40歳でEVOに行くという事(2)

そして迎えた1998年の春、社会人としての第一歩を踏み出す事になるのですが、やはり大手外資系企業の仕事は厳しく、ストZERO3やスト3サード、ギルティギアシリーズ等、次々と魅力的なタイトルが発表されるのを横目に、格闘ゲームの最前線からは自然と身を引く形になっていきました。また、会社も当時人気企業だったので、同僚もリア充タイプが多く、自分と同レベルでゲームに熱意を持ったタイプはほとんど見当たりませんでした。4年間ゲーセン通いに明け暮れ、バイト代のほとんどをゲームに費やしていた自分の生活と比べると、TOEICほぼ満点の帰国子女だったり海外経験が豊富な同僚達の経歴は自分の目には大変華々しく映ると同時に、自分に強い引け目を感じるようになり、会社の中でもゲーマーである事はひた隠しにして生活していました。

とはいえ、ここまで夢中になって取り組んできた格闘ゲームから簡単に離れられるわけも無く、仕事や飲み会などで忙しい毎日でも、帰宅してから軽くゲームに触れたりはしていましたが、「社会人になってまでこんなゲームをやっていていいのだろうか」、と言う自問自答に駆られる毎日でした。たまに休日に一人でゲームセンターに行って対戦台に座ってみても、引け目を感じながらの対戦に魂が宿るはずも無く、ほとんど勝てなくなっていました。何とも充実感の薄い、砂を噛むような数年を過ごしていました。

そんな環境にも慣れてきた頃だったでしょうか。満を持してバーチャファイター4という新作がリリースされました。久々のビックタイトルの登場とあって、ゲームセンターにも活気が戻っていました。当時地元のゲーム仲間達に久々に会った時に触ってみたところ、これが本当に面白く、気づけばバーチャ4に夢中になっている自分が居ました。しかし、実はバーチャファイターシリーズはこれまでゲーム性にあまり馴染めず、真剣に取り組んでいなかったタイトルでもありました。また、バーチャファイターという一世を風靡したタイトルです。プレイヤーの層も非常に厚く、まさに魑魅魍魎が蠢く、そんな世界でした。また、ゲームをすることに対する引け目もやはりまだどこか拭い切れず、バーチャの世界ではほとんどこれといった成果を上げられませんでした。それでもバーチャに夢中になれたのは、特にプレイヤーの個性が強烈で、プレイヤーとの交流が目的になっていったという不思議なタイトルでもありました。

ここで築いた友人関係は本当に長く、彼らがいなければ今の自分は無いでしょう。そんな友人の一人にかまあげという強豪プレイヤーがいます。彼はそれほど器用なタイプのプレイヤーではないのですが、やると決めた時に有言実行する能力は、自分がこれまで見たプレイヤーの中でも最大級に高いプレイヤーで、一時期プレイしていたソウルキャリバー5ではその強い意志で当時のEVOで世界7位という好成績を残した程です。彼のゲームに対する意志の強さからは、これまで自分がゲームすることに罪悪感を感じていた事などつまらない事なんだと心の底から思い知らされると同時に、彼もまた家庭や仕事を抱えている中で、ゲームごときに情熱を傾けることの馬鹿馬鹿しさもそれはそれで理解しているのがまた共感できるポイントでもありました。一見矛盾するような話なのですが、馬鹿馬鹿しい事であっても、やろうと決めたことに引け目や罪悪感を感じることは全く不要だというのは彼らから学びました。彼らとは今でも一緒にオンラインゲームをプレイしたり、時には仕事で交流する機会もある程ですし、おそらく一生の付き合いになっていくでしょう。そんなかけがえの無い財産をバーチャは自分に与えてくれました。

その後ストリートファイター4や、バーチャファイターシリーズも新作が出てくるのですが、個人的には結婚や出産というイベントを迎えた事、仕事面でも昇進や海外出張の機会が出てくるなど責任や重圧も増えてきました。さらにゲーム自体を取り巻く環境もネットゲーム文化の興隆とゲームセンター文化の衰退といった波が訪れ、ここでまた格闘ゲームからさらに一歩遠ざかることになりました。それでもバーチャ仲間とは相変わらず交流が続き、頻繁に飲みに行ったり他のゲームを一緒にプレイしたりしていました。そんな中でプレイし始めたのがLoLです。LoLは自分もバーチャ仲間もこれまで経験したことがないジャンルのゲームで、夢中になるのにそれほど時間はかかりませんでした。また、このゲームを通して世界のe-sportsの普及度と、日本国内での認識度の低さを感じることとなります。仲間内でもe-sportsについて頻繁に意見が飛び交うようになっていきました。

さらに、これだけ勢いがあるゲームが出てきたことから、これまでのキャリアからe-sportsの国内での普及に何か貢献できる事はないだろうか、例えば新卒時には存在しなかったオンラインゲームのインフラ関係の職種であれば、直接ゲームを開発するわけではない上、自分のこれまでのキャリアや志向にマッチしているのでは、という事も意識するようになりました。おりしも、新卒からこれまで15年以上勤めてきた会社の業績が大変悪化しており、転職を考えざるを得ない状況でもありました。今後のキャリアを改めて考える機会を否応なしに突き付けられる中で、これまで単にユーザーだったゲーム業界に関われる事はないだろうか、とも考え、いくつかチャレンジもしてみたのですが、やはり30代後半での転職はキャリアが重視されます。最終的にはこれまでの経験が直接評価される外資IT系の競合他社へ転職することになりました。新卒の時と同じく、仕事でゲームに関わる事は厳しい状況でした。もちろん生活がありますから転職が決まった事には一先ず安心し、喜びましたし、一般的にはエリートコースと呼ばれるであろうキャリアを進んでいる事になるのですが、この時点でも、ある種の埋まらない空白感が心のどこかにありました。

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