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「消え天才シリーズ」日本代表FW大久保嘉人のライバル川田和宏

20年間のライバル関係

大久保といえば、高校サッカーの名門、長崎の国見高校出身で、日本代表としてW杯にも出場し、スペインリーグに挑戦したり、未だ現役で通算ゴールは184を記録するなど、日本を代表するストライカーです。その大久保は高校時代、ライバル視し過ぎて会話さえしなかったライバル「川田和宏」という存在がいました。名将小嶺監督も、その才能を天下一品だと認め、いずれプロとしての活躍を期待していたそうです。

二人は高校時代、練習でも公式戦で対戦するかのように手を抜かずバチバチやりあったそうで、お互いが得点しても一切喜ばず、駆け寄りもしなかったそうです。

大久保は卒業後プロになり、川田は大学進学後、プロ入りしました。しかし、川田がプロ入りして得点数は0。その後はJ1の下の下の下。プロではない都道府県リーグというところまで落ちてしまいました。そのきっかけは、J1で加入したクラブの監督に、ディフェンダーをやってほしいとポジションチェンジを指示されたが、ミッドフィルダーにこだわり、断ったことがきっかけで、チームに居場所がなくなってしまったそうです。

それでもサッカーを辞めず、プレーを続けて行ったのは、「大久保に勝って終わりたい」という思いからでした。秋田のチームへ行き、そのチャンスがやってきたのが2017年の天皇杯。天皇杯とは、プロアマ関係なく、日本一のクラブを決める大会です。その2回戦、当時大久保選手がいた川崎フロンターレと対戦し、川田はベンチスタート。後半、大久保が決勝点を挙げ、後半40分、試合時間残り5分で川田選手が交代出場しました。

川田は、とにかく大久保にボールが渡ったら全力でいく、という気持ちで臨み、大久保にボールが渡るとダッシュで当たりいくも、大久保はスルッとパスで交わし、試合は終了。チームも負けましたが、川田はその大久保のプレーに、「これはもう絶対に勝てない」そう思ったそうです。その5分のプレーで彼は引退を決めました。

引退を決め、川田が最初に連絡したのは大久保で、まともに会話をしていなかったが、辞めるということだけを伝え、34歳で引退し、同じ秋田のクラブで指導者になりました。

人に言われて変わるものではない

川田がプロに入り、監督の指示に従わず、自分を変えなかったことで、転落することになりました。もし今、同じ状況になったら、即答で「はい!」と答えるんだそうです。川田は、自分のためにしかプレーしてなかったと振り返りますが、自分が変わろうとしなかっただけで、今では、自分から変わろうとしているから、そう思えるんだと思います。

自分の信念がなく、人に言われて変わっても、大した結果は残せないかもしれません。少なくとも、川田選手は信念を持ち、その結果転落してしまったとしても、だからこそわかることや見えることがあったんだと思います。
もし、監督の指示に従っていたら、今は「従わなければ良かった」と思っているかもしれません。結果は望むものではないかもしれなくても、人に言われて変わるのではなく、変わるにしても変わらないにしても、貫ける信念を持つことが大事なんだなと思います。

ライバルだからこそ繋がっている関係性

同じチームメイトであっても、会話しないくらい意識し合うライバル関係で、決して仲良くなくても、むしろ仲良くないからこそ、成り立つ関係性もあります。少なくとも、川田にとっては、大久保へのライバル心があったからこそ、転落して不遇の環境になっても、頑張ってこれました。それが良いか悪いかなんて、本人にしかわかりません。しかし、その川田の生き方は、多くの方に感動を呼ぶのではないでしょうか。

人それぞれ価値観が違い、考え方は違います。日本代表を期待されていながらも、結果的にはプロになって得点することもなく、都道府県リーグにまで落ちながらも、「大久保に勝ちたい」という思いだけでサッカーを続け、そのチャンスが訪れました。それだけでも凄いことですし、「勝てない」と実感したからこそ、潔く辞めるのも、男らしくて格好いいです。

例え、敵対するような関係性でも、ライバルでいるということは、それがお互いにとっての支えになるんだと思います。

私も高校の時、ライバルだった親友に、サッカーではお互い認め合いながらも、学業では全敗で(笑)、せめて一つでも勝てるとしたら、世界史しかないと思い、世界史だけ熱心に勉強したら、勝ったかどうかはわかりませんが、体育と世界史の成績だけは5で、大学受験も、世界史のおかげで私立とはいえ合格することができました。

決して、目先の結果が望み通りにならなくても、ライバルの存在のおかげで、違う形で効果を発揮することだってあります。そういう意味では、親友のおかげで、無事大学入試は乗り越えられたのかもしれませんね。

相手が自分のことをどう思っているかなんてわからない

川田は、引退を決めて大久保に電話をしましたが、まともに話をしていない20年間の気持ちを伝えたいと、直接会って話をしました。仲が良かったわけではないので、微妙な空気が流れましたが、思い出を話していく中で打ち解けあっていきました。

大久保にとっては、川田がどんな気持ちで高校時代を過ごしていたのか。今までどんな気持ちでプレーしてきたか。その時に初めて知ったわけですが、相手が自分のことをどう思っているかなんてわかりません。ライバル視してくれと頼んだわけでもなく、自然とお互いそういう関係になったんだと思います。もちろん、大久保にとっても、川田の存在があったから今があるんだと思いますが、自分の存在が相手にとってどういうものなのかは、相手次第です。ほとんどが、相手にとって自分はどんな存在なのかを知ることはないと思いますが、20年もの間思い続けたからこそ、重みがあり、ドラマティックになって感動を呼ぶのでしょう。


「消えた天才」を見る度に、一人一人にドラマがあるんだなぁと実感します。そんな感動の物語にあるエッセンスを抽出して、共有できれば良いなと思います。

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