フィンランドの国民叙事詩”カレワラ”にみるサウナの記述

2019年3月にタンペレでSaunakonkeliからサウナセレモニーを受けた折に何度か耳にした名前、ヴァイナモイネン。「ヴァイナモイネン」とはフィンランドの国民叙事詩「カレワラ」に登場する賢人です。歌や詩、魔法に長けた人物として描かれ、フィンランドの民族楽器であるカンテレを作中で創り出しています。

https://note.mu/johiroshi/n/n7dd93fa45094

「カレワラでは、ヴァイナモイネンを中心にサウナについて何度も記述されている」そう聞いた僕は帰国後、カレワラ物語(の日本語訳)を読んでみました。

この記事では、カレワラ物語でサウナがどのように記述されているかをまとめてみたいと思います。漏れがあったら教えてね!

日常の中のサウナ

「フィンランド人にとってサウナとは日常にある非日常。内面を見つめたり、人と語り合う場」というのはこの記事を読んでいる皆様にとっては常識でしょう。カレワラ物語でもそういった描写が何度か見られます。

 アイノは、サウナで使うシラカバの枝の束を作るために森に分け入ったとき、思いがけずヴァイナモイネンに出会った。ヴァイナモイネンはアイノを見て有頂天になった。娘は想像していたとおりのかわいい子だ。彼はすぐにプロポーズした。

『カレワラ物語ーフィンランドの国民叙事詩』p23

アイノとはヨウカハイネンの妹で、ヨウカハイネンはヴァイナモイネンとの勝負に負けて、年頃の実妹をヴァイナモイネンの嫁にやると勝手に約束してしまいました。これは、アイノがその事実を知って嫌がった後の描写です。「サウナで使うシラカバの枝の束」とはヴィヒタ/ヴァスタのことです。

 「そびえ経つシラカバの木よ、なぜ泣くのだ。おまえはこの地でおだやかに育ち、戦争にも争いにも行かないですんでいる」
 「わたしはみじめで、何もできず、何も持たず、哀れで不幸せなシラカバです。皮をはがれ、葉のついだ枝は束ねてサウナで使うはたきにされ、子どもは樹液たっぷりのわたしのわき腹に傷をつけます。牧童はわたしの白い皮をはいで、スプーンやナイフのさややいちご積みのかごを作ります。男たちはわたしの根元で斧を研ぎ、畑を作るためにわたしを切り払い、サウナの薪にします。冬には凍える寒さの中で葉っぱを落とされ、裸でふるえていなければなりません。なんと不運なわたし」

『カレワラ物語ーフィンランドの国民叙事詩』p174

こちらはヴァイナモイネンがシラカバの木からカンテレを創り出す手前のシーンです。シラカバがヴィヒタやサウナの薪に使われるだけでなく、フィンランド人の日常に広く使われていることがわかります。シラカバの樹液は日本でも飲むことがありますね。

 意地悪ロウヒはこのすべての病気をカレワラに送りこんだ。しばらくたつと、カレワラの人々はいままで知らなかった病気に悩まされはじめた。病人の掛け布団がぬれ、病床の下の床が腐った。そこでヴァイナモイネンはポホヨラの病気と戦うための魔法にとりかかった。
 まず、清らかな流木を薪にしてサウナを温めさせた。それからサウナで使うハタキを、人目を避けてこっそり持ち込んだ水にひたした。蜂蜜の湯気を立て、呪文を唱えた。そして痛みの娘に助けを求めた。

『カレワラ物語ーフィンランドの国民叙事詩』p178

「サウナ、酒、タールが効かないなら、致命的な病気だ(If booze, tar, or the sauna won’t help, the illness is fatal.)」という古いことわざが示すとおり、フィンランドでは具合の悪いときにサウナに入る習慣があります。こちらはロウヒがサンポという宝物を壊された腹いせにカレワラの人々を呪っている描写です。

儀礼としてのサウナ

フィンランドではサウナは教会のように神聖な場所として扱われています(Fin: Saunassa ollaan kuin kirkossa / En: One should behave in the sauna as you would in the church.)。結婚式前や出産、死者を清める場所として使われてきました。それらは神聖な意味と同時に、当時はサウナほど清潔な場所は少なかったという衛生的な事情もあります。

