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“プライマリ・ケア2023年夏号”使える論文My Top5

日本プライマリ・ケア連合学会の実践誌、”プライマリ・ケア”の『使える論文My Top5』は若手医師部門 病院総合医チームが紹介しているリレー連載です。

2023年夏号は、『総合内科×血液内科 編』と題して、神戸市立医療センター中央市民病院 血液内科の西久保が担当し、鉄欠乏性貧血COVID-19というcommonな病気に関連した5つの論文を紹介しました。

1. 高齢者での経口鉄剤


Rimon E, et al. Are we giving too much iron? Low-dose iron therapy is effective in octogenarians. Am J Med. 2005 Oct;118(10):1142-7.
 
皆さんは鉄剤の処方、どうされていますか。Uptodate®︎の鉄欠乏性貧血の項には、「連日投与よりも隔日投与を推奨する」と記載されています。体内の鉄動態の観点からは、鉄を内服すると直後から翌日は鉄吸収が低下することが示されているからなのですが、我々が最も気にするoutcomeは「貧血の改善」ですよね。
 
80歳以上の高齢者の鉄欠乏性貧血の患者さんを鉄15mg、50mg、150mg連日内服に割り付けたこのstudyでは、60日後のHb値の上昇は同等で、鉄剤に関連した消化器系の有害事象は用量依存性に増加したという結果でした。
 

2. 若年女性での経口鉄剤


Kaundal R, et al. Randomized controlled trial of twice-daily versus alternate-day oral iron therapy in the treatment of iron-deficiency anemia. Ann Hematol. 2020 Jan;99(1):57-63.

1つめの研究は、あくまで80歳以上の超高齢者における研究で、鉄欠乏性貧血の患者が多い若年女性にそのまま当てはめてよいかはわかりませんでした。鉄欠乏性貧血が証明された62名(殆どが若年女性)を鉄60mg 1日2回内服と120mg 2日に1回内服に割り付けてみたところ、3週・6週後のHbの上昇は連日内服群の方が早かったものの、消化器系有害事象も多いという結果でした。ただ、隔日内服群でも6週後には連日内服群の3週間後に追いついていました。(そもそも隔日内服群の鉄量は連日群の半分です。)

飲めなければ元も子もないので、筆者は鉄欠乏性貧血に対する鉄剤は、年齢を問わず「クエン酸第一鉄 50mg 1錠分1(眠前)」で処方することが多いですが、皆さんはどうされていますか。

3. 血液腫瘍患者がCOVID-19に罹患した場合の死亡率


Pagano L, et al. COVID-19 in vaccinated adult patients with hematological malignancies: preliminary results from EPICOVIDEHA. Blood. 2022 Mar 10;139(10):1588-1592.
 
mRNAワクチンの登場、抗ウイルス薬・免疫調整薬と呼吸管理に関する知見の深化に伴い、COVID-19罹患時の死亡率・重症化率は大幅に低下しました。そんな時代、かつ、流行の主体がオミクロン株となった時代における、欧州のCOVID-19に罹患した血液腫瘍患者のwebベースのレジストリーデータです。このレジストリーに登録された、ワクチンを2-3回接種済の状態でCOVID-19に罹患した1548名の転帰を検討したところ、30日死亡率は9.2%という結果でした。ワクチン前の時代よりは改善しているものの、依然として健常人よりも遥かに高い数字です。

4. がん患者でのワクチンをどうするか


Fendler A, et al.. COVID-19 vaccines in patients with cancer: immunogenicity, efficacy and safety. Nat Rev Clin Oncol. 2022 Jun;19(6):385-401.

2つ目の文献は、がん患者におけるコロナワクチンに関するreviewです。この論文にワクチン接種後の抗体産生不良と関連する薬剤が列挙されているのですが、高リスクの薬剤は尽く血液悪性腫瘍関連のものです。同じがんでも血液がんと固形がんでは大きなギャップがあり、固形がん患者は2回接種後の抗体価は健常人よりも若干低い傾向があるものの、多くの場合3回接種後には十分な抗体価を獲得するようですが、血液がん患者は例えば抗体産生に重要なB細胞を枯渇させるような治療を行ってしまうと、半年くらいの間、抗体は産生されません。ただ、だからといってワクチンを打つ意味がないわけではなく、抗体陰性の患者さんでも、T細胞性の免疫応答は惹起されているとする報告もあり、重症化予防効果を期待して繰り返し接種していくのが妥当だと考えられます。

5. がん患者さんのCOVID-19を診断したときに


Bhimraj A, et al. Infectious Diseases Society of America Guidelines on the Treatment and Management of Patients with COVID-19. Infectious Diseases Society of America 2022; Version 10.2.0. Available at https://www.idsociety.org/practice-guideline/covid-19-guideline-treatment-and-management/. Accessed March 10, 2023.
 
残念ながら血液がん患者さんが、発熱外来でCOVID-19と診断のみされてフォローされず、重症化してかかりつけ病院に搬送されるケースを目にしています。ぜひ血液腫瘍患者さんのCOVID-19を見つけたら、重症化予防投薬を行っていただくか、がんでかかりつけの病院にご連絡いただければと思います。日々情報が更新されている領域であり、お示ししたIDSAのガイドラインやNIHの治療指針をcatch upしていくことが重要だと感じています。

本記事の内容については、会員の方はお手元の雑誌をご覧ください。
今後もリレー形式で続いていきますのでお楽しみに。

文責:西久保 雅司(神戸市立医療センター中央市民病院 血液内科)

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