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【東大院試】外部生が学際情報学府を受験した話【先端表現情報学コース】

2021年夏に「東京大学大学院 学際情報学府 先端表現情報学コース」を受験した際のメモ。院試は情報が極端に少ないため、この記事が将来受験を考えている方々の役に立てば幸いだ。

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この記事の内容について嘘偽りはないものの、研究科やコースによって提出書類や試験の内容は異なるため注意が必要だ。また、同じコースの受験でも年度によって異なる可能性もあることを留意しておきたい。

学際情報学府について

もし「学際情報学府ってなんやねん?」という方がいたら、まずはホームページを参照してほしい。

学際情報学府(以下学府)は東大の研究科の中でも直属の学部組織を有していないため、外部生をかなり広く受け入れている研究科だ。そして学際の名の通り、文理の垣根を超えて様々な側面から情報学を研究対象として取り扱う環境が整っている。
ただし、初めから学際的であることを目的とした組織ではないということは意識しておくべきだろう。つまり、「専門性はないけど学際的な視野は持ってるぜ!」という人を求めているわけではないということ。土台として専門性があって、その上に学際的な研究が成り立つわけだ。

学府は6つのコースから成り立っており、その中でも総合分析学コース先端表現情報学コースはかなり理工学寄りの内容だ。

実際、先端表現情報学コースからの学生を受け入れている研究室は、ほとんどが情報理工系や工学系にも籍をおいている。私の場合、大学院でやりたい研究が情報理工学と工学にまたがる内容だったため、両方の研究室にアプローチできる学府は大変好都合であった。
もちろん情報理工系(または工学系)のみに籍をおいて、学府の学生は受け入れていない研究室も多々あるのでよく調べておくべきだ。

院試の概要

東大の研究科は(理系の場合)多くが筆記試験+面接という一般的な内容となっているが、先端表現では面接の方にかなり重点が置かれている。例年は一次選考が書類選考(英語スコア含む)と筆記試験、二次選考が面接という形になっているが、2021年は2020年に引き続き某ウイルスの影響で筆記試験は中止となっている

つまり、提出書類のウェイトがかなり重たいということだ。来年以降、筆記試験が復活するか否かは感染症の状況次第ではあるが、一般的な院試と比べると筆記試験のウェイトが軽いということは意識しておくと良いと思う。(もちろん手を抜いて良いというわけではない)

面接の内容は大学院での研究計画を10分でプレゼンするというもので、発表後の質疑応答(15分程度)も含めたプレゼンの質で合否が決まる。このプレゼンの元となる研究計画書は出願の時点で提出となるため、早い段階から進学後の研究についてリサーチを進めておくべきだ。
特に、学部での卒論の内容と院でやりたい研究の内容がかなり違うと時間的に厳しくなってくる。私は卒論の研究を発展させる形で書いたため、院試の勉強で卒論のリサーチも同時に進む一石二鳥モードだった。

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余談だが、東大では複数の研究科を(試験日が被らなければ)併願可能である。情報理工系や工学系を併願することで、行きたい研究室の扉を複数のルートから叩くこともできる……が、試験の方向性が異なるためリスクヘッジにはあまりならないだろう。

また、アート系のバックグラウンドを持った学生を集めるための特別選考枠というのも用意されている。作品に関するポートフォリオの提出が必須となるが、芸術分野で成果を上げている方は挑戦してみると良いかもしれない。

気になる倍率だが、外部生に門戸を広く開いている影響でかなり高めだ。今年の倍率は一次選考で2~2.5倍程度(受験番号からの推測)、二次選考が1.5倍程度となっていた。もちろん研究室単位で枠を取り争うため、人気のある研究室を志望する場合は厳しい戦いになる。
ちなみに私が第一志望にした研究室は残念ながら大変人気のあるところだった。まあそれだけ良い研究室だということなのだろう。

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(どうでもいい余談だが、このサムネは安田講堂ではなく駒場の教養学部1号館である。)

提出書類

意外と用意すべきものが多いため要注意。詳しくは募集要項をチェックしてほしいが、特に注意しておきたいのが「成績証明書・英語試験のスコアシート・研究計画書・自己推薦書・(第三者による)推薦書」の5つ。
なお、書式が定められているものも多く、募集要項の後ろに付随しているページ(PDF)を利用するか、ウェブサイトからdocx形式でダウンロードして書き込むことになる。提出方法は全ての書類(一部除く)をPDFに結合してアップロード、さらに紙に印刷して郵送というデジタルとアナログのハイブリット方式となっている。