 妹は、求婚に行くときの昔からのしきたりに従って急いでサウナを温めた。風で倒れた木と、急流から集めた石と、愛の泉の水を使ってサウナを温めた。そのあいだ、イルマリネンは鍛冶場でアンニッキのためにベルトと指輪と耳飾りを作ってやり、アンニッキの手に押し込んだ。そして妹が温めてくれたサウナに入った。目が生き生きと輝き、ほほが赤くなり、手足が白くなるように。イルマリネンがサウナから出てきたとき、それは男前の青年に変身していたので、アンニッキはもう少しで自分の兄を見まちがえそうだった。
『カレワラ物語ーフィンランドの国民叙事詩』p97

こちらは鍛治の腕がよいイルマリネンがポホヨラの娘に求婚に行くときの描写です。フィンランドでは結婚式前に女性がサウナに入る習慣がありますが、男性が求婚に行くときもサウナに入るようです。

最近は、日本でも朝サウナへ入ってから仕事へ行く人やプレゼンをする直前にサウナへ行く人がいると聞きます。僕もたまにダンスへ行く前にサウナに入ることがあります。サウナは精神をとても良い状態にしてくれるのでオススメです。

 島の住人、レンミンカイネンは畑を鋤いていた。耳ざといレンミンカイネンは川向こうの村のざわめきを聞きつけた。
 「ポホヨラで婚礼がおこなわれている、それもおれ抜きで」
 レンミンカイネンは怒りに顔をゆがめ、仕事を途中でほうり出して家に駆けもどり、母親に頼んだ。
 「母さん、すぐにサウナを暖め、甲冑を用意し、戦いに行く身支度をととのえてください」

『カレワラ物語ーフィンランドの国民叙事詩』p116

こちらはイルマリネンとポホヨラの娘の婚礼の宴を聞きつけたレンミンカイネンの描写です。戦いに行くときもサウナへ入る習慣があるようです。

 かわいい末っ子、一家の赤ちゃんだったマルヤッタは、コケモモのおかげで身重になり、父親のない子が生まれるのを待つ身になった。
 冬は長く重苦しい。マルヤッタはこっそり人目をしのんでサウナへ行くようになり、ゆったりとした衣服を着るようになった。マルヤッタに何が起こったのか、だれにもわからなかった。マルヤッタ自身にもわからない。

『カレワラ物語ーフィンランドの国民叙事詩』p189

こちらは特別なコケモモを口にしたマルヤッタが男性との性行をなしに妊娠をした後の描写です。出産前でもサウナへ行くみたいです。以下ははマルヤッタの出産直前のシーン。

 「みすぼらしいやつよ、走って何しに来たのた」
 「マルヤッタを助けてください。あなたの温かいサウナで赤ちゃんを生ませてあげてください」
 ルオトゥスの如棒は腰に手を当てひじを張り、広い居間の真ん中に歩み出てきてからかった。
 「ふしだらなやつめ。私生児を生むのなら森へ行ったらいい。サウナの代わりに馬が息をかけて温めてくれるだろうね」

『カレワラ物語ーフィンランドの国民叙事詩』p191

結びに

「カレワラ物語」は物語としてもおもしろいです。偉大な人物として描かれているヴァイナモイネンですが、しょうもないことを何度かやっていて、所謂聖人として描かれきれていないところもなんだか人間味があります。

フィンランドではサウナの中で歌を歌ったり、結婚前に元彼の名前を叫びながらヴィヒタで体を叩いたりと色々な習慣もあったり。

結婚前の儀礼をおもしろおかしく紹介する動画↓

引用はすべて、キルスティ・マネキン著、荒巻和子 訳の「カレワラ物語ーフィンランドの国民叙事詩」より。

・『カレワラ物語―フィンランドの国民叙事詩』キルスティ・マネキン 著、荒巻和子 訳
・Wikipedia - ワイナミョイネン
・フィンランド式サウナ: クイックガイド初心者向け10のヒント
・サウナイキタイ - [連載] 公衆サウナの国 フィンランド 後編「日本のお風呂とこんなに似てる」



Grazie per leggere. Ci vediamo. 読んでくれてありがとう。また会おう!