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『インハンド』第7話 救世主兄弟!?生まれてくる命の意味はあるのか。

簡単なあらすじ(ネタバレ有り)

紐倉は、助手の高家を連れて公園に行き、猫の糞を探していた。糞には、腸内細菌が残っており、体の情報を手に入れることができる重要なサンプルで、人間のライフログなのです。

実は結婚していて子供がいた牧野。一人娘の美香は、消化器系の免疫不全の病気で、入院していた。しかし、その病気には現状移植以外に有効な治療法がないが、免疫の型が合わないと移植できない為、牧野が取ろうとしていた手段は、美香のドナーにさせるためにもう一人子供を産む「救世主兄弟」というものだった。しかし、牧野の夫は既に亡くなっており、残されていた精子を使って、体外受精をしていたのだ。

紐倉と高家は、美香のお見舞いに行くと、美香は変態と聞いていた天才に惚れてしまう。美香の容体がだんだん悪くなっており、牧野は紐倉に、「娘を助けてください」と頭を下げる。元医者の高家が倫理的にも反対するのは当然だが、紐倉も、「わかった。最善を尽くす。」と素直に協力する。
牧野の夫・賢一は科学者で、美香の病気は遺伝性によるもので、賢一は美香の病気の為に、血液や体液、精子など、冷凍保存して残しながら、治療法を研究していたものの、なくなってしまい、賢一の父が研究を続けていた。しかし、資金提供を切られてしまい、研究を続けることができなくなっていた。

そこで、元上司だった福山の会社を訪れて、協力を要請するが、成果が見込めなければ資金提供ができないから、エビデンスを提出してほしいと言われ、紐倉は、賢一が研究していた論文を全て集め、不眠不休で研究に没頭する。

そんな折、娘の美香の容体が悪化してしまう。焦る牧野だったが度重なる排卵誘発剤を使用することで、体調がボロボロになっていた。心配する高家だったが、治療法がまだわからない今、「救世主兄弟」を諦めるわけにはいかなかった。紐倉も懸命に研究する中で、やっと糸口を掴み、論文を取り寄せるなどしたが、紐倉の思いついた方法では、成果が見られなかったことを知る。紐倉は、「僕は天才じゃなかった・・・」と、自分の無力さを痛感するのだった。

さらに不運は続き、人工授精は失敗してしまう。もう為すすべが無くなってしまった中で、紐倉と高家が話していると、膨大な資料の中に賢一が個人的に残したノートを見つける。紐倉がノートを読むと、ついに閃く。
「そうか、それでいいのかぁ。」

翌朝、病院でうなだれる牧野の元に、二人が現れる。治療法が見つかったと。
紐倉は、「僕は天才だからな。」と自慢げに言い放ち、高家は「僕たちが、救世主兄弟だ!」とスベる。
紐倉が思いついた方法は、美香は消化器系にのみ現れる特殊な症状の病気だった。そして、父の賢一は同じ病気を持ちながらも発症しなかった自分の体の研究データを残していたことで、賢一が残した糞便の中から、正常な菌を移植する「糞便移植」だった。これは、欧米では普通に行われている方法で、この方法で美香も無事快方に向かい、退院することができた。

牧野と美香は紐倉の研究所に赴き、感謝を伝える。
「紐倉博士が美香を治してくれたんでしょ?」と伝えると、
「違うな。人間のお腹の中には小さな生物がいっぱいいて、美香ちゃんのお腹の中で喧嘩をしちゃったから病気になったんだ。だから、パパのお腹の中にいた小さな生物に入ってもらって、仲直りさせたんだ。」
「パパが美香の中にいるってこと?」
「そういうことだ。美香ちゃんの病気を治したのは、君のはお父さんだ。いいパパだな。」

もう父がいない美香でしたが、糞便移植をしたことで、美香の体の中で、父は生きていたのです。

そんな美香のほっぺを義手で掴むと、
「ぃ痛いよ哲ぅ〜。」
手を離すと
「もっとやってよぉ〜」
と一年生にして小悪魔になり始める。美香は、母親のことを二人に聞く。二人は、ママはとっても人使いが荒い、無理やし仕事を押し付ける、人の話を聞かない、すぐ起こる、声がでかい・・・と悪く言いが、
「要するに、友達としてめんど臭い奴なんだ。」
と紐倉が言う。
「めんど臭い友達だけど、ママのおかげでたくさんの命を救えたし、紐倉博士だって人の役に立ってるんだよ」
と高家が言うと、「そっかぁ。ママすごい!」と美香が喜び、「まぁね」と照れる牧野だった。