まず成績証明書だが、これは4年に進級した時点で発行できるため早めに大学へ取りに行くべき。このご時世だと郵送に対応している所も多いはず。ちなみに厳封すると後でPDFにできないためNG
なお、原本の成績証明書にGPAの記載がない場合は(優良可しか表示されないなど)、別途GPAが記載された非公式の成績証明書を同封すれば良い。私の大学もなぜか公式の和文証明書にGPAが記載されておらず、いくらでもコピー可能な英文証明書を同封した。ただし、GPAがどの程度考慮されるのかは不明である。ちなみに、卒業見込み証明書は必要ない点にも注意したい。私は間違えて発行してしまい手数料300円が無駄になった。

英語試験のスコアシートはTOEIC・TOEFL・IELTS・英検と幅広く受け付けており、それぞれ提出方法に違いがあるため要チェックだ。TOEFLの場合、ETSに東大へ郵送するようリクエストし(20ドルくらい強奪される)、さらにウェブサイトから無料でコピーできるスコアシートを提出する。郵送にかかる時間を考慮すると、募集要項が公開されたあたりですぐにリクエストするのが良いだろう。

なお、TOEICとTOEFLの点数換算表は公開されていない。東大はTOEFL推しっぽいため、スコアを持っていればTOEFLを提出した方が良さそうだ。TOEICの点数もアピール材料になりそうであれば自己推薦書に記載すればよいだろう。私はTOEICの点数を持っていなかったため、何も考えずTOEFLを85点で提出した。

研究計画書だが、これは内容が長くなってしまったため後述する。

次に自己推薦書について。文字数指定は特にないが、800~1000字程度が妥当だろう。私は1000字を目標に書いたが、全く収まらず1500字近くまで膨れ上がってしまった。
フィードバックは仲の良い友人を中心にかなりガッツリ添削いただいた。中には就活終わってなかったり外部院試に向けて勉強していたりする人もおり、わざわざ時間を割いていただいたのは感謝してもしきれない。

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書くにあたっては、「自分のどういった能力が進学後の研究に役立つのか」を明確にし、その根拠として自身の実績や経験を述べていく形式にした。就活のエントリーシートと同じで、「あれもこれも!」と実績を散りばめるだけでは何をアピールしたいのかわからなくなってしまうだろう。
一方であくまでも自己推薦書であるため、経験を通じて形成された価値観とか、挫折をどのように乗り越えたかといったESで定番の話題を入れる必要はないだろう。

裏面には実績などが掲載されたURLを記載する欄があり、何かあれば書いておけばプラスになるかもしれない(もちろん必須ではない)。
私の場合は良い感じに実績になりそうなプログラミング作品と映像作品があったため、GitHub Pagesにまとめて公開した。

余談だが、自己推薦書の作成を通じて自身を客観視することで自己分析がかなり進んだ気がする。ここで得た考え方や伝え方は就活にも役立ちそうで、思わぬ収穫である。
というか3年の前半でインターンとかいろいろ受けてたのに、自身の成長に繋がることが一切なかったなあ……あれは完全に時間の無駄だった

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話を戻して、最後の第三者による推薦書である。これは、基本的には卒論指導教員に書いていただくのが良いだろう。私の場合、研究室の先生に普段から授業や自主勉強会でお世話になっていたため迷わずお願いした。大学の教員が1人の学生に割けられる時間や意識は限られるため、早め早めの連絡・リマインドを心がけよう。

ちなみに「推薦書なんて選考の材料になるの?」と思うかもしれないが、意外と面接でツッコまれることもあるらしい。(特に自己推薦書の方)
私の場合、授業外で同期5~6人と週イチで実施していた自主勉強会について言及された。面接でツッコまれた際には内容を深堀りできるよう考えておくと良いだろう。

スケジュールについて

学府の院試説明会が5月中旬にあり、募集要項もほぼ同じ時期に公開されていたと思う(記憶が曖昧)。興味のある研究室は早めに連絡しておき、時間のある春休み期間中にオンラインで訪問しておいた。

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ただ、一つだけ連絡の取れなかった研究室があり、そこは説明会の際に訪問することになった。また、6月上旬にはオフラインでの研究室訪問にもお誘いいただいたき(第一志望の研究室ではなかったが)、実際の研究設備を見ながら過去の研究について詳しくお話を伺えた。
しかも、博士修士の学生さん6人に対しお客さんは私だけという素晴らしすぎる待遇だった。(オフライン訪問が2日間用意されており、私が行けなかった日程では5~6人見学者がいたらしい)

