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テレビの企画といえば、顔の皺で蚊を捕まえるというものもあった。タレントは、ケーシー高峰、松尾伴内、上田晋也である。ガラス張りの電話ボックスのような小屋の中に、もうもうたる数万匹の蚊が舞っている。この小屋に、顔だけ出した衣装で入り、蚊が顔にとまったら、皺を寄せて蚊を捕まえるのである。蚊を多く捕獲したものの勝ちだ。順番は、若い上田からだった。司会者にふられた上田は、えっ、と松尾のものまねをしたが、うけなかった。上田は、耳や鼻の穴、目にまで入る蚊に、うわあああ、と声をあげながら、蚊を振り払った。芸人根性、と叫んだ上田は、額の皺で蚊を一匹捕まえ、小屋から出てきた。顔中、蚊にくわれ、かいー、と言った。次は、松尾である。ものすごく嫌そうな顔をしていた松尾は、お笑いウルトラクイズのほうがましじゃないすか、蚊って病気にならないんですか、などとおよそ芸人とは思えない常識的なことを言った。出番の終わった上田は、余裕の表情で、得意の蘊蓄をたれた。蚊の病気といえば、マラリアが有名です。他にも、デング熱、ウェストナイルウィルス、フィラリアなどがありますね。ケーシーも負けない。脳炎も蚊だね、脳炎になったら農園に行こうよ、セニョリータ、と医学漫談の片鱗を見せた。二人の脅しに対し、松尾は、うわー、と叫びながら手足をじたばたさせて、大げさなリアクションをした。意を決した松尾が小屋に入る。最初は、顔にたかる蚊を手でよけていた。しゃあ! と叫んだ松尾は、やはり、額の皺で、二匹の蚊を捕獲した。ニキビのあとなのか、蚊にくわれたあとなのかわからないが、とにかく顔はぼこぼこだった。顔中に白い軟膏を塗ると、月面のようだった。最後は、ケーシーである。ケーシーは、ガラスの小屋の入り口で、グラッチェ、と言って手をあげると、そのまま逃げた。上田は、グラッチェじゃねえよ、と言った。

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