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フェチ

私は、フリーランスのライターという仕事をしています。
仕事柄、さまざまな取材をします。
ある雑誌の取材で、いろんなフェチの人に会いました。
一人は、鼻の穴フェチ。
鼻の形にもうるさいのですが、鼻の穴の話をし始めると、一晩中、語っていました。
多くの人は、自分の鼻の穴を、他人に見られることに恥ずかしさを覚えるでしょう。
その人は、女性の恥ずかしい部分を見ていることに性的な興奮を覚えると言っていました。
彼は、人を選ばす、鼻の穴について語るので、一度、彼に語られた人は、二度と付き合わなくなるそうです。
ただ、同じフェチの同じ嗜好の人とは、際限なく語り合うようです。
他にも、女性のへその穴フェチ、女性の脇の下フェチ、女性の脇毛フェチ、女性の足の臭いフェチの人に会いました。
そして、それらの人が集い、語り合う場を設けることになりました。
それぞれ、自分の好きな形や臭いなどを語っていきました。
話は、まったく噛み合いません。
噛み合うはずがありません。
なぜ、編集者は、こんなことを企画したのでしょうか。
どう、記事にまとめたらいいのか、まったく見えないまま、予定の二時間が過ぎました。
へその穴フェチの男性が、デベソのよさを語っていた時です。
鼻の穴フェチの男性が、「くだらねえ」とつぶやきました。
その男性は、続けて、「へそなんて、何がいいんだ。しかも、デベソだぞ。バカじゃねえか。きれいな鼻ほど気品のあるものは体にないだろ」と怒りをぶつけました。
へそフェチの男性は、「はあ」と言うと、「何が気品だ! 変態野郎!」と、怒鳴りました。
鼻フェチの男性は、「うるせえ、変態はてめえのほうだ! 鼻以外は認めねえ。お前ら、全員、変態だ」とわめきちらしました。
これには、脇の下フェチ、脇毛フェチ、足の臭いフェチも黙っていません。
「変態はお前だ」「変態ってのは、お前みたいなのだ」「お前こそ、変態そのものだ」
もう、収集がつきません。一時間近く、ひたすら、「変態」「変態」「変態」「変態」という言葉を聞き続けました。
編集者は、私に、仕事を任せて、部屋から出て行ってしまいました。
私は、深いため息をつきました。
こんな仕事、やめたいと心の底から思いました。

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