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300日投稿連続記念!古沢良太脚本『エイプリルフールズ』から感じる物語の真髄

今回は、300日連続投稿記念としまして、2016年4月1日に公開された、『コンフィデンスマンJP』でおなじみの古沢良太さんの作品『エイプリルフールズ』という作品から、物語の真髄とも取れる見事なストーリー展開と、そこで描かれる感動を記したいと思います。おそらく、300日連続投稿記念ということで、大作になると言っておきます。がっつりネタバレ有りなので、観ていない方、観たくてまだ観てない方は読まないで下さい(笑)

物語の全景

この作品は、エイプリルフールに起きた「嘘」による奇跡と、いくつもの物語で人と人とが本人にも気づかないところで絶妙に繋がっており、影響し合っていて、それが時に奇跡を起こすという、笑いを交えながらも感動する、見事な作品です。

対人恐怖症の主人公の新田あゆみを演じる戸田恵梨香さんを中心に、交わることのない点と点が線で結ばれ、それが不思議と繋がり、時に笑いを、時に感動を与えてくれます。

人と人を繋ぐ線

物語を展開する人と人を繋ぐ線はどんな関係なのかを紹介します。

妊娠して認知してほしい主人公の新田あゆみとニセ医者でセックス依存症の牧野亘
実の娘を誘拐する離婚した実の父親と娘
その娘の義父と宮内庁に扮した櫻小路夫婦
いじめられ、不登校になっていた中学生の少年と占いオババ
目覚ましテレビで放送された、42年ぶりに発見された生瀬と菜々緒
レストランのオーナーと刑事
長年因縁の犯人を追う刑事と謎の紳士と占いオババと岡田将生
櫻小路夫婦とヤクザに邪魔扱いされる若者二人

このように、色んな人と人とを結ぶ線が、レストランを中心に全て繋がっていきます。

途中までは、物語がどのように展開していくか、それぞれの舞台で描かれますが、線がつながる途中までを、あらすじのようにお伝えしていきます。

舞台になっている展開の紹介

4月1日になり、ある少年はネットで自分がスペースノイドであると知り、UFOを呼ぶ方法を知る。そして、めざましテレビで生瀬勝久さんが、42年ぶりにインドネシアで発見された日本人としてニュースで取り上げられ、幼馴染と再開し「信じ続けていれば、奇跡は起きるんですね」というアナウンサーの言葉に、戸田恵梨香演じる新田あゆみが思い立って、芋けんぴを食べながら松坂桃李演じる牧野に電話をする。いつもは出ないのに電話に出た牧野に、「あなたの子供ができました。認知してください」と勇気を振り絞って言う。しかし、その日がエイプリルフールだったということで、嘘だと思われあしらわれる。オチでわかりますが、42年ぶりに見つかった日本人というのはエイプリルフールのヤラセで、舞台役者が告知の為にお芝居をするのですが、戸田恵梨香を奮い立たせたのが、一つ目の嘘でした。

別の展開として、ヤクザの寺島進が、「お父さんが事故に巻き込まれた」と嘘をついて、若き浜辺美波を誘拐する。激しく抵抗するが、銃を持っていたことで、素直についていくはまみな。大人しくしてれば、旨いラーメンを食わせてやると、連れていく。

もう一つの展開として、里見浩太朗さん扮する宮内庁の櫻小路夫婦が、優雅な休日にショッピングをしていた。ハイヤーの運転手をしていたのが滝藤賢一さん。ロイヤル夫婦を一日案内することになる。そこで、ランチを運転手の行きつけのお店に連れて行ってもらうように頼むのだった。滝藤には、奥さんから何度も電話がかかってくるのですが、滝藤さんは誘拐されたはまみなの義父で、誘拐したのは実の父、という繋がりがあるのでした。

あゆみが再び牧野に電話をすると、「エイプリルフールだからってついちゃいけない嘘がある」と言われて切られてしまうが、タクシーの運転手が行き先だったレストランのお店の名を言ったことで、意を決して乗り込みに行く。
レストランで待っていたのは、CAの菜々緒。セックス依存症の牧野が”医者”という嘘をついて関係を持つ一人だった。

舞台は櫻小路夫婦に移り、ハンバーガー屋に行くと満席で、若者二人が強制的に退店される。そこで、ウエイトレスが粗相を起こしてしまったことで、店長とウエイトレスは消されると思い焦ると、宮内庁の人間ではなく、嘘をついていたと明かす一安心してお店を出て、運転手にも謝ると、「下々に不安を抱かせないように、嘘をつかれたのですね!!」と、滝藤は疑いはしなかった。

