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保育士になりたいともなりたくないとも思っていなかった。


高校3年になる直前の春、母がリストラされた。(たしか、リーマンショックの影響だったと記憶している)

田舎の進学校に通っていた私は、当たり前に大学に進学すると思っていた。志望校は当時の有名私立大学。大好きだった海外文学に想いを馳せ、将来は海外の絵本や児童文学の翻訳にたずさわりたいと思っていた。

母は再就職に苦労した。資格を持っていなかったからだ。新卒で勤めた会社で結婚後、退職。子育てがひと段落し、また同じ会社で働き始めた。そんな矢先のリストラだった。

誰も母を助けてくれる人はいなかった。日曜日に求人広告を真剣に見つめる母の姿が、あの頃の記憶の中でやけに鮮明で。

「大学に行かせてくれる。」

それが当たり前でないことに気付いた。大学生活は、好きなことを勉強できる、奇跡みたいな学生生活の延長切符だった。

志望学部を大きく変えたのは、高校3年の夏の模試からだったと思う。志望校欄に「国立大  教育学部」と記した。17歳の頭で、これから生きていく術を死ぬほど悩んで見つけた答えは、資格を取ることだった。

「資格さえあれば、就職に困らない」

私は、淡々と、保育士を、幼稚園教諭になることを決めた。


保育士になりたいともなりたくないとも思ったことはなかった。



あれから。志望校には落ちてしまったけれど、なんとか奨学金で私立大学の保育学部に進学した。

勉強して、実習して、卒業して、保育士として就職した。そして、私は27歳になった。

母は無事に別の仕事を見つけ、はじめは苦労していたけど、今はけっこう楽しそうに働いている。

私は10年前と変わらず、どうしたらこの先生きていけるのか考えている。迷いながら、今も保育士をしている。



保育士になりたいともなりたくないとも思っていなかった。

それでも、それでもこの仕事はやりがいはあるし、専門性もあるし、楽しいひと時もある。子どももかわいい。金銭的、体力的に厳しい面はあるけれども。



Twitterで保育士になった理由をシェアしているのを見たので私も思いをめぐらした。

17歳の私は、今の私を見てどう思うのかな。笑ってくれるかな。




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