【あたおか主張】Fox NewsのJesse Wattersの主張に反して、モンタナ州にあるNIAIDにおける2018年のコロナウイルス研究はCOVID-19のパンデミックとは無関係です。

【主張】

  • ファウチはパンデミックの1年前にCOVID-19のコウモリを我らが国土に放し、その後ウイルスが蔓延した時にはショックを受けたように振る舞った。

  • 2018年、ファウチの野郎は武漢の研究所に行き、ウイルスを瓶詰めにしてアメリカの研究所に持ち込んだ。

【評定詳細】

《誤り》


  • 2018年にモンタナ州のNIAID研究所で研究されたWIV-1ウイルスはCOVID-19パンデミックとは無関係です。

  • COVID-19はSARS-CoV-2によって引き起こされ、WIV-1の遠い親戚である別のコロナウイルスです。

《裏付け不十分》

  • 2018年にモンタナ州で実施されたWIV-1ウイルスの実験を記述した科学論文では、研究者らは地元で生産した合成ウイルス細胞を使用したと説明しています。

  • ウイルス細胞が武漢から輸送された形跡はありません。

【キーポイント】

  • 2003年のSARSの流行やCOVID-19のパンデミックに見られるように、コロナウイルスの中にはヒトの健康を脅かすものも存在します。

  • WIV-1はヒトに感染する可能性があるため、徹底的に研究されてきたコロナウイルスの一つです。

  • しかしながら、WIV-1はCOVID-19の原因ウイルスであるSARS-CoV-2とはわずかな関連しかないため、パンデミックの原因とはなっていません。

【レビュー】

2023年6月、Foxニュースのキャスター、Jesse Wattersが、Tucker Carlsonが以前担当していたゴールデンタイムの枠を引き継ぎました。Foxニュース在任中、 CarlsonはCOVID-19とCOVID-19ワクチンについて不正確な主張を繰り返していました。

Wattersも同じ手口を踏襲しているようです。2023年11月1日のゴールデンタイムの番組の抜粋を自身のFacebookページ上に掲載した際、彼は米国のコロナウイルス研究とCOVID-19パンデミックとの間に関連性があると主張していたことが明らかになりました。しかしながら、38万ビューを超えた抜粋の主張は、事実に反する、或いは根拠のない仮定に基づいています。以下、その中心的な主張を検証します。

《主張1:誤り》

「ファウチはパンデミックの1年前に堂々とCOVID-19コウモリを我々の国土に持ち込んだが、ウイルスが蔓延し始めるとショックを受けたように振る舞った」[...]「ファウチを拘束し、モンタナ中の責任者全員を拘束せよ」[...]「とにかく一人でも多くの命を救おう」

Perma | Facebook

動画のキャプションにあるこの主張の文言は、元米国立アレルギー感染症研究所(NIAID)のアンソニー・ファウチ所長が、COVID-19の大流行に関連するコウモリに関する米国の研究を監督していたことを暗示しています。

Watters によれば、動物愛護団体White Coat Waste Projectは、過去にファウチに関する誤報を流したことがあり、モンタナ州でエジプトフルーツコウモリを使って実施されたコロナウイルス研究についての文書を発見したということです。

White Coat Waste Projectのウェブサイトを見ますと、同団体は2018年のVan Doremalen氏らの研究を証拠として引用しています。

この研究は、モンタナ州ハミルトンにあるNIAID研究所で実施されたエジプトフルーツコウモリRousettus aegyptiacusを用いたコロナウイルス研究について記述しています[1]。しかし、この研究をよく読みますと、Wattersの主張は間違っていることが分かります。

Van Doremalen氏らはWIV-1[1]と呼ばれるウイルスを使用して実験をしていました。WIV-1は2013年に同定されたコロナウイルスで[2]、2003年のSARSアウトブレイクの原因ウイルスであるSARS-CoV-1と類似していることから当時注目を集めました。しかしながら、2つのウイルスのゲノムを比較すると、WIV-1はCOVID-19パンデミックを引き起こしたウイルスであるSARS-CoV-2とは異なることが分かります[3-5]。

生物間の進化的距離を示す系統樹は、WIV-1がSARS-CoV-2の直接の祖先でも近縁でもないことを示しています(下の図1を参照)。むしろSARS-CoV-1に近縁なので注意が必要です。現在までに知られているSARS-CoV-2の近縁種はコウモリのコロナウイルスRaTG13です。

図1-ベータコロナウイルスの全ゲノム比較に基づく系統樹です。
・系統樹では、2つのウイルスが樹上で近ければ近いほど、より近縁であることを示します。
・SARS-CoV-1により近縁のウイルス群が青くハイライトされています。
・SARS-CoV-1の亜種は濃い青色で強調表示されています。
・COVID-19の原因ウイルスであるSARS-CoV-2により近縁のウイルス群は赤で強調表示されています。
・SARS-CoV-2の亜種は濃い赤と太字で強調表示されています。
・SARS-CoV-2に最も近縁なのはコウモリのウイルスRaTG13であり、WIV-1はSARS-CoV-2より遠縁で、実際にはSARS-CoV-1に近いことに注意して下さい。
・出典:Huらによる論文[4]