さらにもう一つの展開として、占いオババが手にかかれた目で、岡田将生を占っていた。そこに刑事がやってきて、占いオババを詐欺罪で連行する。占いは、嘘のようでもあり、本当のようでもあった。

スペースノイドだった少年は、不登校だったが、UFOを呼ぶ為に、地球の友達にお別れを言ったり、やり残したことがないようにしなければならない為、学校へ行き、好きだった女の子に無理やりキスをし、自分をいじめていたいじめっ子に仕返しをして立ち去ってしまう。

ハンバーガー屋を追い出された二人は中華料理屋へ行くが、ここで、3つの線が交錯する。レストランにカチ込む前の腹ごしらえで戸田恵梨香がラーメンを食べており、そこにはまみなを連れてヤクザ二人がやってきたことで、またもや二人はヤクザに威圧されて追い出されてしまう。店の料理を片っ端から持ってこいと注文して、料理を食べていると、「大人しくしてたら遊園地に連れてってやる」と、父親としての優しさを見せる。そこで、ヤクザとあゆみの線が繋がってしまい、はまみなのいたずらで鞄を入れ替えたことで、運命は大きく変わっていく。

舞台はレストランに戻り、菜々緒の誘惑に欲情した牧野がお店を出ようとすると、あゆみが棒を持ってお店に乗り込んできていきなり殴りかかる。「妊娠しているのは嘘じゃない!」とそのお腹を見せるが、病気だとあしらわれると、自分を落ち着かせる為に食べようと鞄の中から芋けんぴを取ろうとしたら、銃が入っていた。牧野の暴言に切れたあゆみが発砲すると、店内は混乱する。瞬時に覚悟を決めたあゆみは、引きこもり犯としてお店を占拠する。このレストランで、全ての線が交錯します。


感動の種明かし

【余命僅かだった櫻小路夫人と、思いやる夫】

宮内庁の人間を扮してロイヤル夫妻は、実はただの一般夫婦でした。なぜそんなことをしたかというと、奥様は病気で余命わずかだったのです。夫は妻にその事実を隠し、優雅な1日を過ごそうと計画したのでした。ハイヤーの運転手を雇い、宮内庁の人間のようにして、非日常を味わう。普段行くことのないハンバーガー屋やゲームセンターに案内してもらい、楽しみました。仕上げには、ナイトクルーズに乗るのですが、レストランでの立てこもりに巻き込まれたコーラスカルテットの二人が間に合わなかったことで、代わりに客の中から参加者を募ると、櫻小路夫が手を上げ、夫婦で参加します。「アメージンググレイス」を歌っている中で、妻の病気の告知シーンが回想されますが、それがもう涙なしには見られません。「治療をやめて、残された時間を大切にした方がいい」と言う医師の言葉を、妻には言えない夫の目に入ったのは、「4月1日」のカレンダー。「妻には、嘘をつきます。先生、外出許可を下さい。」と、この一日の始まりを知るのでした。

船に揺られながら、「少しは、楽しんでもらえたのかな?」と妻に聞くと、「とっても!最高の、エイプリルフールでした。ありがとうございます。私に、嘘をついてくれて。」余命のことを妻は知らないと思っていた夫でしたが、妻は自分の体のことはわかっていたのです。「もう、何にも思い残すことはないわ。私は、本当に幸せでした。ありがとう。」そう言って泣きながら抱き合う。嘘によって、人生の最後に、愛を深める掛け替えのない思い出が生まれるのでした。

【今生の別れだと覚悟し、身分を隠して娘を誘拐して時間を過ごす実父と、父としての覚悟が決まる義父】

ヤクザということもあり、離婚した実の父が、対立する暴力団のタマを取ってムショ入りする前に、娘に会う為に強引に誘拐してしまいます。中華料理を食べに連れていき、遊園地にも連れていく。誘拐されているはまみなは、解放してもらう為に「女ならできる仕事がある」と生意気なことを言うと、風俗店の裏側に連れていく。一見ショッキングな光景を見せますが、これも生意気な娘に対しての親の子育てだと思えば、絶対にこんなことをさせないようにする為の愛なんだなとも思います。そして、自分に似た娘ということで、生き辛い悩みを抱えているに違いないと、話を聞くと、義父に叱られることはなく、異父兄弟の弟もいて、義父から愛されていると思えなかった。だから万引きをして気を惹こうとしていました。

