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死んだふり

ある鈍色の空の日のこと

  • 電気もついていないほの暗い廊下を歩いていると、真っ暗な部屋の壁に寄りかかって座っている年配の男性を見かけた。思わず立ち止まって見つめてしまった。首を斜め下に傾けて微動だにしない。・・・死んでる!げげげ!どうしよう、と思いつつも体が動かず彼から目が離せなくなってしまった。・・・彼の背もたれが壁ではなくて、ドアに寄りかかり座ってドアノブから首にかけてロープがかけられていたら・・・立派な〇殺だ、変な想像をしてしまう。

  • そこにMさんが通りかかって、「Nさん何してんの?」と尋ねてきた。「・・・Kさん死んでるかも・・・」と力なく言うと、「そんなことあるわけないですよ。」と颯爽とドアを開け「kさん大丈夫ですか?」と肩をたたいた。「いや、最近疲れていて・・・」とぼそぼそと言い、電気をつけ仕事を始めた。

  • 安心した私達は自分たちのフロアへ向かいながら、私はMさんに、ああ良かった、死んでなかった、死んだふりだったんだ、というと、死んだふりwwwwと爆笑していた。

  • その数年後、家に帰ると妻が死んだふりをしています、というドラマが放送された。あるネットのサイトに投稿された記事をドラマ化したようだけれど、まあ、日本全国の至る所で死んだふりをする人達がポツポツいるということがわかっただけでも良かった。

  • もしあの時Mさんが通らずに私とkさんだけ取り残された世界、(村上春樹でいう1q84のような、現実とほぼ変わらない異世界)だったら、私はあっけにとられてそのまま呆然と立ち尽くし、為すすべもなく時間だけが過ぎていった事だろう。そして死んだふりをしたkさんは時間と共に朽ち果ててしまい、ついには鼻をつんざくような獣臭のような匂いと共に朽ち果てていくのだろう。一方の私も同じく朽ち果て、床には境界線の曖昧なヒト型だけが残り、匂いの取れない獣臭を漂わせている姿なき人間、ゼロ(0)の状態になっているのかもしれない。そして時間は刻々と過ぎていき、16時、20時、0時、そしてまた0から時間が始まり、2時、6時、10時・・・と永遠に0に向かって時を進めていく。

  • 人間も時間も最終的に0に収束していく。origin・・・そしてダリってる世界。




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