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エンゲージメントは困難だが価値がある

Customer Engagement Conference Tokyo( #CECTOKYO)の登壇者発言を3回にわたってまとめてきましたが、「ここで語られたことは2020年代にいろんな企業が直面するマーケティング課題そのものなのでは?」と思えてきました。

10年後の2030年頃に企業のマーケティング担当が振り返り座談会なんかをしたら、みんなが「こういうの乗り越えてきたよねえ」と語ってそうじゃない?と。

登壇者のみなさんの顔ぶれを改めて見直すと、内外のベンチャー経営者、レガシー企業のマーケ担当者、世界を股にかける人気のDJに野球監督までいて!

「顧客エンゲージメント」に対する思い・関わり方には幅があったと思うんですが、全員が相当な実践・知見をお持ちの方々であったのは間違いないわけです。

これから「カスタマーサクセスだ」、「CXだ」、「EXだ」、と顧客とのエンゲージメントを軸に経営しようとする多くの企業やチームの人たちが近未来に直面することが語られていて、いくつかの解決のヒントも提示されていて。それってものすごいお宝なんじゃない? と考えたわけです。

・・・という視点からCEC-Tokyo(のうち、見聞きしたAホールでのセッション)で共有された課題と解決のヒントをまとめてみました。


1. 「顧客エンゲージメント」の意義と価値を説明できるか?

そもそもなぜわたしたちは「顧客に売りまくる」マーケティングでなくて「顧客とエンゲージメントする」マーケティングに向き合おうとしているんでしょう? 

大半の企業では「顧客エンゲージメントによる成長」よりも「マス広告でリーチして売上る成長」に慣れているし、まだそちらに信頼を置いていると思うんです。

「わたしは(エンゲージメント側ではなく)売り込み側の人です」
(IDOM 中澤氏)

という発言(その実、顧客エンゲージメントを高めるアプリを提供していたというオチがあったが)や

「マス広告にお金をかけたら何人にリーチできるという話には慣れてたのに、アンバサダーの投資対効果は説明できなかった」
(DELL横塚氏)

という発言もありましたが、それなりの歴史を持つ企業ではとくに、顧客エンゲージメント施策の導入に多少なりの摩擦や軋轢があるようです。会社の偉い人から

「エンゲージメントの意義はなんなの?」
「それを導入すると、どんなメリットがある?」

という問いかけがあったとき、なるほど、と思わせる説明と効果の見込みを出したいところです。このあたりはセッションでになかったと思うんですけど、こんなことが言えるかな、というのをまとめてみました。「ちがうだろ」「もっとこんなのがあるんじゃない?」って意見あったらコメントもらえるとうれしいです。

マーケの上司への説明: 認知〜購買〜共有の視点から

WebとスマホとSNSの普及によって、従来型のマスメディア経由の情報や広告メッセージよりも企業・ブランドによるブランドストーリー(存在理由・成し遂げたいこと・共有したい価値観など)の直接発信が共感を集め、生活者の行動に大きな影響力を与えています。

ブランドストーリー(世界観)と一致する「共感可能な顧客体験」や「素晴らしい顧客体験」の提供できる企業・ブランドは顧客をファン顧客に転換します。それができない企業・ブランドは消費・忘却されます。そんな状態で集客しても期待値を満たせず、悪い評価が拡大されるリスクもあります。
経営者や役員への説明: 競争力向上の視点から

顧客エンゲージメント戦略では、「顧客体験」という自社プロダクトの質を高めて「顧客から選ばれ続けるブランド、推奨され続けるブランド」を実現します。

集客の販促予算─販促会社への予算投下や割引販売への利益放出─を減らしますがWebでのメッセージ・SNS発信・ファン顧客による口コミがトラフィック作ります。

浮かせた分の予算を顧客満足度向上・従業員施策に回して本質的な競争力強化を図ります。競合優位性の構築・優秀な人材の確保という課題にも対応します。

仮に競合企業が先にエンゲージメント戦略にスイッチした場合、集客コストをかけながら本質的な価値改善にも投資するという二重苦に陥るリスクがあります。
予測効果の算出

顧客価値の算出方法は割と定番のものがあります。既存顧客にアンケートを実施して、NPS設問と「2年後このブランドを利用していると思うか」、「他の人に企業やブランドを口コミしたことのある回数(人数)」を聞き、直近1年の消費金額・利用回数などを紐づけて集計します。

推奨者/ 中立者/ 批判者の率と、それぞれの実績数字を比較して、推奨者が仮に○%増えたら、批判者が○%減ったら、という試算をします。


説明ができて、じゃ、とりあえずやってみようか、という話になったとして、気を緩めてはいけません。

顧客エンゲージメント施策の成果が数字になって出てくるまでには時間がかかるのです。端的に言うと施策の成果が明確に数字で確認できない期間が発生します(一般的にリアル店舗などでは明らかに数字になって出てくるまでに約2年かかると言われていますし、デジタルの取り組みでも数ヶ月かかると思われます)。

一方、「マス販促に投資して売上げる」手法は即効性があるので、エンゲージメント施策を導入してしばらくすると、効果がないので元のやり方に戻したほうがよくないか、という声が上がるのがパターンです。先に手を打っておきましょう。

