『人渣反派自救系統』邦訳関係者の選定と出版社様の著作権意識への不安の話

 2023年9月21日にプレアデスプレスから『人渣反派自救系统―クズ悪役の自己救済システム―』邦訳版小説の連載開始日決定のアナウンスがありました。墨香銅臭先生の小説が大好きで、原作を中国語で読んで以降ずっと邦訳を楽しみにしていた作品なだけに、沈清秋の誕生日に合わせて発表されたニュースを心から喜びたかったです。

 ですが、邦訳関係者の選定を見るとどうしてもプレアデスプレス様の版権への姿勢に心のしこりが残り、原作者様の同一性保持権や翻案権を尊重した作品を世に送り出してくれるのか気がかりに思っています。
 特に、公式イラストレーター様の活動している非公式カプが公式カプと混同を招くままに放置されている現状はよくないと思っています。

 『人渣反派自救系統』のファンの個人的なお気持ちは本来ならば心にとどめ、黙ってコンテンツを応援すべきなのかもしれませんが、墨香銅臭先生が書いた小説のいちファンとして不安な思いは残しておきたいと思い、このnoteに書き残しておきます。長文、乱文失礼致します。


1.原作の翻訳権侵害である有志翻訳が公式になってしまった違和感

 『人渣反派自救系統』の翻訳、監修に携わっている方々全員が、なんらかの作品の無断翻訳を行なっていた実績のある方で構成されており、出版社に紹介されているものと同名義でこのことを公にしています。
 有志翻訳を行うことには作品の魅力を広めるファン活動という側面もありますが、原作者の翻訳権を侵害していることに変わりはありません。
 原作の版権を借り受けている立場である出版社がそれをおおっぴらに認めていることや、邦訳制作チームがこのことへの問題意識を持っていない方ばかりで作られていることに対して、プレアデスプレスを運営している総合出版すばる舎様のコンプライアンス意識や著作権に関する意識はどうなっているのかなと思います。

 特に、人渣反派自救系統を有料公開部分まで無断で翻訳し転載していた沼落とし妖怪様に関しては、誤訳の指摘を無視したり、原作にはないローカライズネタを多数織り込んでいたりと、原作の同一性保持への配慮のない有志翻訳を行なっていたので、これが公式にとりこまれてしまうと一体どうなるのか不安です。

2.公式イラストレーター様が行ってきた非公式カプ活動の問題

 『人渣反派自救系统』の公式カプは洛冰河×沈清秋(沈垣)と、漠北君×尚清華のみです。それ以外の一切は、原作では恋愛感情の発生していないキャラクターの関係性を、個人の趣味によって改変しているものにすぎません。公式イラストレーターのさくらもち様は、非公式カプである洛冰河×沈九で精力的に活動してきた方です。

 そもそも二次創作自体が原作者の翻案件を侵害しているものではありますが、ずっと公式カプが好きでファンアートを描いていたのならまだ、その作品が好きで魅力を伝えるために同人活動をしていたのが報われたんだなとも思えたかもしれません。

 ですが現状は、公式カプのある作品で、わざわざキャラクターの関係性を改変し非公式カプをつくって同人活動を行なった上、それを公式イラストレーターとして紐づけられているアカウントで発信し、原作とは一切関係のないものであるというアナウンスも出していない、という状態です。

 公式イラストレーター様がプロとして行っている商業活動と、個人として行っている同人活動の線引きがされていないこと。個人の創作した非公式二次創作と原作で描かれた物語の線引きがされていないことは、原作の物語が尊重されているといえるのか不安に思っています。

 少なくとも出版社は、原作の版権を借り受けている以上、原著作者の権利を守る意識を見せるべきなのではないかと思います。現在のプレアデスプレス様のやり方だと、公式カプと非公式カプの混同を招きかねません。

 2023年10月14日から、日本語吹き替え版のアニメ『クズ悪役の自己救済システム』が始まりました。毎週の楽しみが増えて嬉しい限りなのですが、アニメでさはんに興味を持った方のユーザー導線が、非公式カプを公式だと勘違いする方向に導かれているように見えます。

 アニメから入った方はまず、邦訳公式サイトを見にいくでしょう。ですが、プレアデスプレス様の作品紹介ページには公式カプが明記されていません。おそらく次に、アニメから入った方は、プレアデスプレス社が邦訳決定のツイートをした際に紐づけているイラストレーター様のツイッターやPixivのアカウントを見にいくでしょう。そこでは非公式カプが、「個人による非公式カプの二次創作であり公式とは一切関係ない」ということが明記されないままに表示されています。Pixivに投稿されているものに至っては、非公式カプのタグすらつけていません。明らかに誤解を招く状態です。

