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臨床推論 Case156

Case Rep Cardiol. 2023 Jan 18;2023:8326020.
PMID: 36713823

【症例】
66歳 男性

【既往/治療歴】
高血圧, 高脂血症, 慢性閉塞性肺疾患, メタンフェタミン乱用, 心房粗動(アブレーション後)

【現病歴】
■ ガソリンスタンドで意識不明の状態で発見され救急要請された. 来院時点でショックバイタル、低酸素でICU管理となった. すぐに挿管されVCMとCFPMで治療開始された. エコーでは心機能低下あり, 覚醒剤によるNSTEMIと判断した. 冠動脈造影で左前下行枝と右冠動脈に高度狭窄を認めた. また心房細動による徐脈頻脈症候群を認めリードレスペースメーカを留置された. 一旦落ち着いてICU退室することができた.

■ リハビリ転院を待機中にPM留置49日後に発熱が出現した. WBCは正常で血液培養4セットを採取したところ, 4/4で陽性でMRSA菌血症が判明した. 48時間ごとに培養を繰り返したところ7日間陽性になり続け, 8日目にようやく陰性化した. 抗生剤はバンコマイシン➡︎ダプトマイシン+セフタロリンに変更した.

■ 心内膜炎を疑いTTEを施行したところ, LVEFは50-55%に回復していた. 僧帽弁尖の肥厚を認めたが明らかな疣贅は認めず. 経食道心エコーを施行したところ 肺動脈弁下の右室流出路付近の右室にあるPMに付着した6cm×1.8cmの可動性のある塊が認めた.

What’s your diagnosis ?







【診断】
リードレスペースメーカーに付着した感染性心内膜炎

【経過】
■ 患者は疣贅の切除とPM摘出を受けた.

■ 手技終了時の心腔内エコー評価では心嚢液貯留や残存する心内膜炎は認めず. ダプトマイシンとセフタロリンを6週間投与し, その後の入院経過は特に問題なし.

【考察】

■ リードレスPMは従来のものと比較して合併症が低く感染率はほぼ0に近い. 単心室ペーシングのみを必要とする患者では, 現在これが主流になっている. FDAで承認されているのはMedtronicのMicraとAbbottのAvier VRの2種類である. Micraは2016年に承認されAvier VRは2022年4月に使用が承認された. どちらも右室ペーシング, センシング, レート応答が可能である. リードがなくペースメーカーポケットが不要という利点を加えて, 従来のペースメーカーと同様に機能する. リード成分とペースメーカーポケットを避けることで三尖弁逆流, リード断線, ポケット部位感染,特にペースメーカーによる心内膜炎など, 従来のペースメーカーに典型的に関連する多くの一般的な合併症を防ぐことができる. 従来のPM関連感染の発生率は3~12.6%である. 新しいリードレスペースメーカーは3000人以上の患者を登録した臨床試験で感染例が報告されていない.

■ リードレスPMが感染しにくい. 一つは従来のPMと比較して血流中の表面積が4~5倍小さいため, 細菌の付着面積が少なくなる. さらにポケットとリードがないことで, 細菌の付着部位がさらに減少する. MicraリードレスPMはチタン製でパリレンの層でコーティングされている. 最近のEl-Chamiらの研究ではデバイスのパリレンコーティングにより, 黄色ブドウ球菌や緑膿菌の細菌増殖が有意に抑制されることが示された. またリードレスPMは右室内に配置され右室の乱流に囲まれている. 高い乱流により血液のうっ滞が防止され細菌がデバイスに付着するのを防止している. これらの機序により、リードレスPMは感染率が低い.

■ Ngoらのメタ解析ではMicra留置後の合併症は90日(46%)および1年(1.77%)と低いことが示されている. 他の2376例の12研究のデータではデバイス留置後に「敗血症」の報告が1例のみで, 抗菌薬の静脈内投与で治癒している. 安全性に加えて, 従来のデバイスよりも生活の質, 身体活動, メンタルへの影響の改善も報告されている.

■ リードレスPMに合併した心内膜炎に関する他の症例報告は文献上2例のみ.

▫️Ellison先生の報告では37歳の女性が神経調節性失神のためリードレスMicraペーシングシステムを留置した1ヶ月後に原因不明の発熱が出現した. 精査の結果, デバイスに1.3cm×0.5cmの葉状物質が付着していることが判明しPMが感染源であることが判明した. 患者はデバイスを抜去し感染は治癒した. (HeartRhythm Case Rep. 2020 Sep 2;6(11):863-866.)

▫️Koay先生の報告では, 80歳の女性が頻脈-徐脈症候群に対してリードレスMicraシステムを留置された. 1ヶ月後, MRSA菌血症による敗血症で入院し, 抗菌薬の静脈内投与で治療された. TEEではデバイスの近位部に1.2cm×0.9cmの疣贅が付着していた.デバイス抜去を行い, 抗菌薬で治癒した.(HeartRhythm Case Rep. 2016 May 10;2(4):360-362. )

疣贅
回収中
回収されたPMと疣贅

■ リードレスPMの感染は稀だが起こりうる. デバイス関連感染が認められた場合, 感染したデバイスの除去が推奨される. MicraとAvier VRはどちらも, デバイス除去時の補助のために回収できるようになっている.

■ 感染したデバイスを除去した後, 新しいデバイスの再留置に関しては、従来のPMのガイドラインから指針があり, 感染したデバイスを除去してから2週間以内は再留置すべきではないとされている.

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