『過去のない男』短評

『過去のない男』

2002年の作品。冒頭で列車でヘルシンキにやってきた主人公は公園で暴漢に襲われ、記憶喪失に。近くの病院で意識を取り戻し、そのまま外に出る。川辺で寝ているところを子供に助けてもらい、トレーラーハウスに住む一家から施しを受ける……という話である。

要は記憶喪失で名前すらも忘れてしまった主人公を通してフィンランドの現状を映している。トレーラーハウスに住む庶民や労働階級の人の優しさ・温かさ。銀行や警察などの融通のきかなさ・横柄さ。こういったものがよく表れている。トレーラーハウスと周りの風景が素晴らしく、雲を上手く使っている。鰯雲なんかは一昨日観た小津安二郎の作品のようである。 

『真夜中の虹』も良かったが、この作品は決定的につきぬけている。映像・色彩だけでない。名前のない男のミステリー。彼をとおしてのフィンランド。
救世軍(国でやってる福祉サービス?)のイルマとの恋愛。そして、これらを集約した結末・ラストシーンが素晴らしい。もうひとつ意外だったのは音楽がいい。オリジナルなのか英語・フィンランド語のロックがいい。

エンディング・テーマもこの作品らしい歌詞でおもしろい!

評価:★★★★★

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