 プレアデスプレス様は、『著作権ポリシー』をサイトの中に掲載されています。

『著作権ポリシー』では、「著作物の内容に変更を加えて用いること」「著作者の意図に反する引用その他の使い方」を原著作者の著作権を侵害する行為として例にあげています。ですが、『人渣反派自救系統』の邦訳決定ツイートでは、まさにそれを行なっているアカウントに直接リンクを貼る形でイラストレーター様を紹介しています。プレアデスプレス様自ら、社の掲げる著作権ポリシーに反するファン活動を公式ツイートに紐付けていることには、やはりコンプライアンス意識や著作権に関する意識に不安を抱いてしまいます。

3.公式カプと非公式カプの棲み分けの問題

 『人渣反派自救系統』の公式カプは洛冰河×沈清秋(沈垣)と、漠北君×尚清華のみです。イラストレーターのさくらもち様が二次創作をしている洛冰河×沈九は、原作小説では全く恋愛関係になってない間柄であり、誰が、誰に対して、何をしたか、を整理して小説を読めば「公式カプである」とは絶対に言えない関係性です。
 晋江文学城で連載されていた『人渣反派自救系統』は現在閲覧できない状態にありますが、百度などの中国語圏のブラウザで「人渣反派自救系統 官配CP(公式カプという意味の中国語です)」を調べていただければ、洛冰河×沈清秋(沈垣)に沈清秋(沈九)は含まれないことが明らかにわかるはずです。

 沈九は沈垣が転生する前の『狂傲仙魔途』の世界で『沈清秋』だった人間であり、洛氷河に拷問死させられたキャラクターです。
 洛冰河は『狂傲仙魔途』と『人渣反派自救系統』のどちらの世界でも同一人物です。洛冰河と公式カプである沈垣と、『狂傲仙魔途』の沈九は完全に別人です。

 ですが、出版社からリンクを貼られているアカウントでイラストレーター様が非公式カプと公式カプを混同して発信している現状は、原作に描かれているものと描かれていないものの棲み分けがされていません。イラストレーター様の非公式カプ同人活動を公式と勘違いしている人がいたり、原作小説に存在しないカップリングを半公式とはしゃいでいる人がいることに違和感を覚えています。
 それは墨香銅臭先生の書いた『人渣反派自救系統』の物語ではありません。個人が自己解釈によって二次創作同人活動をやるのは自由ですが、それが公式とは無関係であると区別をつけるのは同人活動を行う上で最低限度のマナーではないかと思います。

(※以下、若干のネタバレを含みます)

 小説中に出てくる『狂傲仙魔途』の掲示板に「洛冰河×沈清秋のカプが見たい」と言っているコメントが登場するので洛冰河×沈九は公式と言っている方もお見かけしました。ですが、『狂傲仙魔途』で描かれた沈九のイメージが実物とはどれほど異なる一面的なものだったかは作中で描かれているので、実情とは程遠い作中作を読んだ人間の妄想が何の根拠になるのか…?と思わずにはいられないです。
 『狂傲仙魔途』の洛冰河が沈垣と顔を合わせるシーンはありますが、洛冰河は沈垣が自分の知る人間とは違うと認識し、沈垣が洛冰河と過ごした記憶を見た上で手を出そうとしています。だから洛冰河×沈九は解釈によっては洛冰河×沈垣の公式カプ分解とも考えられるので、準公式扱いされるのに心理的な抵抗が大きいです。
 『人渣反派自救系統』は洛冰河がどういう経緯で沈清秋(沈垣)に好意を抱いたのかからを描いている恋愛小説ですし、相手が「沈清秋」なら誰だって執着するのならば沈垣が異世界転生した意味って何なんでしょう。墨香銅臭先生は『魔道祖師』でも『天官賜福』でも、攻めは受けの魂を愛しているという物語を書いてこられていているのに…。

 そのキャラクター間でカップリングが成立したら公式カプの解釈に大きく影響を及ぼすような非公式カプが公式と混同されかねない状況に対し、原著作者から版権を借りている出版社様が無頓着であることに困惑が拭えません。
 呉聖華/あっくん様、沼落とし妖怪様、さくらもち様は皆この非公式カプで同人活動をしたり、好きと発言したりリツイートしたりしている方々なので、原著作権者への著作権意識の薄い現状とあいまって、同人界隈から採用された方々の私情で非公式カプをごり押しされないとは言い切れない現状に不安を抱いてます。

