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[努力と才覚の咲かせる大輪の数々] デジタルハリウッド大学 卒業展示の魅力に迫る

 皆さんこんにちは。今回は2024年2月9日〜2月11日の3日間に開催された、デジタルハリウッド大学の卒業展示に付いてレポートしていきます。

デジタルハリウッド大学とは?

 初見の方のために、デジタルハリウッド大学(以降 dhu)とはどのような大学なのか、簡単に紹介します。
 この大学は、デジタル社会に対応するスキルを身につけ、未来を生き抜く力と、無限の可能性を育むことを目標にした大学です。こちらはdhuの公式サイトより引用した一文になります。世間一般の評価は、「デジタル分野の美大」と言う認識が強いようです。具体的に学べる分野は、

3DCG・VFX
ゲーム・プログラミング
映像・映画
グラフィックデザイン
アニメ
Webデザイン・Web開発
VR/AR・メディアアート
広告・PR・起業

と、このように多岐に渡ります。そんなdhuは、
Entertainment. It’s everything.
(すべてをエンタテインメントにせよ!)
という校是を掲げています。
これは面白ければ何でも良い、と言う意味ではありません。何気ない日常や、皆が気にも留めないような些細な事柄。そして明るい未来を想像し、あらゆる事をエンタテイメントに昇華させると言う意です。
そんな心持ちを共にするdhu学生の卒業展示を紹介していきます。
なお作品の数が膨大なので、抜粋して紹介します。

常識を「常識」と捉えない出展の数々

 入場手続きを済ませ会場に入ると、早速 作品をお目にかかれます。
最初に出会ったのは 自分の世界観を表現する作品です。一見するとただのパネル絵でしたが、背後にあるスクリーンによる投影により制作者の心情を表す、プロジェクションマッピングのような作品です。このようなデジタルとアナログが融合する作品は、まさにdhuの特色を体現しているように思えます。

ここに映像が投影され、表情を変える。

 道中では別の作品が。白いレースに覆われた通路の中に、無気力そうな表情でパソコンと向き合う少女が。
 作品名 < 少女 >。
 通路の中にある作品と言うことで、他の観客は通っていいのか戸惑っている様子。作品説明を見ると、情報社会になった今、他人と容易に比較される様になった現代において、自身の価値観や存在意義を問う作品のようです。我々観客…いや、参加者はこのレースを押しのけ、彼女が居座る空間を半ば強引にこじ開けて進まなければなりません。塞がれた空間ですら、ネット(パソコンをインターネットと捉えた) という場所から干渉を受ける、そんな社会を風刺した作品に感じられました。

 つづいては音に注目した作品、OTOMOS です。こちらは音を聞く物ではなく、ファッションとして取り入れた斬新な作品となります。ザクザク であったり、ドンドン のような擬音語を、それぞれの感性でフォントとして表し、ファッションに取り込み展開しています。これらファッションを実際に販売していると言うのですから、驚かされます。学生でありながら事業を行う、彼らの底知れぬ熱量を垣間見ることができました。

OTOMOSの紹介

仮想と現実、デジタルが入り交じる。

ゼミ、研究室の作品

 ここからはゼミで行われた研究、作品の紹介です。
同じく量が膨大なので、筆者が心に残った物を抜粋して紹介します。

コンテンツ産業・地方創生 CM 制作ゼミ
 
ここで筆者の目に留まったのは、アイドルのAI生成という物です。昨今 画像生成AIが絵師界隈では物議を醸しています。そんな中でアイドルをAIで生成しようと言うのです。表題は [AIにエンタメは可能か] です。全てをエンタテイメントにしようというdhuの中でも、エンタメの可能性その物を直接的に追求していのはこの研究のみでした。
 内容は 本物の地下アイドルのPR誌とダンス、AIが生成した地下アイドルのPR誌とダンスを比べて貰い、どちらが本物かを投票して貰うという物です。
 結果は五分五分、殆どの人が見分けられなかったそうです。まとめには
「AIアイドルは将来身近にいるアイドルになるかも知れない。その時、本物のアイドルは人間らしさを求められるのだろう。」
と言う締められ方がされていました。
 先の<少女>の作品と言い、デジタルコンテンツが発達する一方で、人間一人一人の存在意義が希薄になっているようにも感じられます。人間らしさとは何なのか、深く考えさせられる研究でした。

