見出し画像

梅雨も出会いの季節に

東京メトロ南北線から東急目黒線へ乗り入れ不動前駅手前で地上に出る。

地下鉄だと全く気づかなかったが、夕方から降り始めた雨は横降りの土砂降りと化し、車窓叩きつけるように濡らし始めた。

車両も前の車両との間隔調整などと言いながらやたらと徐行の間隔も狭くなったと感じた束の間、遂には西小山駅手前で停止したまま動かなくなった。

どうなることやらと車内でザワザワとしていると、再び徐行を開始したと思いきや同時に車内アナウンスが流れる。

衝撃的にもどうやら奥沢駅以降での運行を一時的に見送り、復旧の目処を伺うということらしい。

あんな住宅街のど真ん中で全員が降ろされるとはどうしたものか。

たまには早目の帰宅をといった目論みはアテが外れ、いつも通りにオフィスに残って残務を片付けて置くべきだったと後悔しながら奥沢駅へ停車する車両を後にした。

ホームにはいっせいに降車を余儀なくされた乗車客で溢れている。

列の流れに沿う形で皆が前のヒトの後に続く。

改札方面へ向かう列もホームを繋ぐ階段途中で足止めを食うが無理もなく、降ろされたところで土砂降りのため駅から出られないヒトでごった返している。

改札を出た僕は傘をさしてもヒザまでが濡れるであろうことを承知で一旦は駅から外へ出た。

タクシーを拾おうとするが、タクシー乗り場は既に長蛇の列をなしており、その列の後ろに続くことを断念して駅付近を右往左往していた。

駅の前を何度か行き来していると、駅から少し離れれば無理に列に並ばずともタクシー自体は拾えそうな気もした。

そのまま家へ直行するのも何だか勿体ないと感じた僕は、一旦はアテなく駅へ戻ることにした。

すると駅へ向かいながらシビレを切らして歩いて家路につこうとする会社員達の群れのその先に、1人ポツリと傘をさしたまま携帯電話を触りながら立ち尽くすOL風の女性が目に入った。

そんな気は更々なかったがせっかくなので帰る前に声だけはかけておくことにした。

どスルーされようものであればしょんぼりタクシーで帰るまでだ。

失うモノなんて何もない。

出来るだけ自然に通りがかったかの様に近づき声をかける。

「すみません、ちょっと聞いて良いですか?」

「あ、はい。何でしょう?びっくりした…」

「きっとココで降ろされちゃったヒトですよね?」

「え、はい。困ってます(苦笑)」

「僕もです、いきなり放置って酷いですよね。タクシー乗っちゃう感じですか?」

「はい、とても歩いて帰れる距離では無いので、でもアレ並ぶと考えるとちょっと…(苦笑)」

掴みは思った以上に良く、自然に会話が展開していく。

「まったく同じ状況ですね(笑)ちなみにどちら方面ですか?」

「横浜ですね」

「同じ方面ですね、横浜駅まで行っちゃう感じですか?僕大倉山なんですよ」

「え、最寄り駅一緒です(笑)」

「すみません、ちょっと言って良いですか?

 これもう相乗りしちゃうやつじゃないですか?(笑)

 もちろん嫌じゃなければですよ。予定にない出費とか何か解せないっすよね」

「本当ですか?是非!本当タク代痛いなぁって思ってたとこなんですよ」

「マジですか、僕も助かります!」

「でもこれ並ぶ感じですよね…。めっちゃ待ちそう」

「ちょっとついてきてもらって良いですか?多分駅に戻る途中の車両拾えるんですよ」

「あ、そうなんですか?皆知らずに並んでるんですね…」

僕達は奥沢駅から200m程自由通り方面へ歩いたところで難なく空車を停めた。

「綱島街道を港北市役所辺りまで行って頂けますか?」

「本当にすぐ乗れた…。列のヒト達に申し訳ないです」

「まぁバカ正直にやってバカを見ることもないでしょうし、非常事態ですし忘れましょ…」

「そうですね。ずっと横浜に住まわれているんですか?」

「僕は全然こっちの人間じゃないですよ。

 お姉さんは?あ、嫌じゃなければ名前教えてください」

「エミです」

「横浜のヒト?一人暮らしですか?」

「いえ、相方と同棲してます。私もこっちのヒトではないです」

「へー、同棲良いですね。結婚間近って感じですか?」

「いやいや、私は結婚したいですけど相手が優柔不断で腹立ててばかりなんですよ」

「まぁオトコにも色々なタイプいますからね。僕はずっと遠距離なのでブラブラしちゃってますねー」

「ブラブラって(笑)、まぁでも私も相手がそんなだから普通に友達と飲みにくらいは行きますね」

「じゃー僕とも行ってください(笑)」

「良いですよ、住まいが近いと帰りとかに時間があったりしたらフラっと行けますね(笑)」

「そう、そういうの!(笑)余り予定とか前もって入れるの苦手なんですよね」

「何か分かる(笑)」

「じゃーLINE交換しよー。ちなみに都内でOLさん?」

「ですね、うちの会社のモノおにーさんも毎日使っているかも知れません(苦笑)」

「じゃーいいとこの勤めのヒトだね。何か得した気分!わかんないけど(笑)」

「何も出ないよ(笑)」

「良いよ何も出なくて(笑)なんか期待しているみたいじゃん。

 あ、でもご近所さんなら宅飲みしよー」

「えー、1人暮らしのオトコの家とか絶対危ないしー(笑)」

「はいはい、まぁ何処でもいいや。先ずは近々飲みにいこう」

「まぁ家でも良いよ。あ、じゃー彼と一緒に居たくない時とかも行って良い?」

「全然オッケー。ってか家でも良いのかよ(笑)」

「いや、誰の家でも行くわけではないよ。でも今日普通に声かけられてこうやって会話してても全然嫌な感じじゃないから普通に友達しよー」

「全然オッケー」

タクシーで20分程走ると先にエミが自宅付近で降りた。

「オレ清算しとくから良いよ。ってか本当飲みに行こうねー」

「え、いや。ここはきっちり半分ずつにして」

「これっきりならそれで良いんだけど、次があるならまた別の時とかで良いよ」

「まぁそうだね。じゃー連絡するねー」

ひょんなことをきっかけに近所の彼氏持ちOLと仲良くなった。

その後エミは彼氏や仕事の愚痴を言いに定期的に自宅へやって来ては、ゴロゴロしながらビールを一緒に飲んだ。

そして何度かに一度はカラダを重ねた。

どうせ真っ直ぐ帰って寝るだけならこうやって日々機会を作ることで楽しみを増やすことが出来るかも知れない。

僕の地味なサラリーマン生活に、また1人大事なオトモダチが増えた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?