牧野は改めて紐倉にお礼を言うよ、「なんだお礼か。だったらパスポートをくれ」と言うが、牧野は「それはまだダメ。紐倉博士にはまだ日本にいてもらわないと困るから。あなたは日本を救う人だから。」と、高家に続き、牧野も紐倉に伝えるのだった。


救世主兄弟の是非

紐倉は、救世主兄弟については否定的な立場でした。なぜなら紐倉はナチュラリストで、一つの命を助ける為に新たな命を生み出すというのは、自然の摂理ではないからです。「救世主兄弟」を生むということ自体は、違法ではありません。とは言え、倫理的に賛否はあるでしょう。しかし、愛する一人娘を助ける為に、新たな子供を作ることを、止める権利があるでしょうか?違法ではないものの、生まれてくる子供は、何の為に生まれたのか。自分が生まれた真相を知ったら、どう思うでしょうか?

自分はお姉ちゃんの命を助ける為だけに生まれた。

これは、途轍もないトラウマになるでしょう。もちろん、生まれながらにして誰かを救うなんて、とても凄いことです、生まれるだけで誰かを救えるなんて、価値しかないと思います。しかし、当の本人はそう思えるでしょうか?子供は、自分こそを愛して欲しいと思う存在です。特に、兄弟は親の愛を取り合うものです。下ができれば上は赤ちゃん返りをしたり、それぞれ同じように愛されていても、お互いを羨ましがったりするものです。

普通に生まれて兄弟になってもそういったことがあるのに、その上で望まれて生まれたのではないと知ったら、子供の心傷は計り知れません。これは、「救世主兄弟」に限ったことではありません。結局大事なのは、「子供を愛する」ということです。牧野のことだから、きっと下の子も同じように愛するのでしょうけど、やはり美香の方が愛しているということは否めないでしょう。子供は、親の愛に最も敏感な生き物です。愛されなければ生きられないからです。

「救世主兄弟」というものを、否定する権利は誰にもありません。そもそも、証拠がありません。なので、法律で禁止することもできません。ただ、推奨することもできません。なぜなら、最初から移植目的で子供を作ることが考えられるからです。そういった問題に関しては、おそらく宗教界が総出で反対するでしょう。さらには、「デザイナーベイビー」というものもあります。

『ガンダムSEED』はデザイナーベイビーを取り入れている

私が好きなアニメ『ガンダムSEED』は、ある種「デザイナーベイビー」を取り入れたアニメだと言えるでしょう。遺伝子を操作して、好きな容姿にすることができ、病気になりにくく、強い体を持つ「コーディネイター」と言われる存在と、自然のままに生まれる「ナチュラル」という存在の戦争を描いていますが、そこで生まれるのは、人種の差による差別や迫害です。人間界には「いじめ」というものがあり、これは無くそうと思っても無くなるものではないでしょう。これは人間の本質の一つだと思うからです。

遺伝子にメスを入れるというのは、「神への冒涜」と言う声もあります。『インハンド』第6話では、「遺伝子ドーピング」についての話がありましたが、遺伝子に限らず意図してドーピングをしたり遺伝子操作することは、リスクがあるのはもちろん、『ガンダムSEED』で描かれていたように、一方には優越感が生まれ、一方には劣等感が生まれ、差別が生まれます。自然発生するものは止むを得ず受け入れますが、意図して起こす者がいて、意図して起こされたものであれば、それは受け入れがたいものがあります。

表面的なことは幾らでも飾れますが、裏にある本質は、飾ることはできません。牧野が美香を思う気持ちは本物だし、他に助ける方法がないのなら、「救世主兄弟」を作ることも止むなしかもしれません。ただ、生まれる「命」に責任はありません。事故の多い昨今、命の大切さを再認識しているのではないかと思いますが、ありきたりで当たり前のことかもしれませんが、自分の命、家族の命、愛する人の命を大切にしていきたいものですね。


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