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「コト」のデザインの本質

最近では若者を中心に「モノ離れ」が進んでおり生活者の消費が「モノ」から「コト」へ変化しています

「モノ」のデザインが中心だった以前と比べ、デザインのあり方はどのように変化していったのか。デザインで人々の生活や思考にどのような影響をあたえたのか。探ってみます。



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なぜ「モノ離れ」が広がったのか

戦後、日本では「モノ」という生活用品の普及が続き「モノ」は、もはや生活の一部となり当たりまえの存在となっていきました。
当たりまえのように「モノ」を扱う生活者の購入意欲は低下し、その結果商品は売れなくなり「モノ離れ」が始まったのです。

もう一つ大きな要因としてあげられるのが、SNSの普及にともない若者を中心に「体験型の消費」を好む傾向にあることです。
「SNSで話題にしやすい」というところで「モノ」ではなく「コト」が消費されやすい時代となりました。

「コト」のデザインの始まりは、上記にもある生活者の「モノ離れ」からでした。日本の場合こうした現象はバブルがはじけた1990年代からいちじるしくなります。
これは「モノ」があふれる現代における生活者の、「モノに対する興味の薄れ」を示しています。
言葉を変えれば「興味の持ち方」や「ニーズのあり方」が大きく変化した事になります。

さて、どのようなかたちで生活者の体験をデザインしていったのでしょうか。実例に沿って追っていきます。


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「コト」のデザインの発端

ウォークマンを例に見ていきましょう。ウォークマンとは、1990年代にブームとなったポケットに入る小型の音楽プレイヤーになります。
このウォークマンの登場により、「モノ」から「コト」へデザインが変わったといえます。
考えてみれば、ウォークマンをつかう際は「機器の外観」というよりか、「機能」を楽しんでいます。

では、ウォークマンは何をデザインしたのか。それは、「音楽を手軽に楽しむこと」つまり「モノ」ではなく「コト」、「機能」を中心にデザインしたといえるでしょう。このウォークマンの登場でデザイナー達には「機器ではなく人の行為をデザインしているのだ」という理解が広まりました。

消費の傾向が「モノ」から「コト」へと変化したようにも思えます。

このように生活者の要求は生活用品にとどまらず、自己の経験を豊かにすること、さらにはその体験を共有することまでに成長しました。

デザイナー側としてはサービス要素を加えた商品開発が主流になり、「コト」のデザインということでデザインの領域が拡大したようにも思えます。

このような時代の流れを目の当たりにすれば、もはや「モノ」のデザインよりか、生活者の体験や経験を豊かにする「コト」のデザインが現代では求められるようになりました。


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スターバックスという空間

誰しもが耳にしたことがある、あるいは訪れたことがあるスターバックスの登場です。遡ればスターバックスは1996年に日本へ初上陸しました。

美味しいコーヒー、心地良い空間を演出する音楽やインテリア、接客等、私たちが体験したのは居心地の良い時間、空間でした。これは、まぎれもなく企業によって提供される考え抜かれたビジネス、デザインなのです。

こうした体験は、一人の人間としての経験に刻まれると同時に、他の人に紹介したい共有したいという気持ちが芽生えたかと思います。
そう理解した途端に、「コト」のデザインの本質が理解できたように思えます。


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「コト」のデザインの本質

「コト」のデザインは、人々の「経験の質」に目を向けることでデザインできるといえます。ここで「エクスペリエンスデザイン」が登場します。

エクスペリエンスデザイン(experience design) とは、ユーザーなどが製品やサービスを利用する過程や、そこで価値を感じる出来事をデザインする行為である。


「エクスペリエンス」つまり「経験」、人々の経験に着目してデザインしていく方法論となります。

デザイナーが人々の経験を提供するためには、人々が顕在的・潜在的に求めていることが何かを分析し、それに対する解決策をさぐり、
与える人(デザイナー)と使う人(生活者)とが一緒になり効果を確かめながら作り出す、いわば共同作業なのです。

このようにして「コト」のデザインが登場し、デザインが人々の経験に直で関わるようになったことでデザインがより身近になったかとおもいます。このことによりデザイナーだけがデザインするという時代は過ぎ去ったといえます。


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デザインが人々にあたえたこと

上記のようにデザイナーが人々に「経験」を提供するとき、提供された「経験」を手がかりに新たな生活場面をえがくのは、提供された人々に他ならないのです。言い換えば、自分の生活を自らデザインすることになります。

「経験」いわゆる「コト」のデザインの登場により、生活者の自己開拓能力、自分自身の手によって新しい関係を築いていこうとする意志、すなわちデザインをする力を育てることができました。

作り手のデザインが生活者のデザインを生み、生活者のデザインが作り手のデザインを刺激する。このようにデザイナーと生活者のキャッチボールが新たなデザインを生み、人々の経験を生活をより豊かで楽しいものに築き上げたのです。

「コト」のデザインが人々にあたえたのは、デザイナーと生活者の境界を越えた共同作業の場であり、最高の合作をつくりあげたことなのです。


デザイナーが「コト」に向き合う

生活者の求める「経験」いわゆる「コト」は、はっきりしていない要素が強いです。「モノ」としてデザインすることのできない「コト」の対象はあやふやで、どのようにデザインすれば良いのか。デザイナーに問われる難所であると思います。

しかしこの無理難題が、人々の経験をデザインし人と人をつなげる。新しいデザインの思考をつくりあげました。

人々の「コト」をデザインするためには、事細かい要求に応えるのではなく、むしろ個人の経験・体験を社会の豊かさへと導く「価値のめぐり」を築いていくことに向けられるべきだといえます。

多様な社会が目の前に立ちはだかり、最終的には生活者自らが生活を想像し作り上げていかなければなりません。デザイナーは「価値のめぐり」を築くにあたり、生活者目線に立ち、個と社会とを結ぶことで新しい社会価値をつくり上げていくことが大切になります。

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「コト」の消費がすすむ現在。提供者と生活者の距離は近くなりました。これからの「コト」のデザインは現代社会に生きる人々の共同作業で将来に繫げる合作だと私は思います。


「コト」のデザインに迫りました。最後まで読んでいただきありがとうござます

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