 同ゼミで、音と映像を使った新たな音楽表現を展示している方が居ました。スクリーンの上に手をかざしたり動かしたりすることで、それに合わせて粒子の流れるような映像が映されます。連動して音を奏でられ、直感型の新しい楽器のようです。手の軌道に合わせて流れる映像が、余りにも自然であり感動していると、作者の方が解説をして下さいました。この作品は彼の考え事をするときの心を表した作品のようです。普段から川や空を見てぼーっと考えるのが好きなようで、池の中に泳ぐ鯉からヒントを得たようです。言われてみれば、激しく手を動かしたときに見せる粒子が逃げるような映像は、池の水面にいきなり手を突っ込んだ時に、鯉が見せる挙動と酷似しているように思えます。自然の動きを再現し、合わせて作品として昇華させる。まさにEntertainment. It’s everything.
 私も自分だけの表現をいつか作ってみたいと思い、どうすればいいのか伺ってみました。彼曰く、「自分の中のイメージを観察する」そうだ。
 この言葉は深く心に染み込みました。目から鱗が落ちるような言葉です。今まで外の世界を観察することこそあれど、自己分析ともまた違う。自分の中のイメージを観察する。何かの核心を突かれたような気持ちでした。

デザイン&プロトタイピングゼミ
 
このゼミには、VRと筋トレを結びつけている卒業論文がありました。仮想空間を利用して、文字通り多角的に自身に掛かる負荷を確認したり、トレーニングの指導者が目の前に居なくても、VRを使って近くに居るように指導受けるなど、未来での筋トレのイメージが語られていました。この時、研究をした方ではなく、ゼミを仕切る 星野裕之 教授 にお話しを伺う事ができました。教授によると、筋トレの起源は産業革命にあるそうです。それまで人間が人力で行っていた仕事を、機械が台頭することで筋肉が不必要になり、自然と身についていた筋肉が付かなくなったそうです。今まで必要だったから付いていた筋肉が無くなり、ある意味使わない無駄な筋肉を育てる文化が生まれたのです。詰まるところ筋トレの歴史は産業革命以降からであり、まだまだ浅くほんの100〜200年ほどしか無いのです。今後 筋トレがデジタルと融合することでどのような進化を遂げるのか、加速度的に飛躍する技術と未来を想像したくなるような論文と教授のお話しでした。

コミュニケーションデザインゼミ
 
入り口にある大きな垂れ幕には、「何を失ってしまったら、あなたはあなたでいられなくなりますか。」と書かれていました。最後には「大丈夫、わからなくてもいいよ。」の一言。ここまで人を引きつける文言があるでしょうか?こう言われてしまうと、意地でも理解したくなるのが人の性です。
 ここに展示されていた作品は、垂れ幕の問いに向き合い続けた学生達の作品です。正直、筆者にはそれらが何を現しているのか、理解できる物は殆どありませんでした。しかし、ここはdhuの卒業展示です。近くに制作者の姿があります。本人から容易に解説や秘められた想いを聞けるのは、まさに特徴と言えるでしょう。内容は千差万別。理解できない芸術を理解するために模倣したり、己の中の世界観を小さい箱に閉じ込めたり、逆に理解されない感性を共感して貰うための作品だったり。話しを聞いてこそ、素晴らしさの分かる展示物の数々です。来年度も同じような内容の展示があれば、次はどんな世界観に会えるのか楽しみになる展示でした。