某ウイルスの影響により直接伺うのは厳しい状況であるが、やはり実際に見に行った方が研究生活のイメージも掴みやすいため、機会があれば積極的に訪問したいところだ。

出願の締切は7月中旬で、8月中旬に一次選考の合否発表、下旬に二次選考とその合否発表といった感じだ。

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勉強のスケジュールとしては、進学を決心した11月~12月あたりに忘却の彼方であった数学の復習をし(……といってもマセマ読んだだけ)、年明け後TOEFLを受けた3月までは英語メインでTOEFL対策と卒論のリサーチ、4月から研究に着手しつつ数学・専門領域の勉強を進めた。
とはいえ研究室訪問の段階で「このままなら今年も筆記試験は中止だろうね~」といった空気が流れていたため、どちらかと言うと研究計画のリサーチの方に時間を割いていた

提出書類の準備に取り掛かったのは併願する東工大の出願が終わった6月中旬。初めに自己推薦書を1週間ほどで仮完成させ、さらに1週間かけてフィードバックを反映させた。

その後、研究計画書を2週間ほどで完成させ、7月中旬の締切に間に合わせた感じだ。筆記試験がない分書類のクオリティが求められるため、間違いなくこの時期が一番忙しかった。私の場合書類の準備に入ってからこの事実に気が付き、急遽バイト先の塾に2ヶ月のお休みをいただいた。授業の振替・引継ぎをしてくださった先生方、生徒さんには改めて感謝である。

筆記試験の勉強方法

結果的に筆記試験は中止になったため、筆記対策をする必要はなかった……が、東工大を受験する関係である程度の対策はしていた。まあ、東工大も運良く筆記免除になったので一度も筆記試験を受けることなく院試を終わらせることになったのだが。

(東工大についてはコチラを参照してほしい)

私は筆記よわよわ人間だったため、例年通り筆記試験が実施されていたら普通に足切りされていたかもしれない。

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学府の対策として使った教材としては前述のマセマ(線形・微積・常微分方程式・力学)と過去問である。東工大用に黄色い問題集も進めていたが、難しすぎて撃沈していた。

他の大学院と同様、過去問については解答が公開されていないので注意。研究室訪問時などに譲っていただくのが確実だろう。Twitterで院生にDM飛ばしてみるとかもありかもしれないが、私はTwitterやってないのでよくわからない。

配点が公開されていないため何とも言えないが、必ず出題される数学の小問で確実に得点できれば足切りはされないと思われる。さらに選択問題でもある程度稼げばアドバンテージになるといった感じだろう。力学・制御工学あたりが選択問題で出題されやすいため、対策しておくと良い。

研究計画

研究計画は一次選考にも二次選考にも大きく関わる非常に重要な要素だ。特に筆記試験が中止になった今年はさらにその重要性が増しているだろう。
研究計画書には進学後の計画をA4判4ページ以内にまとめることになる。

私と同じ大学かつ同じ専攻の先輩方が提出されたものをみると、参考文献表も含め2ページ程度が多かったが、昨年度合格している内部生の友人によると4ページぎっしり埋めている人が多いとのことだった。
もちろん計画書に必要な情報を過不足なく記述することが第一であり文字数に縛られすぎるのは良くないものの、できればぎっしり埋まる程度の内容にすることを意識しておくと良いだろう。

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なお、研究計画書のテーマ設定については事前に第一志望の研究室の教員に連絡して許可をいただく必要がある。(研究室によって若干異なる)
私の場合、研究室訪問の際に大学院でやりたい研究テーマをある程度共有していたため、メールでサクッと許可をいただいて終了。具体的な計画書を教員に添削いただくのはコンプライアンス違反になるが、研究室の院生にアドバイスいただくのは全く問題ないとのこと。というかむしろ積極的に壁打ちすることをオススメされた。

構成は内部生の友人が提出したものを参考にし、以下のようになった。

1.はじめに(研究の背景)800字程度
要するにイントロダクション。研究の意義、社会的背景、学術的背景に触れながら研究の概要を説明。

2.関連研究 1800字程度
先行研究について引用しながら解説。技術的側面についても説明。

3.計画 3300字程度
具体的な研究の進め方について詳しく記述。基本的には先行研究の結果を踏まえて複数の手法を比較検証するといった内容。

4.おわりに 300字程度
まとめ。本研究の有用性など。

5.参考文献
SIST 02形式で引用。文献数は21に膨れ上がった。

……といった感じで、本文の分量としては6200字程度。これに研究の概略図やら先行研究一覧表やらを載せて4ページいっぱいいっぱいになった。
文字にするとサラッと書いた感が出てしまうが、実際には「アウトプットするためのインプットが全然足りてないこと」に途中で気づいてしまい急遽追加で論文を読み漁るなど、結構苦労した。B1の頃に受けた地獄のような英語の授業で「人生でここまで英語の文献を読むことはもうないだろう」と思っていたのに、3年も経たずに自己記録更新してしまった

