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京成立石駅をゆく(東京)

吞兵衛の、吞兵衛による、吞兵衛のための町「立石」。

この町にあって、いまも鮮やかに記憶に残っているのは、飲み屋ではなく「立喰 栄寿司」という寿司屋なんだ。

「よし、きょうは 寿司を食べに行くぞ」
朝っぱらから一張羅の背広に袖をとおした親に手を引かれ、電車に揺られて京成立石へ。すでに開店前から行列で、ようやく中に入ったと思ったら、淡々と食って店を出る。
「うまかったな」
「うん」
それだけ。

お洒落していくような店じゃないんだよ。立ち食いだから落ち着かないし、店内は殺風景で、あまり清潔とはいいがたい。でも安くてうまい。

けれど、しばらくこの町から足が遠ざかっているうちにコロナが広がり、町も変わり……そして、歴史ある駅舎にも最期の時がやってきた。


2023.11.25

ひさしぶりにやってきた。引っ越してずいぶん遠くなったので、けっこう時間かかったわ。



京成立石駅は押上(スカイツリーがある駅ね)から千葉までの中間に位置しているんだけれど、高架化工事に伴って橋上駅舎が取り壊されることになっています。したがって、現在は橋上部分への階段も立入禁止になっています。



ストレートな注意書きに感謝。え? と思って見上げた瞬間に顔へ落ちてくる未来図が見えるので、早々に立ち去るのが正解です。



ふたつのホームをつなぐ橋上駅舎。55年の歴史があるそうですが、まもなく撤去予定。



その撤去前に、地元の商店連合会が「お別れイベント」を企画、開催することとなりました。その情報を耳ざとく聞きつけ、遠路はるばるやってきたというわけです。



普段は閉鎖されているのぼり階段が解放され、橋上駅舎をイベント会場として開放してくれています。う~む、すばらしい。さすがおれたちの京成🐼



階段を登っていくと……



イベントまでまだ時間があるのに、早くもお客さんが🤪



おれも前のほうに席を確保しに動きます。イスの上にはおみやげがありました。クリアファイルとチラシ、ペットボトルのお茶、そしてなぜかチューリップの球根。



むかしの貴重な写真なども展示されている。イスに座ったままキョロキョロしてしまいます。



こういうのも一周まわって寂しさを醸し出すね



式典がはじまり、副区長のごあいさつ。



町の歴史研究会のみなさんによる研究の発表



これが結構面白くて、古地図とか行政資料から引用した写真、個人の日記からの推論など、かなりマニアックな話が展開されておりました。



そのあとは、しばし撮影タイム。これで見納めとあって、みなさん写真を撮りまくる。おれも負けてはいられません。



現役時代はこんな場所が写真に収められることも、そうそうなかったんだろうなぁ



ここから先は立入禁止。降りていくと、冒頭の鳩ふんエリアにつながります。



まあ、フツーにいるよね。



いるよね。じゃっかん頬がこけているあたり、こだわりを感じます。



この感染症で飲み屋街は徹底的なダメージを受けたんです



ホッチキスとして「も」つかえます、ということですよね。この会社が出すグッズは相変わらずとんがってるね。



なつかしいな。もう2年前の出来事か。いま自販機とかどうなってんだろう。



駅員さんの待機部屋とか――



待機部屋から一般エリアへ向かう通路等も公開されていました。



近くには立石愛が感じられるギターと


コントラバスも。このあとイベントでバンド演奏があるんです。それですね。



しばし駅を離れ、周囲を歩いてみる。すでに「呑んべ横丁」は入れなくなっている。知ってはいたが、工事用の壁でおおわれているのを目にすると、あらためて「なくなっちゃったんだな」と実感する。



近くの道も廃道となり――



工事用の壁には町の歴史を示す写真パネルが並ぶ。



おじいちゃん、おばあちゃんだと記憶に残っていることもあるのかな。



立ち入ることの叶わない、かつての楽天地。



会場に戻ってきたら、いつのまにか観客が激増していた。立ち見が大勢でていて、ステージも遠くに見えて近づけないくらい。



地元出身のメンバーによる演奏会





懐メロ、歌謡曲からジャズナンバーまで、ひきだしが多い。お客さんもみんな楽しそう。





演奏がおわり、最後にみんなで蛍の光を合唱する――はずだったんだけれど、歌詞カードがないから予想通りの展開にはならず。オーイ、そこ大事なとこじゃないの?😝 こんなところもまた立石らしい、のかな? 橋上駅舎から下を見ると、こちらに向けてシャッターを切る撮り鉄の方々がいらっしゃいました。



イベントは無事終了し解散。この階段を降りるのも、これが最後となる。再び昇ることはない。



余韻に浸りつつ周辺を散歩することにしました。川沿いにずっと歩いてみる。



影法師。なんだか、あっけなく終わっちゃったね。参加する前は色々考えたんだけれど、イベントがいざ始まると、スケジュール通りにずんずん進んでいって、予定通りに終わっちゃった。なんだろうか、自分は今までとなにも変わっていないのに、周囲だけが目まぐるしく動いて、あれやこれやがどんどんと決まっていき、まるで置いてけぼりにされているような感覚を覚えた。それがなんだか、ちょっと怖いんだよね。



そういえば、おみやげでチューリップの球根をもらっていたんだった。




植えてみた。チューリップって育てたことないんだが。


喜びと感謝のうちにイベントはおわった。
まもなく工事が本格化し、次の春には駅舎も大きく変わっているだろう。


この町はさ、とにかく気さくなんだ。
ぜんぜんオシャレじゃないし、酔っ払いやガラの悪いおじさんもいっぱいいるけれど、酒も飯も安くてうまい。

立ち食い寿司屋で
「うまかったな」
「うん」
そんな町なんだ。

「また来るか?」
「うん!」


イベントの終了間際に、主催者から声が上がった。
「みなさん、おみやげのチューリップの球根をぜひ植えてくださいね。花が咲くころには工事も進んで、新しい姿が見られるはず」


新しい命が芽吹き、花を咲かせるころ、みんなは再びあつまって酒を酌み交わすんだろう。なんとも楽しそうに、そして実にうまそうに😁

過去を誇り、未来への期待を語るんだ。
不安がないと言ったらうそになる。だれだって、不安を抱えながら前を向いて進んでいるんだから。
そんなみんなの鼓動が、この町を突き動かしているのかな。
マスター、もう一杯ちょうだい!😋


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