。
 この連中は、ヴォバンの故郷であるバルカン半島の地下に眠っている。ふつうの下僕とちがって霊的に強すぎるため、瞬間移動で呼びよせることはできない。(エジプトの豊穣神オシリスより簒奪)

『ソドムの瞳』Curse of Sodom
 その目で見た生き物を全て、塩の結晶に変える。
 人数制限はない。その場に数千人、数万人いようともまとめて塩化させる。ただし、アテナの石化能力とはちがい、無機物には通じない。
 この権能を使用中、ヴォバンは数キロ先まで視認できる視力を得る。
 しかも透視の力も得るので、遮蔽物も関係ない。
 神やカンピオーネを塩化させることは、基本的にはできない。しかし、体の一部を短時間だけ塩化させたりすることはどうにか可能。(隻眼の英雄ホラティウス・コクレスより簒奪)

『冥界の黒き竜』Otherland's Dragon
 肉体が仮死状態になる代わりに、霊体は巨大なブラックドラゴンに変身する。
 このドラゴンは実体をそなえており、破壊のかぎりを尽くすことができる。ただし仮死状態の肉体は、もちろん無防備となる。
 竜の姿になれば、アストラル界(生と不死の境界)に転移することも可能になる。
 この権能はヴォバンが息絶えたとき、呪力を大量消費するのとひきかえに彼を蘇生させる。ただし、このとき消費した呪力は一~二か月の間、決して回復しない。(古代シュメールの女神イナンナより簒奪)

『劫火の断罪者』Red Punishment
 神すら灼き殺す焔を天より落とし、その一帯を火の海に変える。
 焔は最低でもひとつの都市をまるごと呑みこむほどの範囲まで燃え広がる。それ以降ならヴォバンは燃焼を中断させられるが、もちろん止めなくともよい。
 この焔は最高で七日七晩燃え続ける。
 戦闘用ではなく、焦土戦術のための権能。(中国の炎神・祝融より簒奪)

『血の聖餐祭』Bloody Blessing
 血を見た者、血の匂いをかいだ者、血を味わった者を対象にできる。
 対象者は凶暴化し、血を求める殺傷本能に覚醒する。肉体も強化され、鬼のような戦闘能力まで得るものの、本能にまかせて手近な生き物を殺そうとする。
 ただし、よほど強靱な精神力の持ち主なら、抑えこむことができる。
 対象者の数に制限はない。たとえば数十万の軍勢の前で羊でも殺して、この権能を使えば、全ての兵は血に酔った殺戮鬼となり、惨劇を引きおこす……。(インドの戦闘女神カーリーより簒奪)

『生ける呪文書』Singing Spellbook
 魔術の使い手から知識と術を無理矢理に奪い、適当な紙の束に文字化して刻みつけ、呪文書として保存できる。
 呪文書の表紙には口があり、ヴォバンの指示で魔術を行使する。
 ヴォバンは標的の知る魔術をひとつだけ奪うこともできるし、犠牲者の知る魔術をひとつ残らず召し上げることもできる。
 のちに権能『死せる従僕の檻』を得たので、ヴォバンはあまり使わなくなった。
 魔術師を殺して、従僕に変える方が手っとり早いと……。(テンプル騎士団の秘神バフォメットより簒奪)

【備考】
 七人のカンピオーネ、トップバッターは最古参の侯爵さまです。
 リリアナが何度か「無趣味な方」発言していますが、実は割とスポーツマン。
 御年ン百歳にしてサンドバッグたたいてボクシングしたり、筋トレしたり、特注ロードバイクを乗りまわして弱虫ならぬ『弱い者いじめペダル』をしたりという設定が実はあります。
 ま、それはともかく、生粋の悪役にしてダークヒーロー枠です。
 彼の権能には、あるコンセプトがあります。
 ずばり『集団戦』用。
 一八世紀生まれでリアルに戦争を――兵士としても隊長、将軍としても多数経験しているという人物なので、戦いを個人対個人のものと考えない。そういう理念が能力にも大きく影響しているのです。

■■ 羅濠教主 ■■

【基本能力】
体力:武林の至尊
運動能力:武林の至尊
知力:賢い人です、世間知らずですけど
感覚:鋭い人です、世間知らずですけど
生命力:難攻不落の強靱さ

【人格的特徴】
●武林の至尊
●知勇兼備、天下無双
●デレるほどに強くなる
●お姉さま

【権能】
『大力金剛神功』The Power
 金剛力士のパワー、筋力を羅濠教主にあたえる。
 言ってしまえば、ただ“それだけ”の権能ながら、史上最高の武術家である彼女にとってはいかなる神剣、兵器にも勝るアドバンテージとなる。
 さらに筋力を黄金のオーラに変えて外に発したり、金剛力士のアバターを具現化させたりと、その用法は意外と多彩でもある。(仁王尊・金剛力士より簒奪)

『竜吟虎嘯大法』Dragon Voice
 声を超音波に変える権能。歌や詩という形で吟じる時間をのばせばのばすほど、超音波はすさまじいほどに破壊力を増していく。
 羅濠教主は鍛え抜いた体力と喉にまかせて、七日七晩でも謡いつづけることができる。
 とはいえ、さすがの彼女もまだ実行したことはない。そうしたときの破壊力、もはや想像もつかないほどであろう……。(聖歌の女神ガーヤトリーより簒奪)