櫻小路夫妻のハイヤーを務めていた義父は、ずっと携帯の電源を切っていたので、娘が誘拐されていることに気付かなかったのですが、ナイトクルーズの船まで送り届けて記念に写真を撮ってもらおうと電源を入れると、初めて娘が誘拐されたことを知ると、写真を撮ることも忘れ、急いで家に帰る。

一通り娘と過ごすと、実父は家に送り届ける。見える所から元嫁に電話をし、「俺に似ちまったな。出来が悪くて問題児なのは俺の血だ。俺のせいだ。あいつは何にも悪くない。だから、悪さしたら、叱ってやれよ。ひっぱたいてやれよ。で、抱きしめてやれよ。」と言い残す。車の中でその会話を聞き、誘拐した男が自分の親だとわかりまみなは、帰ろうとする実父を引き止め、危険な仕事をしようとしている実父に、「死ぬの?刑務所入るの?そんな仕事おかしいよ。」と引き止める。
「やらなきゃいけないことがある。みっともない生き方したくねぇんだよ。」
「もうとっくに格好悪いよ。お父さん。」
「誰がお父さんだよ!」
「もう少し、連れ回してもいいよ。」
「今日はエイプリルフールだ。嘘に決まってんだろ!お前みたいな生意気なクソがきになぁ、お父さん呼ばわりされたら虫酸が走るんだよぉ!」

涙を堪えながら強がる父。そこにちょうど義父が帰ってきて、娘を助けようと、実父の舎弟殴り、実父を身を呈して止めて、「りか!今の内に逃げなさい!!お義父さんのことはいいから!」と言うと、投げ飛ばされ、実父は、義父に対し、膝をついて言う。

「この度は、大切なお嬢さんにご無礼を働き、誠に申し訳ありませんでした。」

そう土下座をして、

「いいお義父さんじゃねぇか。嫌われてるなんて、気のせいだ。遠慮なく、甘えろ。」

とはまみなに言い残して立ち去った。覚悟を決めて、敵対する暴力団の組長がいるゴルフの練習場に行って、銃を構えようとすると、そこにあったのは芋けんぴだった。娘があゆみの鞄を入れ替えていたのだ。「気が利くな」と言われてしまい、組長のスイングに、「ナイスショットー!」と、娘のおかげでみっともなくも格好良く生きる父の姿がそこにあった。

そして、はまみなは、無事を報告すると共に、万引きした商品をテーブルに出すと、母親が手を出そうとする前に、義父が頰を叩く。

「二度とするな。」
「はい。」
「一緒に、謝りに行こう。」
「はい。」

義父ははまみなを抱きしめる。実父の思いは言わなくても、義父にはしっかりと伝わっていた。 

全員が嘘をついて成功させた出産シーン

騒動の中破水してしまい、岡田将生が運転していた救急車が、謎の紳士の運転する車と事故に遭い、一向に来ないので、レストランで出産するようにする。セックス依存症のニセ医者牧野は、医者を志したものの、挫折して諦めていたが、医療知識もあるし、自分の子供だからと、助産させようとするが、怖気付いてできない。そこで、居合わせた皆が、「ベテラン助産師」「元看護師」などなど、出産を成功させるために自分をも騙すために嘘をつき、あゆみ本人は嫌がるが、もう産むしかない為、力を合わせて出産する。無事出産に成功した。牧野の遊び相手だった CAの菜々緒は、家に帰るとめざましテレビに出ていた生瀬と同棲していた。そして、キャバ嬢だった。菜々緒も、CAと嘘をついて、牧野と関係を持っていたのだった。しかし、出産を経験して「私、助産師になろうかな」と、目指すものが見つかるのだった。

主人公の恋の行方

レストランで出産した後に病院へ行くと、あゆみと牧野は子供を見ながら話をする。二人が出会うきっかけになったのは「芋けんぴ」だった。病院の待合室にいた占いオババから「幸運をもたらす」と言われてもらったものを、あゆみに渡したのだった。

「色々酷いことを言ってごめん。」と謝ると、「助けてくれてありがとう。」と答えるあゆみ。牧野は、「僕は最初から、君のことが好きだったのかもしれない。」そう言われて驚くと、思い出が蘇る。一緒に清掃員をしていた、櫻小路夫人が、「好きなんでしょ?あの人もあなたのこと好きよ。根はいい人。当たって砕けなさい。」とアドバイスすると、「でも、あの人嘘つきだと思うから。」
「嘘でもあなたが幸せになれるならいいじゃない。嘘をつくことで、奇跡が起きることがあるかもよ?私ね、男を見る目だけはあるの。素敵な夫と、幸せな人生を送った私が言うんだから間違いない。私ね、今日でこの仕事を辞めるの。入院するのよ。だから、これは、あなたへの遺言。」
櫻小路夫人は、もう死を覚悟しているのでした。

