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もうひとりの自分 第14話

みなさんは所謂「神社に参る派」ですか「神社に参らない派」ですか?
私の場合、「神社に参ろうにも参れない派」である。
意味がわからないと思うが、生まれてから何をしても
できないくせに、最後は神頼み、他力本願か?
神社の鳥居の前に立つと何だか自分自身がさらに
情けなく思う。
神社の存在は知っているが、本殿までは生まれてから
一度も入ったことはない。
私にとって神社や寺院は敷居が高すぎた。
私が例のアパートに住んでそろそろ2年を迎えるころのことだった。
私は神社に行かずともルーティンがある。ルーティンとは自分が決めた動作などを毎回繰り返して行うことを言う。
私のルーティンは古いトイレを素手で磨くことだ。
汚いよね。そう、汚い。洗剤もゴム手袋など使わず、便器の中の溜まっている水で洗うのだ。
食欲をなくすという犠牲はあるが、意外に何だか落ち着くのだ。
しかしそれをやっても何の幸運も訪れない。

画像はイメージです。しかしトイレを掃除する際は無理をせずに清掃用品と洗剤を使うことを強く勧めます。

水回りの掃除をやろうとしたら蛇口から水が出ない。
最近仕事してないくせに謎の多忙に襲われて水道光熱費を払っていない。半年分滞納している。しかしアパート
の家賃は真面目に払っている。
仕方ない汚れた手は近くの公園にある水道で徹底的に
洗おう。

その夜、何もすることも食べることもできないので
そのまま寝た。


夢の中の私は神社にいた。夢の中だが、生まれて初めて眼にする神社本殿。
神社の名前はない。ただ石碑に「神社」としか書かれていない。

ここに来れば願いごとが叶う。
「どうかこの地獄から解き放ちますように」


深夜に神社に詣ると不吉だというが。

その夜。落ち着かない私は日中詣った神社に行った。
とにかく運を。運だ。

本殿の前に立ち手を合わせようとしたとき、
「ちょっとすみません」
声をかけられ後ろを振り向くとメガネをかけた中年の男性が立っていた。男はこう言った。
「何の願いごとか知らないけど、こんな夜にお参りすると不幸になるんですよ。だから明るい時にやったほうがいいと思いますけど」
心の中で「何をしようが私の勝手だろ」と思ったのだが、その中年の男性の目つきが本気だとすれば、
やっぱり夜に神社に行くと不幸になるのは本当らしい。
しかし男性はニコと笑みを浮かべながら
「別にいいよ。どうせ今言ったことは噂にすぎないから。今日だけ拝んでいいぞ。」

私は気にせず「どうかこんな地獄から解き放ちますように」と日中に行ったときと同じ願いごとを呟いた。

中年の男性が「何か願いごとした?」
さすがの私も「別にいいだろ!」と怒って去る。
しかし男性はいきなり大声をあげ
「今この世自体が地獄だ!現に俺もお前も地獄にいる!
周りを見ろ!」
周囲は先程と変わってあたり一面まるでどこかの国から爆撃されたように建造物は破壊され、木々は燃え、道路には遺体がゴロゴロと散乱している。
しかし神社だけは健在だった。

そのとき空から巨大な鳥が私に近づきそしてその爪で私を掴み連れ去った。
おい!どこへ行く!?

そこで目が覚めた。
何にせよどうせ連れて行った先はその怪鳥の巣だろう。
つまり私は喰われる運命だったのだ。

私に神社の参拝は無理なのだ。

第14話おわり

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