 墨香銅臭先生の作品はいずれも邦訳上陸前から二次創作人気が高かったですが、『魔道祖師』『天官賜福』の邦訳を行なったダリアシリーズユニ様は原作と二次創作の線引きをきちんとしていたことを思うと扱いの差に悲しくなります。出版社が守るべきなのは原著作権者の版権のはずなのに、二次創作人気に必要以上にすり寄って売り上げを伸ばそうとしているように見えます。

 二次創作界隈では、原作に全くそんな要素はない様々なものが流行っています。原作を読んだ方がそれを元に何を創作するかは自由ですが、原作未読者には先入観なしで物語を読んでほしいです。墨香銅臭先生の『人渣反派自救系統』はそれだけ完成された、本当に面白い物語です。

4.墨香銅臭先生の非公式カプの考え方

 墨香銅臭先生は過去のインタビューで、メインカプ以外のカプの存在可能性について言及されています。下記にインタビューに拙訳をつけて紹介いたします。

・魔道祖师完结后墨香铜臭访谈记录

(原文)
墨香:(前略)我写文的话,除了主CP基佬以外,我不太喜欢把别人都盖章成、把别人都盖章成基佬的。当然是谈过几个,吹了。

私が小説を書くときは、主CP以外の人々をすべて同性愛者に仕立てるのはあまり好きではありません。もちろん、いくつか試してみたこともありましたが、結局うまくいきませんでした。

墨香銅臭先生の作品では、公式では主カプ以外にカプになる組み合わせはありません。

(原文)
男主持:那大大您喜欢看什么类型的BL文呢?就题材和攻受属性是怎么样的,因为我看大大写文都写的古风耽啊,然后都是少女攻啊、忠犬攻之类的,大大是不是对这些比较偏好呢?

墨香:没有,没有这方面的偏好。为什么写的都是古风,因为我觉得第一本写的是古风,第二本最好也古风,因为第二本如果就开始写现耽的话,可能有些古风的读者就不会被带过去。我就是这么简单地想的,并没有什么特殊的什么喜好,基本上什么题材我都能看,什么攻受属性也能看……不对,我不能看冰山受,不能看冰山受。

男性司会:先生はどんなパターンのBL小説が好きですか?ジャンルや攻受属性はどうですか、先生の書かれる作品はみな古風BLで、少女攻めや忠犬攻めですが、先生はこういう属性を好む傾向がありますか?

墨香: いいえ、そういう特定の好みはありません。なぜ書いたものがみな古風BLなのかというと、最初に書いたのが古風BLだったから二番目に書くのも古風BLにするのが一番いいと思ったからです。もし二番目の作品を現代BLにしたら、古風BLの読者がついてきてくれないかもしれないと思ったからです。ちょっと考えてみましたが、特別な好みはありません。基本的にどのジャンルでも読めますし、どの攻受属性も読めます……いや、冰山受けは読めないです、冰山受けは読めません。

冰山受けは、氷山のように冷たくて高慢な性格の受け属性のことです(出展:百度)。
洛氷河を虐待し、復讐に拷問死させられたキャラクターが受けになってそことくっつく非公式カプが、原作者の書いた物語に含まれると言うのはやはり違うと思います。

公式邦訳が展開する際には、非公式カプと公式カプ、原作に描かれているものと描かれていないものの線引きをして、墨香銅臭先生の描いた物語を守ってほしいです。

・墨香铜臭说剑盟在线文字访谈

(原文)
Q36. 会考虑再写有副CP的文吗?
这个问题也是我以前反复思量的。 不会了。写耽美感情戏是很需要精力的,一对主CP已经占据了我全部的注意力

—(中略)—

之前瞥到有个提问者说:“即使不是爱情,人与人之间还是有很多复杂的感情也非常动人,一味归为爱情很微妙。”是的,许多冲突的设计动力就不是基于爱情,所以会有更多可解读性。对我来说,这种程度已经让我觉得OK了,写的够爽了,情感真实,故事可以成立,冲突也足够激烈。
在非爱情的前提下,一些人做一些事可以用辩证的目光来看待(什么),而一旦直接打了个爱情的标签,思考问题的方式就会多少有些扭曲,讨论点会偏移到一些我觉得并不用纠结地方,比如,谁对不起谁谁付出更多谁配不上谁谁渣谁贱。这并不是我设计故事的初衷,所以多少会有点可惜。
但只要不拆逆主CP,萌什么我都不会管。我自己看正常向番也经常吃CP吃得很开心,看文不就找个乐子。脑补或吃CP随意,不拆逆主CP就行。
但不要太真情实感。尤其不要走火入魔。不知道怎么回事,的确会有人因为萌她想象中的“副CP”萌到走火入魔,发展到极端,开始对不给她盖章的作者我产生怨恨。对这种事,我很无语,也很无奈了。所以告诫大家,随便看看就算了,小心不要被白衣逆那种人带进阴沟,走火入魔。

