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定例ジョナサン会議(前編・脚本のこと)

「厄病神とジレンマ」稽古開始から約2週間が経過しました。ちょっとずつ配られていく台本を読み合わせしながら、着実に稽古は進んでいます。が、まだまだ物語の全貌は見えていません。そこで、さいとう篤史曰く「台本を書けと公式に急かしていいポジション」を与えられた私・記録係の辻本が、まだ書かれていない部分も含めた台本についてのインタビューを試みました。作家さいとうは、そして演出家さいとうは今、何を思うのか……

ちなみに、ジョナサンズだからジョナサンで会議をしているのか、ジョナサンで会議をするからジョナサンズなのか、といったご質問には(きつく箝口令が敷かれているため)一切お答えできませんので悪しからず。

(稽古後、深夜11時近いジョナサンの店内。禁煙席。テーブルにはオクラのオーブン焼きとドリンクバー。さいとう篤史、おもむろにカバンの中から演出ノートを取り出す。それを受けてレコーダーを回し始める辻本。)

-まずはお決まりの質問として聞くんだけど、どうですか? 台本の進捗は。

「自分への『てめえ早く書けよ』って気持ちでいっぱいです」

-これまで役者だけをやってきた人が、今回初めて台本を書くわけじゃないですか。そこで、作家の意図とは別に役者なりの脚本との向き合い方みたいなものってあると思うんだけど、書いてるときはどれくらい意識してる?

「会話の流れで、自分の生理にひっかかって止まっちゃう部分が多くて……どうしても台本が『セリフ』になってしまうなあと。ストーリーは展開しているけど、そんな反応・そんな会話はあり得ないとか。その一方で、やっぱり台本をどこか覚えるもの、読むものとして捉えているから、今は短いやりとりが多くなってますね」

-短いっていうのは、ひとつひとつのセリフ量が?

「たとえば相槌であったり、最低限の用件を伝える言葉だったり。できるだけ自分自身の口調やニュアンスに寄せていかないよう気をつけていて、極力そういったものは排除して書いてるんですけど、そうすると言葉がどんどん短くなっていくなという懸念はあります」

今は稽古で「階段」を作っている

-現時点で配られている台本って、書けた順ではあるんだろうけど、上演するシーン順でもなければ劇中の時系列順でもない。かなり飛び飛びですよね。何か法則があるんでしょうか?

「今は入り口というか、比較的演じやすいシーンから作ってるつもりです。これから核心に迫れば迫るほど、非日常だったり経験したことのない状況だったりになっていくと思うから、そういう意味では階段を作っている感じなのかな。きちんと今用意しているものに乗っかっていけば、いまだかつて自分が経験したことのないような感情にも行き着けるはずだから。この道で合ってるよ、そのまま進んで大丈夫だよ、という」

-さっきセリフが短くなってしまう心配をしていたけど、たとえば長ゼリフやモノローグでしゃべらせるシーンが今後は出てきたりする?

「モノローグは……極力使いたくないです。長ゼリフも、ここぞという時にしか使わないでおこうと思って」

-その理由、もう少し掘り下げて聞いてもいい? モノローグを使いたくない理由。

「他の演出家さんで、モノローグをすごく印象的に使っている作品を見たことはあるし、それを使えば俺のやりたいことも手っ取り早く実現できちゃうのかもしれないんだけど……俺は魅力あるものに対して忠実だから、いいと思ったものにすぐ影響されがちなんですよ。けど、自覚があるからこそ、それに引っ張られてやりたいことがブレたら本末転倒だと思うので。『演劇だからできること』はやりたいけど、『ああ演劇だね』で終わりにはされたくないですね」

-人生のターニングポイントは当人だけでなく、目撃した第三者の人生にも影響を与えうる……フライヤーなどにも書いてある一文ですが、ジョナサンズで描きたいものの核心はここにある?

「俺は運命って信じてないんですよ、それは自分が手相をやっているから余計にそう思うんだけど。手相って、未来のことを占うわけじゃなくて、それまでの経験が刻まれた統計みたいなものなんですね。だから自分の選択によって手相は変わっていくし、不慮の出来事があると手相なんかに関係なく一気に人生を変えられてしまうこともある」

-運と運命っていうのも、また少し違うよね。

「運がいい悪いで人生変わってしまうことはあると思うんです。なので『こいつら運が悪いよなあ』って人たちがたくさん出てくる。ただ、運が悪いことは不幸ではあるのかもしれないけど、不幸=ゲームオーバーではないから」

-不幸のどん底にいても人生は続く、その先にターニングポイントがあると。

「登場人物を不幸にすることが最終目的じゃなくて、不幸な人がどんな選択をするか、について書きたいです。それを劇場で目撃していただいて、何かしらの影響を与えられればなと」

(ここで飲み物がなくなり、ドリンクバーに立つため取材は一時中断。「後編・役者のこと」に続きます。)

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ジョナサンズ
「厄病神とジレンマ」

作・演出|さいとう篤史

2016年6月1日[水] - 5日[日]
SPACE 梟門 にて

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