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で、仮完成後はひたすらフィードバックの反映作業となるが、分量が多く専門性も高いため専攻の近い友人数人から添削いただく形になった。
研究の内容やリサーチについての添削は特になく、文章の論理構成や細かい言葉遣いの修正がメイン。というか同世代で計画書を書いた本人より内容に詳しい人がいたらビックリである。

友人からのフィードバックを反映し終わり、「このまま提出してもオッケーでしょう!」というレベルに到達した段階で院生に共有したところ、かなりガッツリ添削いただきさらに数段階ブラッシュアップすることができた。ありがたやありがたや。それにしても、文章全体で一番いらない部分を見極めて削っていく作業はなかなか辛かった。

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余談になるが、少し前にダブルモニターにしたことで計画書の作成から面接までかなり効率的に作業できた。作業効率が2倍……とまではいかずとも1.5倍くらいにはなるためオススメ。

面接対策

出願が終わったら、次は面接に向けた資料作りだ。プレゼンの形式は特に指定はないが、Google SlidesやPowerPointの画面を共有して発表するのが無難だろう。構成としては以下のようになった。

1.学部での学び 1分程度
自己紹介も兼ねて、学部で学んだことと卒論研究の概要を軽く説明。

2.概要 30秒程度
初めに研究の全体像を掴んでもらうため、概要を説明。

3.背景 1分半程度
リサーチした内容に基づき社会的背景を説明。

4.目的 30秒程度
改めて本研究が解決すべき課題を明確にする。

5.関連研究 1分半程度
学術的背景と先行研究の技術的側面を説明。

6.提案手法 3分半程度
具体的な研究の進め方について説明。

7.まとめ 30秒程度
コンクルージョン。

……といった感じで、ほぼ10分(正確には9分50秒ほど)でピッタリ収まる形にした。余談だが、最初に計画書の内容をほぼそのままスライドに落とし込んだ時は発表に27分かかっていた。ここまで圧縮できたのは結構頑張ったと思う。もちろん早口で喋るなどの解決策は採用していない。

(↑スライド作成・発表でかなり参考にした)

スライドの作成では、文字をなるべく少なくし(1~2行程度)写真などの画像をバーン!と載せるような作りにした。まあこのあたりは好みの問題だと思うが、個人的には文字を読ませてしまうようなスライドは嫌いだ

ベイズ深層学習

(勉強会用なら文字だらけでも構わないが……)

質疑応答も含めた発表練習は学外の友人7人ほど(専攻はバラバラ)と1回、研究室の院生とマンツーマンで1回行い、それぞれフィードバックを反映させた。発表の形式は学会にかなり似ているため、1度でいいので学会に参加して聴講してみることをおすすめする。

面接で試験官を担当する教員は全員が志望する研究室の教員とは限らないが、基本的に第一志望の教員はほぼ確実で、他に同じコースの教員1名+他コースの教員2名くらいがスタンダードらしい。中には全然分野の違う教員が来ることもあるため、研究計画プレゼンの対象者を絞り込みすぎない方が良いとのこと。
ただ、私の場合は全員志望する研究室から来た。研究分野によってはそういうこともあるのかもしれない。

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本番の質疑応答では意外にも内容についてあまりツッコミが入らず、むしろリサーチの内容に対する感想が多かった印象。ゼミの進捗報告のようなゆるい感じであっけなく終了した。
で、面接から1週間後に合否発表。郵送される通知書で修論の仮指導教員も伝えられる。仮と言いつつも変更になるケースはあまりないらしく、ほぼ内定確定と見て良いとのこと。
なお、修論で扱う研究は必ずしも研究計画書に沿ったものになるとは限らず、研究室の方針に従って進めていく形になるそうだ。

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おわりに

そんなこんなで東大院試を受けた話だった。思い返してみると、大学院への進学を決意してから合格をいただくまでの短い期間で、本当にたくさんの方々にお世話になった
推薦書の作成を快諾してくださった卒論指導教員の先生をはじめ、提出書類及び面接のブラッシュアップにお付き合いいただいた学内外の友人たち、貴重な情報を残していただいた先輩方、研究室訪問や計画書の相談にご対応いただいた先生方と院生の皆様、お休みをいただいたバイト先の皆様、そして受験生活を支えてくれた両親と猫に深謝の意を表したい。

感謝感激雨あられ!!

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……といったところで今回はここまで

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