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フィンランドサウナとは | それは巡礼である

フィンランド、それは日本から一番近いヨーロッパ。首都ヘルシンキまでは飛行機で9時間ほど。バルト半島の一角であり、いわゆる「北欧」。サーミと呼ばれる原住民がおり、その歴史にはロシアの影響が濃い。

首都ヘルシンキの緯度は北緯60度。日本の北、稚内の緯度は北緯45度。気温はヘルシンキの方が5度は低い。国土の1/3はラップランドと呼ばれる北極圏であり、最低気温は-30℃にも及ぶ。ラップランドにあるロヴァニエミという町にはサンタクロースが住む「サンタクロース村」がある。秋から春先にかけてのオーロラが有名。他にもムーミンやマリメッコなどその魅力は数えきれないほどあるが、ひとまず筆を置こう。

サウナについてだ。

サウナの英語表記はSaunaだが、これは同時にフィンランド語でもある。
実はサウナとはフィンランド由来の言葉だ。その起源ははっきりとしていないが、それが必要とされる理由は明確だ。

防寒と衛生。ロシアやフィンランドのような極度に寒い地域では暖をとること、それすなわち生きることだ。そして我々が現在身をもって体感しているように人類の歴史とは感染症との戦いでもある。サウナのような高温多湿の環境はとても衛生的な環境だった。フィンランドにはサウナで出産を行っていたという記録もある。

フィンランドに限らず、すこし南に降ると、ローマの公衆浴場、ネイティブアメリカンの「スウェット・ロッジ」、日本の「から風呂」。いわゆる温泉以外の蒸気浴などの文化は世界中にある。つまり、「サウナ」という枠組みでみたとき、「フィンランドサウナ」という言葉から連想されるほどの特徴は少ない、といったことがサウナについて調べ始めるとわかってくる。

では、フィンランドサウナとはなんだろう?

中央フィンランドにあるサウナビレッジのスモークサウナ

トゥルクの公衆サウナ

世界のサウナ首都タンペレ、カウピノーヤン・サウナの湖

フィンランドの冬は長い。夏は「白夜」と呼ばれる太陽の沈まない一日中明るい時期もあるが、逆に秋から春にかけては太陽が昇っている時間はとても短い。冬のフィンランドには1週間ほどしか滞在したことがないが、夜の静けさが日中の活気をも奪っていることは到着すればすぐにわかる。

そういったお国柄が影響しているのか、フィンランドの建物の内装はシンプルさ、またはポップさを感じる。僕も北国の育ちだからよくわかるけれど、雪の降る土地では屋内で過ごす時間が長くなるので建物の内装に注意が向く。内側への注意、それは人間にも言えるのかもしれない。フィンランドで出会った人々には不思議な静けさを感じる。

閉業してしまったトゥッリン・サウナの会議室

ニーハマ・サウナ隣接のカフェ

フィンランド、それは森と湖の国。国土の約70%は森であり、10%は湖などで構成される。フィンランドには18万もの湖があり、湖を囲むようにサマーコテージがある。一年で最も過ごしやすい夏、6月下旬の夏至祭のあと、人々はサマーコテージへ羽を伸ばしに行く(といっても、僕にはまだその経験はない)。

森、湖、自然、冬、雪、これらのキーワードからフィンランドと自然との深い関わりが見えてくる。実際、フィンランドには自然享受権(ヨカミエヘンオイケウス)という考えが根付いている。これは”自然を尊重しながら誰でも無料で楽しむことができる”という考え方で、居住者のいない広大な森や沼地を自由に散策し、きのこやベリーなどの食物を採集したり、自然の中でレクレーションを楽しんで良い」とされている。

フィンランドに住む人々が実際にどのくらい自然に意識を向けているか、それはわからない。しかし、首都ヘルシンキにはトラムが走っており、自家用車を必要としない環境がある。Whimと呼ばれるMaaS(Mobility as a Service)は地下鉄やトラム、バスなどでの移動に共通で使える交通サービスもある。市内の道路には「Biking Road(自転車道)」もあり、通勤時に自転車に乗る人も多い(驚くなかれ、冬場にも乗るらしい)。そんなヘルシンキの街並みはとても美しい。

ITなどの情報通信技術も駆使しながら、自然とのつながりも忘れない。2020年の国連の世界幸福度ランキングで一位になれたのは、そんなことが背景にあるのかもしれない。

だからこそ、”フィンランドサウナに入る”とはフィンランドという国、そこに住む人々、思想や文化を垣間見る体験だ。

サウナ室、そこは時には静かな場所で、時には歌声が響き、時には会話が、そして時には涙がある。自らの人生を見つめる場であり、自然との深いつながりを感じる場であり、あるいは人から秘めた告白を受ける場であるかもしれない。家族や近しい友人同志では一糸纏わぬ姿で時間を過ごす特別な場所。温めたサウナストーンにロウリュすることで生じる蒸気と音は静寂を際立たせるアクセントだ。

それらの粋がフィンランドサウナには詰まっている。同じ文化を持つ国が一つとしてないように、「フィンランドサウナ」という言葉で言及されるサウナもまた一つだけだ。日本でフィンランドサウナに入るとき、僕はいつもフィンランドという国に想いを馳せている。凍てついた街を、森を、湖を歩くような気持ちでサウナに入っている。

自然享受権 - 散策する権利, VisitFinland
https://www.visitfinland.com/ja/kiji/everymans-rights/

Twitter @FinlandSauna

#finlandsauna
#finlandsaunaambassador

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