Q36. またサブCPがいる小説を書くお考えはありますか?
 この問題についても、以前に何度も考えたことがあります。いいえ、考えません。BLの感情ドラマを書くのは非常にエネルギーが必要で、1組の主CPに私の集中力のすべてを注いでいます。

—(中略 ※さはんで漠尚を書いた経緯について話しています)—

 以前、ある人がこう言うのを見かけました。「恋愛感情でなくても、人と人の間には多くの複雑な感情があり、それらは非常に感動的なものです。全てを恋愛感情に分類してしまうのは微妙です」その通りです。多くの衝突は恋愛感情が原因のものとして描いていないので、だからこそより多くの解釈が可能なんです。私にとってはこれくらいの設定で十分で、楽しく書け、感情に真実味があり、ストーリーが成立して、衝突も十分に激しいです。

 恋愛感情がないという前提のもとに、キャラクターが行なった行為を弁証的な視点で考えることができます。ですが、いったん恋愛感情のラベルを貼ってしまうと、問題を考える方法がいくらか歪んでしまい、議論の焦点が私にとってはもつれ込む必要のない問題に向かってしまうことがあります。例えば、誰が誰に対して謝らなければならないか、誰が誰にもっと多くのことをしたか、誰が誰に相応しくないか、誰が最低で誰が卑怯かなどです。これは全く私が作ったストーリーの最初の意図ではないため、少し残念に思います。

 ただし、主CPを逆CPにしたり分解したりしない限り、どのCPに萌えても構いません。私自身いつも、BLではない作品を見てCPにして楽しんだり、その物語を読んで遊んだりします。物語を脳内補完したりCPを楽しんだりするのは、主CPを逆にしたり分解したりしない限り好きにしてください。ただし、あまり感情的になりすぎないでください。特に取り憑かれたように夢中になりすぎないでください。なぜか、人々は彼女が想像する"副CP"に夢中になり、極端になり、それを公式で成立させない作者である私に不満を持つことがあります。この種のことに私は非常に困惑しますし、どうしようもありません。だからこそ皆さんに警告します。適当に楽しんで、白衣逆(※以前問題を起こしたファンのアカウント名)などの人々に引き込まれ、取り憑かれたように夢中になりすぎないよう気をつけてください。

 私はこの墨香銅臭先生のこの考え方がとても好きです。公式カプでないものが、あたかも公式であるかのように混同されてしまうと、作品を読む視点が歪んでしまい元のストーリーの意図ではなくなってしまいます。出版社様は公式邦訳リリースに際し、原作者の意図した物語をそのまま読者に伝えてほしいなと思います。

 作品を無断翻訳・無断転載することも、公式タグをつけて非公式カプ二次創作の同人活動をすることも、非公式カプにタグづけせず住み分けをしないことも、原作者様の著作権に配慮のないファン活動ですが、それをまさに行なっていた方々で『人渣反派自救系統』の公式邦訳が作られることへの不安が拭えません。ずっと邦訳を心待ちにしてきた作品が、声の大きい二次創作者達で作られた同人のようなものになってしまうのは悲しいです。邦訳が良いものになってほしいと祈っています。

 大手の言うことが通り、反対する人は叩かれやすいツイッターや二次創作界隈の風潮が少し怖いと思っているので、noteで記事を書いています。特に公式イラストレーターであるさくらもち様は影響力があり、MDZS交流会7で騒動があった際にもその発言に付和雷同して主催者を叩く方がいたので(残念ながらツイ消しされていますが)。

 私と似たような理由で、公式邦訳を心から喜べない気持ちを抱いている方は他にもいるかと思います。同じような心境の方はいるのか知りたくてツイッターをさまよっていたので、この記事は他の方々の意見に影響を受けている部分もあるかもしれません。ですがそれらは私のアカウントではありません。ご迷惑をおかけしたくないです。

お読みいただきありがとうございました。

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