男性ホルモン半年経って少年になりましたとさ。

あれから6ヶ月。
半年、性同一性障害にとって最初の半年がキツイんだよ、と念を押されていた。

突如、生い茂った森に投げ込まれて、息もうまくできずに、ガムシャラに拓けたゴールを探すゲームだった。
ようやく今、向き合って文章を書けそうな状態まで回復したので、半年間をまとめておく。


Good newsかBad news、どっちを先聞きたい?ってアメリカ映画みたいなセリフを言わせてもらおう。どちらも確かにあったから。

最初は、恨めしく思ったBadな体験を書きだしてみます。時系列としてもそれがイイ。

打ち始めたときちょうど、いわゆる就活生という立場でした。
ええもちろん、無理でした!
キミ就活なんてやめなよ、と散々言われる人間だったので、ホルモンの影響カンケーなく無理だったと思うし、そもそもやる気もなかった。同調することにアレルギー反応が出てしまう。

それなのにそんな時期にホルモンやりだして、生活どころか生存が危うくなりました。個人差があるものなので影響の少ない人もいるようです。

でも、自分にはモロにダメージがあったみたいで。自分以外の当事者がこんな苦しみを乗り越えてきたなんて、信じられなかった。よく生きてるね?えらい。

FtMは性欲と食欲ヤバイ話ばっかりじゃん、と言われることもあります。男のマネかよ、って?でも、ネットに転がっている呟きなんて全然ヤバくないから。それくらいささやかな寝言じゃないですか。眠れないし、動けなかった。

金は食費だけに消えていく。エンゲル係数100だよ。そのくせ適応しきれなくて胃袋は悲鳴を上げる。しょっちゅうお腹を壊してました。なのに肉が食いたい、ついさっき食べたのに食いたい。

まったく意味のわからないムラムラに襲われて、のたうち回って眠れなかった。のたうち回る、って現実にしたことありますか。化け物に取り憑かれたありさまだった。覚せい剤を打ったナメクジみたいになっちゃったな。

ふっと触ると、ニキビがあった。ゴツゴツして脂ギッシュな。素直にいうと、なんだこれキモチ悪い、と思った。洗顔料を変えても、全然消えてくれない。つるつるな肌は二度と訪れないんじゃないかと思うと、今まで意識していなかったところなのに、なぜだか無性に寂しかった。「キレイな肌」と言って好きな人に触れてもらった肌なのに。今ではキタナい肌なんだ。

そういえばだけど、就活に関しては、エントリーシートなんて書いている場合じゃなかった。自分、死にそうなんだもん。エントリー以前。ついでにいうと、鬱状態で、精神科にも通わなきゃならなくなりました。


もうどうでもいいやと思って、処方された抗うつ剤を一気飲みした。ぐったりと、翌日目が覚めた。ああこのカラダなんておしまいでよかったのに。

精神科の先生に報告すると、一気飲みしちゃうんじゃ薬を出せないよ、ということで(当たり前ですよねすみません)、大切な人に薬を預かってもらった。三日に一度くらい会って、預けている分を少量ずつ渡してもらった。

自分がゴミクズで、なのにどうしようもなくて、よくわからないけれど一人ではとてつもなく孤独で、宇宙にひとりぼっちみたいだった。誰かに会ったところでまともにコミュニケーションも取れないのに、この寂しさをどうしていいのかわからなかった。誰も理解してはくれない。自分さえも理解者にはなれない。

友人は少ない。だから同じ人ばかりに電話をかける。朝も昼も夜も関係ない。落ち着けない病気みたいだ。
あと一度電話をかけたら縁を切られるんじゃないか、と怯えながら、それでも一人でいるのが怖かった。同期はもう働いているか、就活中だった。自分は布団で泣いていたら夜になって朝になっていた。惨めだ。3ヶ月が経過していた。

無理すぎるので、実家に戻った。犬を撫でるためだ。拒否されることがないから、生きもののぬくもりを感じて一日中抱いていた。1週間弱滞在して帰るとき、犬にも別れがわかるらしく、潤んだ大きな瞳がそこにあった。声変わりしても忘れないでいてくれるのが嬉しい。

無理すぎるので、退学しようと思っていた。卒業までのあと半年がもたなかった。仕方ないから休学でもいいや、と調べだした。でも学費少額で休学できる申請期間は前日までだったと判明した。休学してもしなくてもどっちみち大金払わなきゃならない。力を振りしぼって卒論を書いてみることにした。




不意に手を見ると、血管が浮き出ていた。大喜びした。ホル開始して初めてのGood newsだ。
その1週間後、目覚めたら突然、声が低くなっていた。誰これヤバ、と録音した。その日の講義では、初めて「くん」付けで苗字を呼ばれた。「彼」という二人称を使われた。

周囲から男性扱いされるようになったので、男子トイレに行くようになった。大学内では知り合いにバレないように気を使う。

気づけば服も靴もピチピチになっていた。食費の次は、今日着る服がない。大問題だ。一歩歩くごとにイタイイタイと呻かなきゃならないので、靴を買った。半年経ってしっかり1センチは成長した。

性格変わったね、と友人に言われる。
あんまりいい意味ではないのだとわかる。

どうしようもないが、テストステロンのせいなんだろう。闘争心とか、社会的立場といったやつが、自分の意識に芽生えてきた。面倒くさいけれどそういった内面変化にも付き合わなきゃならない。

肩幅がガッシリした。眉毛が濃くなった。身長伸びた?
言われなきゃ気づけなかった。でも以前からの変化を見届けてくれる人がいるという事実が、嬉しかった。

飲食店のヘルプで、あちこちの店舗へ出向く。初対面の人からは「かわいい少年」と判断されるようになった。
あまりに童顔なのが残念だが、男には見えるしなおかつ無害な奴、と見なされることは以前よりずっと生きやすい。こんなにもラクなんだ、と拍子抜けしてしまった。かわいい男子枠って最強かもしれん。少なくとも今まで女性として生かされてきた立場と比べれば、今が一番快適。



自分は少年時代を過ごせなかった。思春期は奪われていた。だから10年遅く、周囲とは共有できないけれども、それでも一人で楽しんでやりたいと思っている。
やがて美青年になりたいし、イケオジになりたいのだ。身も心も。


あのとき死ななくてよかったね、と言えたらそれはものすごくたくましいことなのだ。

#エッセイ #ジェンダー #トランスジェンダー #FtM #大学 #LGBT

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