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臨床推論 Case158

BMJ Case Rep. 2017 Nov 3;2017:bcr2017221388.
PMID: 29102971

【症例】
■ 
83歳 白人女性で既往に2型糖尿病, 骨粗鬆症, 甲状腺機能低下症あり.
■ 右大腿骨頚部転子部骨折でscrew固定術を受けるために整形外科に入院した. 入院初日からダルテパリン5000単位を毎日皮下注射し, 術後も継続した.
■ ダルテパリン注射開始30日後, 下腹部の注射部位に複数の圧痛を伴う紅色の皮下結節が出現した.
■ 皮下血腫と判断し経過をみていたが皮膚症状は悪化し続け, 5日間で壊死を伴う5×4cm, 4×4cm, 4×3cmm, 3×2cmの大きさの複数の圧痛を伴う水疱性病変が発現した.

■ 入院時の血小板数29万/μLで検査時の血小板数2万/μLで, プロテインC, プロテインS, 凝固検査は正常範囲内であった. 腹部の超音波検査では皮下血腫や液体貯留は認めず.

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【診断】
遅発性HIT

【経過②】
■ HIT抗体(ELISA)が4 OD単位で陽性でHITと診断した.
■35日目にダルテパリン注射を中止しm fondaparinux 2.5mgの毎日の注射に切り替えた. ヘパリン中止後30日で皮膚病変はデブリせずほぼ完治した. 入院65日目に退院となった.

【考察】
■ 低分子ヘパリン(LMWH)は,安全性と簡便な投与方法から血栓の予防と治療のために広く使用されている. ヘパリン誘発性皮膚病変の症例報告が増加しており, 特に皮下注での報告が増えている. 女性, 高BMI(>25), 長期ヘパリン療法(>9日)がヘパリン誘発性皮膚病変を発症する危険因子である. 発生率は5%にも上ると推定されている.

■ ヘパリンによる遅発性過敏反応(HITの皮膚壊死ではない)

CMAJ October 13, 2009 181 (8) 477-481

■ LMWHによる皮膚壊死は通常開始後5〜11日の間に発症し, 11日を超えて発症は極めて稀である. HITは開始後5〜14日の間に多い. ヘパリン療法中止後40日目までの遅発性HITの稀な症例報告は散見される. ヘパリン療法中止後も産生されたHIT抗体が最長3ヶ月間血中に残存するため, 血栓性合併症(全身性血栓塞栓症, 皮膚壊死など)を発症するリスクが持続する.

■ ヘパリン誘発性皮膚壊死の典型的な初期症状は圧痛を伴う紅斑や硬い皮下結節で始まり, 急速に増大し, 水疱形成や潰瘍形成を経て皮膚壊死に至る. 皮膚生検では壊死組織, 梗塞, 血栓, 血管炎を認める.

■ 診断は臨床所見に基づいて行われ, 皮膚生検, HIT抗体陽性, 血小板減少で疑われる. まれにHIT抗体陰性の報告もある. 血小板数が10万/μL未満となる. しかし顕著な血小板減少は特徴的ではない.  たいていは軽度の血小板減少を示す.  本症例のように、ベースラインから50%以上の血小板数の相対的減少はHITの診断基準となる.

■ 高BMIは遅発性ヘパリン誘発性皮膚壊死の潜在的なリスクとなる可能性がある. 血流の乏しい過剰な皮下脂肪組織に残留ヘパリンが存在し続けるためである. 女性は男性と比較して体脂肪率が高いためヘパリン誘発性皮膚壊死を発症するリスクが高い. 遅発性は過小報告されているのか認識されにくい. しかし遅発性でも重篤な全身症状や血栓性イベントを認める.

■ 産生されたHIT抗体は最長3ヶ月間血中に残存する.  HIT抗体陽性患者は遅発性血栓性合併症を発症するリスクがある.  ヘパリン注射の中止と適切な抗凝固薬への変更が重要である.

■ HITは非ヘパリン系抗凝固薬(アルガトロバン, ダナパロイド)への変更が推奨されている. HIT誘発性の過凝固状態が悪化する可能性があるため血小板輸血は一般的に推奨されない.

■ ヘパリン療法の中止により通常は改善するが, 感染や全身性臓器不全による致死的な症例も報告されている. 治癒不良の病変では壊死皮膚の除去のために外科的デブリードマンが適応となる場合があり, 広範な皮膚欠損のある患者では皮膚移植が実施されることもある.

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