入り口の垂れ幕。意地でも理解してみたくなる導入。

映像表現実践ゼミ
 
ひときわ人気が多く、常に賑わっているゼミの部屋がありました。学生の方に話しを聞くと、ここはdhuの中でも抜きん出た「何か」を持つ人達が集まるゼミとのこと。ゼミの紹介には、 「dhuで培った様々なスキルを、動画領域で発揮する。」とありました。シンプルで分かりやすい紹介とは裏腹に、その実態は文字通り、様々なスキルを組み合わせ、複雑な映像表現を行う魔窟の様な場所でした。
 特に目を引かれた作品は、レンズ状のスクリーンに映像を投影し、中央に立つことで、まるでVRゴーグルをしているかのように、視界いっぱいを自然に覆ってしまう物です。某ネズミのテーマパークにある、空を飛んでいるように感じられるアクティビティに酷似しています。レンズ状というか半球状というか。平面的なスクリーンではなく立体的なので、周囲を多少見渡しても、まるで右や左の景色が続いているかのような錯覚に陥ります。

上記の作品を背後から撮影した物


 別の作品では、布のような物に映像を移し、手をかざすことで操作ができる、まるでSFの中のような作品までありました。

SF映画のような映像表現を行う作品

 これは投影されているのではなく、いかなる方法でか布に映像を出力しているようです。反応速度も高速で、ストレスを感じるようなラグはありません。半透明の薄膜に映像が映され、操作が可能で、連動して効果音が鳴る様は、まさにファンタジー。近未来を感じる作品でした。
 今紹介した2つの作品も、制作者に話しを聞くことが可能でしたが、残念ながら余りに盛況で筆者は話しを聞くことが出来ませんでした。しかしいずれも、
「duhで本気で学べばここまでできるのか!」
と思わせられる作品達でした。このゼミでの作品は、特に今後修学する立場にある人に大きな希望とモチベーションを与えたことでしょう。

電子出版ゼミ
 他のゼミでは、同ゼミ内だとある程度方向性が似通っている物もありましたが、このゼミでは着物の紹介をする電子書籍や、王道のファンタジー短編小説を展示していたり、自身の制作マンガの記録を残したり 多摩地区の魅力的スポットを紹介したりと、所属する学生一人一人の個性が特に色濃く出ていた印象を受けました。

出展作品の一つ  星詠みと孔竜
読み手を引きつける王道の展開が魅力的

 そして、個性が出すぎていると感じる作品もありました。それがこちら。

今から打ちたくなる パチンコ,パチスロ

 目を疑いました。まさか卒業展示でパチスロの様な単語を目にするとは思いませんでした。多様性をひしひしと感じます。こちらの電子書籍は、初心者用へ向けたパチスロの打ち方を解説しています。しかし解説を読んでも、実践しなければ身につきません。なんと実践用に、隣に実機が展示されていました。

スロット Re:ゼロから始める異世界生活 の実機

「何でもありか!」と言いたくなるような作品。しかし、それがdhu。自身の好きなことに全力で取り組める事を、この作品は教えてくれます。折角なので、筆者も少し遊ばせて貰うことに。当てられそうなところまでは遊べましたが、上手く行かず当たりを引くことは出来ませんでした。新しい何かに踏み出すきっかけをくれるような展示でした。

 ブースの横には実際に電子書籍を読める端末を貸し出しているスペースがあり、読書用のiPadと珈琲が提供されていました。珈琲好きの筆者としてはとても嬉しいサービスでした。

まとめ

 如何でしたでしょうか。dhuの卒業展示の魅力が十分に伝わったことと思います。学生達の着眼点はまさに震天動地。これからの時代を見据え、活躍すること間違いなしと思える作品の数々でした。まさにEntertainment. It’s everything. 全てがエンタテイメントになる様を見ることが出来ます。また、制作者や教授から直接解説や話しを聞き、時には議論を交わすことが出来るのは、この卒業展示の大きな魅力と言えるでしょう。
 今回紹介した卒業展示は、数ある中のほんの一部に過ぎません。その他にもゲームを開発していたりアニメを制作っていたり、漫画とVRの世界を融合させた作品など、紹介したい物はまだまだ沢山あります。
 次回の卒業展示では、ぜひ皆さんも足を運んで、膨大な作品の数々をご覧になってください。きっと多くを考え、感じ、感動することでしょう。
それでは、また。


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