雑記:映画「七つの会議」をスーツで見る

えらく久々の投稿です。野口でございます。

一部の方(主に将棋のイベントで私を見かけている方)はご存知だと思いますが、スーツが好きです。着るのも見るのも好きです。ノータイOKというかほとんどノータイの職場でスリーピーススーツで仕事するくらい好きです。そんな私のツボにクリーンヒットしたのが映画「七つの会議」(主演:野村萬斎)です。

まあ既に2回見たわけなのですが、登場人物それぞれのスーツにかなり細かく意味づけがされているのではと思いまして。ちょろっと気付いたことを書きましてある方にお見せしましたところ「どっかにちゃんとまとめて書きなさい」というお告げを頂きましたので服装が印象に残った人物だけ抜き出して書いてみようかと思います。

※あくまで個人的な見解であり、間違い勘違い考えすぎが多数あると思われますがご容赦願います。

原島万二(及川光博)
・ライトグレーにブルーのストライプなど明るい色調
・シルエットはタイト過ぎずオーバーサイズでもない中庸
・肩やウエスト等はナチュラルな作り
色柄・シルエットから柔らかくスマート、自然体で肩の力が抜けた印象を受けます。コンシューマ向け製品を扱う課の長としてソフトで親しみやすいイメージを作り出していると思われますが、貫禄という点では少々軽く見えなくもないかと。

坂戸宣彦(片岡愛之助)
・ブラックのシャドーストライプやダークグレーに白のストライプ
・がっちり構築的な肩の作り、余裕のある腰回り
・目の詰まった重みのある生地感
原島と比較すると重厚感があり、力強いイメージとなっています。重工系企業を顧客とするスケール感や業績の順調さを感じさせる印象となっています。ただし、堅い・緊張したイメージを想起させるとも言えます。

北川誠(香川照之)
・ネイビーやグレーに白のストライプといった濃色系
・ピークドラペル(尖った襟)のジャケットに襟付きのベスト
・構築的な肩と絞ったウエストライン
・ダブカラー(ネクタイの根本を持ち上げるループの付いた襟)のシャツ
現在のトレンドといえるブリティッシュテイストを全部詰め込んだようなスタイリングですが、正直やり過ぎの感もあります。一見すると心身・実績ともに充実した状況を表しているように見えますが、トレンドいっぱいのスーツの中に何か闇を押し込めているという見方も出来なくはないでしょう。
(個人的にはキャストの中で一番お金がかかっているんじゃないかと)

梨田常務(鹿賀丈史)
・赤目ブラウンのストライプ
・オーバーサイズ気味の上着、太いシルエットのパンツ
・幅広で位置の低いピークドラペルのダブルスーツ
最初から最後までほとんど変化のない梨田常務のスーツですが、スタイリングとしてはバブル期ど真ん中のものと言えばいいでしょうか。明るめブラウンに間隔の広いストライプと主張の強い色柄から自己主張の強烈さと自信を感じますが、自分の成功したところで時代が止まっているという風にも考えられます。

村西副社長(世良公則)
・ライトグレーのストライプやハウンドトゥース(千鳥格子)など明るめ
・位置は高め、幅を抑えたピークドラペル
・ウエストラインの絞り、細めのパンツといったモダン要素
梨田常務とは対極にあるといえるのが村西副社長のスタイルでしょう。ピークドラペル、ダブルの上着は共通していますが、タイト目のシルエットで今のトレンドを取り入れています。また、英国調という意味では北川と同様でありながら、明るめの色柄をチョイスすることで威厳がありつつ重くなりすぎないバランス感覚の良さを表しています。「今の人」であり「これからの人」といった印象です。

宮野社長(橋爪功)
・光沢感を抑えたグレー、ライトブラウン
・ゆったりした肩、位置の低い幅広の下襟のジャケット
・くるぶし辺りに生地がたまる長さのパンツ(=長すぎる)
製造畑からプロパー初の社長になった叩き上げの宮野社長は華やかさを抑えた堅実な風合い、質実剛健を地で行く取り合わせです。シルエットはゆったりオーバーサイズ気味と古めのスタイリング、パンツに至っては正直丈が合ってないと言える長さです。会社一筋でここまできたもののそろそろ時代に取り残されつつある寂しさを感じます。
(飯山経理部長も同様の系統にあると思います)

徳山社長(北大路欣也)
・光沢を抑えたマットな黒、ネイビー
・シルエットは構築的で迫力がある
・金色の懐中時計のチェーン
最も謎な人物が御前様こと徳山社長です。光をすべて吸い尽くすようなマットな生地感のスーツが不気味と言っていいそのミステリアスな存在を際立たせていると思います。冷静にシルエットを見ると構築的な作りで、チラッと見えるベストの懐中時計のチェーンと相まって専制君主的な迫力と威圧感を醸し出しています。光を吸い尽くすという点ではブラックホールのような、最後に収束する一点のような存在かもしれません。

八角民夫(野村萬斎)
・光沢の無い黒
・体に沿う細身のシルエット
・薄い肩と襟のジャケット
主人公の八角については公式インタビューなどで色々情報が出ていますがやはり異様です。ミステリアスなテイストという意味では徳山社長と同系統にあると思いますが、同じ光沢の無いスーツでも八角の場合は消えることのない過去の闇の象徴ということかも知れません。シルエットについて見ると登場人物の中では最も細身で芯地も薄いスーツです。萬斎さんの姿勢・所作と合わさって服というより身体の一部、オフィスに特異点を生み出す要素になっています。

※おまけ
八角の革靴
北川の執務室でソファーに腰かけ、足を組むシーンで靴の底が見えます。
・革底、底縫いの縫い目が見えない
→ヒドゥンチャネル(縫い目を隠す、手間のかかる製法。ハイクラスの紳士靴の証)の靴
・綺麗に摩耗しており、極端な痛み方をしていない
→しっかり手入れされている、恐らく複数足を安定してローテーションしている
八角は良い靴を丁寧に履いていると見ていいのではないかと思います。グータラお荷物社員に見えて、実態は切れ者で稼ぐ力があり、細やかな精神を持つ人物というのを靴に見ることが出来るのではないでしょうか。「黒服の道化師」八角です。

勢いでここまでつらつらと書きましたが、登場人物の服装についていえば小物の果てまで全てに事細かな設定があってもおかしくないと思います。正直に言って円盤が出ましたらじっくりひとつひとつ確かめたいくらいです(笑)

恐らく何か思い出すたびに追記することになりそうですが、今回はこれまで。では、また。

Ryohei Noguchi

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