牧野に、「嘘でしょ?」と言うが、「嘘じゃない、と思いたい。正直に生きたいんだ。君みたいに。」その言葉にあゆみは「私も、嘘つきました。タオルを胸につめた。あなたは、巨乳が好きだから。本当は、あんなに大きくない。」関係を持って知っていた牧野は笑いながら、「うん、知ってる。確かに大嘘つきだな。」と言う。そんな牧野にそっとキスをすると、「私、嘘つきだから。今のも嘘。エイプリルフール。本気にしないでください。」そう嘘のせいにしようとしたが、既に日付は変わっていた。
「今は嘘とは認められない。」
嘘から始まった恋は、本当になったのです。

【日が変わり、嘘で済んでいたはずが、本当になってしまったオチ】

夜遅くまで、「ビヨ〜〜ン!!」と、マンションの屋上で、UFOを読んでいたスペースノイドの少年の元に、UFOが現れるわけなかった。気がつけば日付が変わり、改めてHPを見ると、

「勿論、エイプリルフールでした。
屋上で宇宙船読んでるそこの馬鹿、現実に立ち向かえ。
その気になれば、たいていの現実は変えられる。」

更新されたHPを見て、「そんな・・・」と呟き、心配して見守っていた数人のクラスメートの姿を見て、
「現実に、立ち向かうか。」
と覚悟を決めると、そこに宇宙船が迎えにやってきてしまう、と言うオチ。
まさに、この作品のテーマの一つ「嘘から出た真」であると言えます。

スペースノイド情報は、占いオババによるもので、占いオババにはどうやら本当に霊能力があり、占いは当たる。エイプリルフールの嘘のつもりで書いたスペースノイド情報も、4月1日中であれば嘘で済んだものが、2日になったら現実になってしまいました。岡田将生への占いも、刑事への占いも、牧野への芋けんぴも全て当たったのです。

怒涛の伏線回収劇

古沢良太さんの作品の特徴は、既に冒頭でも述べましたが、複数の物語が絡み合う展開と、怒涛の伏線回収劇がなんと言ってもすごいの一言です!目まぐるしく展開が変わっていくのですが、全てが誰かと繋がっていて、それが過去にも絡んでいきます。

特に、櫻小路夫妻と、はまみなと実父と義父のやりとりは、涙なしには見られません。これだけ複雑に絡み合う物語で、短いシーンなのに深く突き刺さるのは、ベタな展開ではあるものの、夫婦や親子の関係の本質をついているからに他なりません。また、豪華キャスティングでもあり、演技力も素晴らしくて安心して見られますが、キャスティングも作品作りにはなくてはならないものなので、作品としての完成度はとても高いです。

「嘘」をテーマにした価値観の逆転

「嘘」は、良くないものと思われていますが、『サピエンス全史』によると、我々ホモ・サピエンスという人類が生存競争を勝ち残ったのは、「嘘をつけるから」ということだそうです。おそらく、嘘をつける動物は人間しかいません。「擬態」というものがそれに近いかもしれませんが、「嘘」とはちょっと違います。「嘘」だとわかって「嘘」をつけるのは人間だけで、「嘘」によって「奇跡」が起こることもあるんだと実感させられます。また、「嘘から出た真」と言えることもあり、「嘘のせい」にしようとしたものは、「真」になってしまうことも描いています。「嘘」にも表と裏があり、「嘘」そのものがダメというより、「騙す」ということが「悪」なのではないでしょうか?

「嘘」そのものを毛嫌いするのではなくて、「騙す」ということに気を付ける必要があるんだと思います。「嘘」というものが必ずしも悪いものではない、ということを、最後に述べておきたいと思います。


『コンフィデンスマンJP』をオススメするコラムを出していましたが、2016年と、ちょっと前の作品ではありますが、ちょっとこの作品に触れる機会があったので、この作品の面白さと、物語の魅力について述べさせていただきました。

見たことがない方にはぜひオススメしたいですし、古沢良太作品をもっともっと見ていきたいですね。日本でもトップクラスの脚本家だと思うので、今後の作品にも注目していきたいと思います!

長文なのに、最後まで読んでいただいて、ありがとうございました!
まだまだ連続投稿を続けて行きたいと思いますので、よろしくお願いします!

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