『百草芳菲、千花繚乱』Hopeless Forest
 周囲に草木や花々を生み出す。花畑を作る程度で収めることもできるが、時間と呪力さえかければ日本列島を丸ごとジャングルに変えることも可能。
 通常の草木や花以外にも“食人植物”や“知性を持つ植物”なども生み出せる。
 教主が全精力を傾ければ、中国全土を腐海に変貌させることも不可能ではない――。(木行の神・太歳神より簒奪)

『黄粱一炊夢』Terrible Metropolis
 羅濠教主が住まいとする街は勝手に繁栄していく。
 まず土地が豊かになり、農作物は必ず豊作となる。この権能は経済面にも影響をおよぼし、その土地の商工業は神がかり的に大発展する。都市に住む人々にも大なり小なり幸運が転がりこんでくる。モラルも上昇し、治安も安定する。
 ただし、この権能の発動には一定数以上の人口が必要となる。
 また、教主が去ったあとは一気に没落してしまう。(豊穣神サトゥルヌスより簒奪)

『将軍令、男児当自強』Kung fu Cult Master
 羅濠教主の号令のもと、武術の鍛錬に参加したことのある者全てに効果をおよぼす。
 教主が勇壮な『戦いの歌』を謡い、それを彼らが聞いたとき、彼らの武術は少林寺の武僧もかくやという一流のレベルに引きあげられる。
 教主の歌があるかぎり、彼らの肉体は銃弾すら跳ね返す『鉄頭銅身』の硬さとなる。
 彼らはもちろん、教主に絶対服従。命令されずとも、教主が念じるだけで、その思うとおりに行動するようになる。(中国・白蓮教の弥勒仏より簒奪)

『蒼天已死』Heavens fall
 この権能を使用すると、日食もしくは月食が起きる。
 通常は半日程度で収まる。しかし、大量の呪力を消耗するものの、長期にわたって維持することもできる。一週間でも数か月でも、数年でも……。(ペルシアの天竜ゴーチフルより簒奪)

【備考】
 本当の名前は羅翠蓮。
 絶世の佳人にして最凶魔王、羅濠お姉さまです。シリーズ中いちばんの萌えキャラは彼女だと、作者は考えております。
 ちなみに、カンピオーネたちの権能は全てが戦闘向けではありません。
 彼らは各々の性格・嗜好に応じて、戦略的・呪術的・儀式的な権能を手に入れていくケースも多く、羅濠教主はその傾向が特に顕著です。
 というのも、教主は当然のようにこう考えているからです。
「我に無双の金剛力と竜虎の嘯声あり。これ以上の絶技、武の至極たる我が身に必要であろうか……あるはず無し!」と。
 自分で自分を『武の頂点』とか言っちゃう人なので、みみっちく“必殺技とか攻撃呪文、たくさんそろえなきゃ~”とか考えないのです(苦笑)。
 日食/月食を起こす権能にしても、有効な使いどころは作者もまったく思いつかないものの、実にお姉さまらしいと思います。

■■ アイーシャ夫人 ■■

【基本能力】
体力:華奢だけどしぶとい
運動能力:実はすばやい
知力:学業優秀
感覚:意外と危険に敏感
生命力:どんな状況でも生き残る生命力

【人格的特徴】
●いつもたおやか、おしとやか
●でも行動力は超旺盛
●実は魔性の女
●永遠の一七歳

【権能】
『生か死か』Live or Die
 傷ついた者たちに命の息吹を吹きこみ、超回復させる。
 さらにこの力を反転させて、周囲一帯に冬の寒波と死をもたらすことさえもできる。が、呼びこんだ冷気はその地にしばらくとどまり、厄災の原因となる。(春と冬の女王ペルセポネより簒奪)

『幸いなる聖者への恩寵』Grand Luck
 善行の成就に努めている間、アイーシャ夫人はすばらしい幸運に恵まれる。
 ただし、幸運が一定量を超えたあとは、とんでもない不運にも襲われるようになっていく。(地蔵菩薩より簒奪)

『妖精境の通廊』Beyond the Timeless Horizon
 過去の時代のどこか、あるいはアストラル界につながる『穴』を造り出す(註・この権能で未来に向かうことはできない)。
 穴はアイーシャ夫人の帰還と共に消滅する。が、夫人の意志で残すこともできる。(妖精女王ニアヴより簒奪)

『女王の呪縛』Charm and Curse
 アイーシャ夫人と接した人々を全て彼女の信奉者に変える。
 信奉者たちは夫人の命令に絶対服従し、彼女のために命すらも躊躇なく捨てる。さらに彼らの能力までも一時的に向上させることすらできる。(バビロニアの女神イシュタルより簒奪)

『不思議の国の剣』Jabberwock Slayer
 剣と甲冑で武装した魔神を呼び出し、使役する。ただし、民衆の支持なしでは決して召喚できない。(伝説の騎士にして守護聖人サン・ジョルディより簒奪)

【備考】
 シリーズ後半にて、ついに登場を果たしたアイーシャ夫人。
 カンピオーネとなる前は世界名作劇場系の波瀾万丈な人生を送っていました。その容姿・性格・権能、前々から『こういう感じのひどい人にしよう』と考えていて、実際に書いてみたら予想どおりのひどさでした。
 まあ、容姿と性格に反して、やることなすこと全てが傍迷惑な女性です。
 権能も当然、その性格にふさわしいものとなっております。


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