(ベースとなる頭数の桁が違い過ぎますので、)メタンガス排出レベルはバイソンと家畜とでは比較になりません。

野生のバイソンが排出する潜在的なメタンガスは、米国内外の家畜牛が排出するレベルに匹敵するのものなのでしょうか?いいえ、そんなことはありません: バイソンの世界的な個体数は50万頭に満たないのに対し、家畜牛の個体数は15億頭ほどです。生物システム工学と農業の専門家がLead Stories誌に語ったところによりますと、この主張の比較は、蹄のある哺乳類からのメタン排出に関する現在の 科学的知見を反映しておらず、恣意的なものだということです。簡単に言えば、バイソンから排出されるメタンガスの量については、十分なデータがないということです。

この主張は、2023年8月1日にFacebook上で投稿されたミーム(⇦既に削除済)(アーカイブはこちら)に端を発しています。このミームは、家畜牛から排出されるメタンガスは、野生のバイソンから排出される量に比べれば取るに足らないものであることを暗示していました。内容は次の通り:

家畜牛の放屁が心配
1800年代初頭、アメリカにはおよそ6000万頭のバッファローが生息していた。
現在、アメリカには940万頭の乳牛と3170万頭の肉牛がいる。
家畜牛の放屁がバッファローの放屁より環境破壊的であることを証明しなければならない。
或いは、家畜牛の放屁は我々が心配するようなものではないと認めるかだ。

Cowboy Quotes | Facebook | Ghostarchive

記事執筆時点では以下のように表示されておりました:

(出典:2023/08/04 金曜日 3:02:00 UTCに取得されたFacebookのスクリーンショット)

投稿が間違っているのですが、バッファローはアメリカには存在しません。バッファローはアフリカとアジア原産で、バイソンは北米とヨーロッパ原産である、とスミソニアンの国立動物園・保全生物学研究所は記しています。

何故バイソンや牛の放屁が問題なのでしょうか?気候変動の原因となるメタンを排出するからです。科学界は、牛や羊といった家畜を含む大規模な農業生産が、地球の気候変動に与える影響について調べてきました。例えば、米国環境保護庁の報告によりますと、牛1頭から年間154〜164ポンドのメタンガスが発生するということです。

ウィスコンシン大学農学部生物システム学科Paul Stoy准教授は、Lead Storiesの取材に対し、このミームに記載されている測定値は比較対象にはならないと述べています。

バイソンも牛も、鼓腸(=放屁)から排出されるメタンはほんの僅かです。大部分は噯気(=ゲップ)からです。バイソンも牛も反芻動物であり、無酸素状態の第一胃でのメタン生成は、ほぼ全て口から排出されるからです」と、Stoy氏は2023年8月4日に受信した電子メールでLead Storiesに語っています。

カリフォルニア大学デービス校農業環境科学部の研究グループ、CLEARセンターは、胃の中で最も大きな部分である第一胃で牧草やその他の植物が発酵すると、メタンやその他の副産物が生成され、排出されると述べています。国連環境計画によりますと、メタンは二酸化炭素ほど強力ではありませんが、より多くの熱を大気中に閉じ込め、放出後20年間は二酸化炭素の80倍も有害です。

「屋外におけるバイソンと牛の両方について、我々が現在測定した限りでは、1頭当たりのメタン排出量はほぼ同じです」とStoy氏はLead Stories誌に語っています。同氏は次のように続けています:

この観点からしますと、このミームは、バイソンがかつて生息していた場所での牛の数を過小評価しているため、ほぼ間違いです。バイソンと家畜牛のメタン排出経路は、放屁が支配的なわけではありませんし、メタン排出を削減することは、世界の温室効果ガス負荷を削減するための論理的なステップです。

Fact Check: Methane Emitted By Bison Does NOT Compare With Levels Expelled By Cows | Lead Stories

米国農務省が発表した最新の数字によりますと、2023年7月1日現在、米国の家畜牛の頭数は9,590万頭で、この数字には2,940万頭の肉牛と940万頭の乳牛が含まれています。国連食糧農業機関の推計によりますと、世界全体で牛は15億頭、羊とヤギは20億頭となっています。

米国では、米国魚類野生生物局の報告によりますと、2023年時点で、保護群に約20,500頭のプレインズ・バイソン、更に商業群に約420,000頭が生息しているとのことです。カナダ野生生物保護協会(Wildlife Conservation Society)の報告によりますと、カナダでは現在、約2,200頭のプレインズ・バイソンと約11,000頭のウッド・バイソンが野生で放牧されているそうです。また、メキシコにも約80頭から130頭のバイソンの群れが生息しています

ヨーロッパでは、自然保護プロジェクト「リワイルディング・ヨーロッパ(Rewilding Europe)」が、約8,500頭のヨーロッパバイソンが生息し、そのうち約6,200頭が野生で放し飼いにされていると予測しています。

ネイチャー・コンサーバンシー(自然保護団体)は、ヨーロッパとの接触以前には、アメリカのグレートプレーンズに約3000万頭のバイソンが放浪していたと推定していますが、この数字に異論のある科学者もいるそうです。

「このミームの最大の問題は、かつて北米の大草原(と森林!)をどれだけのバイソンが歩き回っていたのか、誰も知らないということです。私達の研究[『European Geosciences Union』誌に掲載]によりますと、現在の私の理解では、その値は3,000万頭から6,000万頭です。これは北米全体(つまりカナダを含み、メキシコは少ない)の値です 」、とStoy氏は述べています。

Lead Storiesはまた、植民地支配者がバイソンを27頭しかいなくなるまで殺したというデマや、牛のミルクは60%が膿と血液で構成され、血液の色を隠すために美白剤が添加されているというデマ、北イタリアの牛の群れが政府からCOVID-19ワクチンを注射されて1日で死んだというデマも論破してきました。

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