解決のヒント1: 定性コメントでメリットを訴える

アンケートを企画し、評価コメントを収集する仕組みを作っておきます。
顧客だけでなく従業員のコメント取得もとても有効です。

顧客とフェイストゥフェイスで対話できる施策をあらかじめ用意しておくとベターです。全社員参加のイベント(サンリオフェア)や、他部署のメンバーも協力したアンバサダープログラム(DELL)などはその好例。顧客だけでなく参加した従業員が想定外の気付きや価値を見つけてくれることもしばしば。
解決のヒント2: 限定的なパイロットプロジェクトとして推進する

命綱を付けずに「マス販促」のパラダイムから「エンゲージメント」のパラダイム側に飛び移るのは心理的にも大変です。

最初から「これはパイロットプログラムです」と宣言して小さく始めます。「売り込みか、エンゲージメントか」を迫るのではなく、エンゲージメント型マーケの研究として実施し、成功したら徐々に拡げてゆくという方法であれば、上司や経営者の不安も少しで済みます。


2. どこから「顧客エンゲージメント」を始めるか?

「顧客エンゲージメント施策」はなにから始めればよいのでしょうか。いろんな意見がありそうですが、わたしは以下ふたつの要素がとても重要だと感じました。

1. 顧客の心理・行動をデータと直接対話で深く理解する
2. メンバー全員が参加し、顧客視点に立って提供体験を改善する 

webやアプリへの顧客エンゲージメントツールの導入、体験店舗の設置、リアル会場でのファン顧客との交流イベント開催、アンバサダープログラム導入・・・などなど、いろんな企画が出てきそうですが、こういう要素が抜けると形だけに終わってしまいそうです。

施策が思いつかない、というのであれば、まずは既存顧客へのアンケート調査からスタートしてみてはどうでしょうか。「いまの顧客実態を測定する」とか「顧客課題を知る」という意味でも「低予算ですぐできる」という意味でも、既存顧客へのサーベイ実施はいいことづくめです。

また、アンバサダープログラム・店舗イベント・ファン顧客イベントなど、顧客とフェイストゥフェイスで対話する定期的な機会・コミュニティの重要性は増していると感じました。手間もコストもかかりますが、社員向けのキックオフイベント開催するよりも中長期的なROIは高いかもしれません。

顧客コミュニティを持つメリット
・企業・ブランドのファン顧客を増やすキッカケになる
・ファン顧客どうしのつながりそのものが「すばらしい顧客体験」に
・多くの従業員を巻き込んで「リアルな顧客」を理解できる


3. エンゲージメントに従業員をどう関わらせる?

セッションでは、従業員をどのように施策に対応させるか? という話も話題になっていました。

「デジタルネイティブの組織づくりをしている。
 具体的には従業員がサプライチェーンを理解するよう教育している。」 

(FABRIC 森氏)
「5G普及でライブコマースの可能性が広がる。 
 DXによって仕事を失うという話が出るがうちは人をクビにはしない。
 働く人をどうデジタル人材に変えるかが課題」

(コメ兵 藤原氏 )

顧客エンゲージメントなのに、なぜ従業員の話?  と感じるかもしれませんが、「顧客視点に立って顧客体験を改善しつづける」しくみ作りには、顧客接点に関わる従業員の参加が必須なのです。

たとえば・・・

リアル店舗で
「昨日公式通販サイトでトップに出てた商品置いてますか?」
と聞かれた時の対応
リアル店舗またはカスタマーセンターに
「なんで友達のアプリには30%引きクーポン表示されてるのに、わたしは表示されないんですか? わたしの方が会員ステージは上位なんですよ?」
と聞かれたときの対応

というシーンを想像してみます。スタッフ対応次第でそのブランドの顧客体験は天と地ほども変わってしまいます。

顧客エンゲージメント施策は、全従業員が「お客様を満足させるために!」と顧客視点での気付きを共有する、あるいは、すぐに行動できる環境整備必要です。

企業にありがちな「これはうちの部署の管轄のことだから口を出さないでほしい」といった縦割り意識や「回答は顧客満足推進室のお墨付きを得てから」といった官僚的なワークフローは、顧客から見れば「無駄に長い時間をかけられた」「たらい回しさせられた」という、Bad顧客体験を作るだけです。

結局、顧客エンゲージメントの経営や運営をつきつめると、必然的に部署間の情報共有をどうするか、従業員にどれだけ権限委譲するか、貢献をどう捕捉・評価するか、モチベーションをどう向上させるか、などなど、従業員エンゲージメントの話が欠かせなくなります。
顧客エンゲージメント施策は従業員エンゲージメント施策と背中合わせなのです。

情報共有
1. 方針共有─ WHY─ その顧客エンゲージメントが目指しているか
2. 情報共有─ HOW─ 具体的にどんな施策がいつから実施されているか
3. 事例共有─WHAT─具体的にどんな対応が顧客に喜ばれているか  
権限委譲
1. 顧客対応の権限範囲(金額・状況・内容)の明示
モチベーション
1. 販売実績・評価のルール明示(ゴールとアシストなど)
2. 顧客対応による成果・活躍の評価
3. 顧客評価の活用

もう少し続きます。




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