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30デシベルの夢

夜はよく眠りたいので耳栓を買った
新宿まで行って 何個か店を回った
なかなか探して 安くて小さいのを買った
スポンジを指先で細く潰すと 耳の奥までスルリと入った
耳にはまった耳栓は少しずつ膨らんで
僕の頭を世界から切り離した
 
耳栓をするようになってから
僕は夢を見なくなってしまった
睡眠剤を飲んで
眠気に任せて枕に頭を打ち付けると
あとは5時間くらい
沈んだように寝てしまえる
大抵6時半に目が覚めて
少し痛くなった耳の穴から耳栓を抜き取ると
たちまち恐ろしいノイズと音の砂嵐が
僕の頭に流れ込んでくる
 
僕はいったいどれだけの喧噪の中で必死に寝ようとしていたのかと
恐ろしい事実に気付く事ができる
僕が静寂の例えだと思っていた薄ら明るい夜の黒は
ちっとも安寧とは無縁だったのだ
きっと僕がよく見る悪夢というのも
この騒ぎに見せられていたのだろう
 
私の耳栓は30デシベル音を遮る
つまるところ 私の夢はこの30デシベルで構成されていたのだ
隣のアパートの換気扇の音
古い型の冷蔵庫の駆動音
遠くで車がアスファルトを踏んで擦る音
それが揃って30デシベル
僕の無意識を刺激し続けていたのだ
 
僕が見ていたのが30デシベルの夢なのだとしたら
僕のリアルはもっと煩く構成されている
飛行機が頭上を降下する音
トラックが家の前を通る音
どこかで聞こえる衝突音
チェンソーの音
近所の子供の泣き声
男が錯乱した声
 
30デシベルの悪夢と100デシベルの現実だ
どちらが静かか。

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