40歳でEVOに行くという事(3)

転職先の事情もあって、単身赴任をする事になりました。幸運にも転職した会社の風土は自分に合っており、順調に溶け込むことが出来ました。そして転職から半年以上が経ち、新しい環境にも慣れてきた頃、ストリートファイター5が発売されました。スト5も、最初の2,3週間は本当に勝てませんでした。ランクマッチでも当初最下層のブロンズからなかなか脱出できず、もう自分は競技シーンで闘うことは二度と許されないのだろうかとも思い始めていたのですが、一人のバーチャ仲間に救われました。現在プロゲーマーとして活躍している板橋ザンギエフです。彼の要所要所での簡潔かつ的確なアドバイスをきっかけに、これまで培ってきた2D格闘ゲームの勘が戻り始めました。そこからシルバー、そしてゴールドに到達するまでそれほど時間はかかりませんでした。かつて使い続けていた春麗が今も思い通りに動いてくれる、という事が本当に嬉しく、そして何よりも格闘ゲームで上達する楽しさを思い出す事が出来ました。

そんな良い流れに乗った中で、冒頭の通りLoLの大会を生で観戦して、世界の競技シーンを体感してみよう、今回のEVOに参加してみよう、という決意に至った訳です。仲の良いゲーム仲間たちも、これまでどこか一歩引いていた自分がEVOに行くと決めたのは意外だったようで、かなり驚かれました。しかも2D格闘ゲームの大会に参加するのは本当に久しぶりの事で、最後にまともに参加したのは1997年のスト3のゲーメスト杯という有様です。もちろんEVOは世界中の強豪、プロゲーマーが集まる場所です。そこで勝ち上れるとは思ってもいないのですが、EVOに参加するからには、これまでのようにどこか一線を引いたような状態ではなく、自分に悔いが無い状態にして参加したいとも思うわけです。

EVOに参加するとは決めたものの、何を目標にすれば満足なのだろうかと考えるようになりました。競技という性格上、目標を素直に設定すると、究極的には1位を決めるものなのだから、おのずと優勝が目標になってしまうわけで、それはたった一人しか達成ができない大変なものでもあります。まして自分のような参加者が優勝を目標にするのはあまりにも高すぎて、これまた現実的でもないわけです。

では現実的な目標はどう立てればいいのか。これは本当に悩みましたが、この時ヒントになったのはかつてのゲーム仲間の組長というプレイヤーの一言でした。現在進行形でひたすらバーチャファイターに向き合い続けている彼は、勝った負けたという事に執着するのでもなく、ただただ自分が納得できる動きができるようになっている事に満足するようになってきた、趣味として修める中で人生の糧やヒントになれば良いという考え方を教えてくれました。

加えて物理的な制約もあります。40歳ともなるとやはり仕事の責任は大きく、貴重な夜の時間も接待などに奪われる事も増えてきます。単身赴任とはいえ家庭もあり、それなりに忙しい毎日です。そこで限られた時間で達成できる適切な目標設定が必要だと考え、EVOでBest64になる、等の結果を目標にするのではなく、自分の努力で実現できそうな3つの目標を課す事にしました。

・EVOまでにプラチナになる事

・現役の2D勢と交流する事

・英会話力を上げる事

一つ目の目標は、やはりEVOに参加するからには一定の強さが必要だろうと考えていました。また、プラチナという壁はそれなりに高く、到達するにはこれまでのように迷いや引け目を感じているようでは実現できないレベルだも考えていました。徹底的に使える時間を集中してスト5に注ぎ込むことと、自分には無理だと思う気持ちは全て消し去り、目の前の小さい課題をクリアしていくことで、この目標は何とか6月中に達成することが出来ました。

二つ目の目標は、最近はバーチャ仲間と仲良くゲームをしていたので、プレイする仲間には恵まれていたのですが、実際に現役で2D格闘ゲームに触れているプレイヤーとの接点が少なく、得られる情報も断片的でした。これは何度か秋葉原のe-スクエアの対戦会に通い、仲良くなった方を中心に春麗LINEを立ち上げるという形で、交流の輪を広げることに成功しました。

三つ目の目標は、これは現在の仕事内容でも必要とされるのですが、せっかくアメリカに趣味のゲームで行くのだから、英語で交流が出来たほうが数倍機会があるはずで、e-sportsの国内発展という事を考えたときにも英語が出来た方が絶対に良いと思い立ちました。これは定量的な目標値が無く、終わりの無い話ですが、ほぼ毎日音読の時間を作ることで、以前より少しは聞き取る力が明らかに向上したと体感できるようになってきたところです。

これらの目標の達成は自分で言うのもなんですが、若干ストイックな毎日でした。当然業務に影響を出すわけには行かないので、自己管理の能力が最も問われました。特に毎日の練習時間を確保するために、アルコールはほぼ絶つことにしました。出来る限り飲み会は断り、どうしても参加しないといけない場合は、ノンアルコールビールだけを飲み、それから練習したりもしていました。週末にゲーム環境の無い家族の元に帰る時は新幹線の駅から帰宅の間にゲームバーに立ち寄る(傍から見るとただのろくでなしですが)、という工夫も取り入れ、出来るだけプレイできる機会を作るようにも心がけました。

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