系統学的解析により、RaTG13とSARS-CoV-2の最も新しい共通祖先は50年前に遡ることが示されました[6,7]。RaTG13はSARS-CoV-2と96%の遺伝的同一性を有しています。しかしながら、科学者達は4%の遺伝的差異でさえ、実験室での実験で埋めるには大きすぎるギャップであると判断したのです。

つまり、SARS-CoV-2とRaTG13は50年前に分岐し、RaTG13の実験室実験はSARS-CoV-2にはつながらないということです。そして、WIV-1はRaTG13よりもSARS-CoV-2に近縁であることも分かっています。つまり、SARS-CoV-2とWIV-1は少なくとも50年の進化を隔てているということです。このゲノム学的証拠は、モンタナで実施されたWIV-1の研究がパンデミックに関係しているというWattersの動画のタイトルにおける暗示を無効化するものです。

《主張2:裏付けなし》

「2018年、ファウチの野郎は武漢の研究所に行き、ウイルスを瓶詰めにしてアメリカの研究所に運んだ」、「12匹のエジプトオオコウモリを捕まえてバンの荷台に放り込んだ」

Perma | Facebook

Wattersはまた、2018年の研究に関与した研究者達が武漢からWIV-1ウイルスを輸入し、バイオセキュリティと動物福祉を無謀にも無視して(エジプトフルーツバットを捕獲し「バンの荷台に乗せて」輸送しやがった)と主張しています。

WIV-1が武漢ウイルス学研究所で最初に単離されたことは事実ですが(そのため頭文字がWIVとなっています)[2]、Van Doramalen氏と同僚がウイルス細胞を武漢から輸送したことを示すものは何もありません。

Van Doremalen氏らの材料と方法の項には、この研究で使用されたWIV-1のウイルス細胞は、Menachery氏らが以前に発表した論文[8]に記載されている方法で地元で生産されたものであると説明されています。

Menachery氏らは、彼らの研究で使用されたウイルスは「公表された配列」を使用した「合成構築物」であると述べています。また、謝辞のセクションでは、Menachery氏らは武漢ウイルス学研究所から情報と材料を入手したが、ウイルス細胞そのものは入手しなかったと述べています。

加えて、Van Doremalen氏らは材料と方法の項で、「動物実験はロッキーマウンテン研究所のInstitutional Animal Care and Use Committee(ASP2016-021E、2016年05月)によって承認された」と述べています。この委員会は、研究に使用される動物の福祉を確保するために、動物使用活動と動物研究施設を監督するものです。Wattersが主張したように、コウモリが一網打尽にされて「バンの荷台に投げ込まれた」という証拠は何もありません。

《追加のコンテキスト:WIV-1の科学的研究の根拠を理解する》

SARS-CoV-2の起源に関する陰謀説は、COVID-19の大流行が始まって以来流布されてきました。これらの説の根底には、コロナウイルスに関する危険な、或いは不適切な研究がパンデミックの原因であるという信念が存在します。この信念はまた、コロナウイルス研究への資金提供を削減しようという声の根拠にもなっています。

しかしながら、歴史を振り返れば、科学者達がなぜこのような研究を続けるのかを理解する助けになるかもしれません。2003年、コロナウイルスSARS-CoV-1によって引き起こされた重症急性呼吸器症候群(SARS)はアジア全域に急速に広がり、数ヶ月の間に700人以上の命を奪いました。現在までに、SARS-CoV-1がコウモリから発生し、中間宿主(おそらくハクビシン)にジャンプし、その後ヒトにジャンプしたとする十分に強力な科学的根拠があることを示しています。その後の研究で、コウモリは他の多くのSARS様ウイルスを保有していることが示され[9,10]、他の致死的なコロナウイルスが潜んでいる可能性があるとの懸念が高まっています。そのようなコロナウイルスがパンデミックを引き起こす可能性もあるとすれば、ヒトへの波及は壊滅的なものになる可能性があります。

この迫り来る脅威に対処するため、研究者達はSARS-CoV-1に似た既存のコウモリコロナウイルスを発見し理解する努力を強化しました。当初、科学者達によって同定されたSARS様コウモリコロナウイルスは、SARS-CoV-1とは異なり、ヒトタンパク質ACE-2を用いてヒト細胞に感染することが不可能であるように思われていました[11]。そのため、これらのコロナウイルスはヒトにそれほど脅威を与えないと考えられていました。

しかしながら、科学者たちがWIV-1を発見し、それがヒト細胞に直接感染することを示した時、この理解は一変することとなったのです[2,8]。これがWIV-1が研究対象となった理由として説明することが出来るでしょう。予防は治療に勝ります。起こりうる脅威に直面した時、身を守るために行動出来るように、その脅威を研究することは理にかなっています。WIV-1を研究するという決定は、一部の科学者が信じたいようなフリンジ科学者による軽薄な研究ではなく、コウモリコロナウイルスに関する科学者の以前の発見によって正当化されたものなのです。

《参考文献》

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?