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「舌越し」の改善法 〜人馬の安全のために


乗馬のレッスン時などに、馬が口の横から舌をブラブラさせながら運動しているのが気になったことはないでしょうか。

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 舌をぺろっと出した姿が某洋菓子店のキャラクターみたいな感じでなんだか可愛かったりもしますが、


実際にそういう馬に乗って様々な運動を行おうとすると、
何とも言えない手応えの違和感というか、操作性の悪さのようなものを感じるものです。


手綱の先端に接続され、馬が口に咥えている「ハミ」は、
口の中では「舌の上」に乗った形になっているのが正常な状態なのですが、

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何らかの理由によって、馬が舌を引っ込めてハミを越すようにして「舌の方が上」になった形にしてしまうことがあります。


 この「舌越し」の状態になると、ハミが舌下の歯茎の部分に直接当たることになり、苦痛から馬が抵抗を示したり、横ズレしやすくなったりして適正なコンタクトが維持しにくくなり、パフォーマンスが低下するだけでなく、

操作性が非常に悪くなって、状況に応じたタイミングの良いコントロールといったことも難しくなりますから、安全面においても問題が生じてきますから、

出来ればこのような状態になるのは避けたいところなのですが、

一度馬がそうしたことを覚えてしまうと癖になってしまって、人の手でそれをやめさせるのはなかなか難しかったりするものです。


 そこで、馬を扱う人たちは昔から、「舌越し」を阻止するための様々な対策を講じてきたのですが、
なんとかして舌越ししたい馬たちとの知恵比べ、イタチごっこのようになって、なかなか改善されなかったり、ということも今だに多いようです。

 例えば、代表的な対策として、

競走馬などでは、うなじの辺りからゴムなどで引っ張って吊り上げるようにして馬の口の中でのハミの高さを安定させることにより、舌を越しにくくさせようという「ハミ吊り」もしばしば用いられたりしますが、

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効果的にも、見た目的にも、評価は分かれるようです。


また、ハミの真ん中に金属やゴムなどでできた「舌越し防止用のプレート」がついたものを使用するという方法もありますが、


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金属製のプレートだと、馬が無理矢理舌越しした時に舌の裏などを傷つけてしまう場合がありますし、

ゴムだと逆にソフトすぎて、馬が舌で弄んでそのうちに嚙み砕いてしまったりします。


 あるいは、馬がハミを外したり舌を越したりするのを防ぐためには、馬が口を割る(開ける)ことが出来ないようにすれば良い、ということで、

特に乗馬の施設などでは、いわゆる「コンビ鼻革」とか、馬場馬術用のゴツい鼻革などを使って、馬の鼻梁をガッチリ縛って顎が開かないように固定しまうような方法もよく行われていますが、

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舌越しする原因がそもそもハミの中折れ等による苦痛であるような場合、
いくら鼻革をキツく締めたところで結局はいつものように舌がブラブラ、というようなことも多いのではないかと思います。

 乗馬クラブのレッスンというのは、比較的ゆっくりとしたペースの運動を散発的に行う程度であることが多いですし、

馬たちの口の感受性も会員さんの粗雑な手綱操作に適応して鈍く、固くなっていることも多く、
またそうした馬ばかりに乗っている会員さんの方も、固くて強い手応えを感じながらの「力尽く」の操作が当たり前になっていたりしますから、

騎乗馬が舌越ししていてもそれほど違和感を覚えないという方も結構いたりするかもしれませんが、


前述したように、舌越しは、操作性を著しく低下させ、安全面でも調教面でも非常に問題が大きいと考えられますから、

乗馬施設などにおいても、もう少し真剣にその防止策について検討してみる必要があるのではないかと思います。



 舌越しを防ぐためにはまず、馬が舌越ししたくなる理由、原因について考えてみる必要があります。


 ハミには、片方の手綱を控えた時に反対側が浮いてしまったり横ズレして抜けてしまったりするのを防ぐために、
真ん中辺りにジョイントを設け、二つに折れるような構造になっているものが多いのですが、

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特にシングルジョイントのハミの場合、両手綱を同時に引っ張った時にハミの折れ角がきつくなって馬の下顎を挟んだり、折れた曲がった部分が馬の口蓋に当たって傷つけてしまったりすることがあります。

 そうなると、馬は苦痛から逃れるために、顎を引いて巻き込むようにしてハミを外そうとしたり、舌を一旦引っ込めてからハミの上に乗せてしまったりするわけです。

 ですから、 「舌越し」を防ぐためには、サイズの合った頭絡やハミを使用すること、手綱のコンタクトを強くしすぎないようにすることなどはもちろんですが、

それだけでなく、このハミの中折れによる構造的なストレスを取り除いてあげることがかなり効果的だと考えられます。


・『WTPビット』の効用


 そこで、効果的な舌越し防止策として、おすすめしてみたいものに、

「WTPビット」というハミがあります。

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ハミの真ん中のジョイント部分に、水平方向にのみ可動し、垂直方向には折れないように、折れ曲がる方向を制限するような工夫が施してあり、

垂直方向に中折れすることで顎を挟んだり、上顎の口蓋を傷つけたりするのを防ぐことができるような構造になっているため、馬が苦痛を感じることが少なく、

また、ジョイント部分を覆うカバーが舌抑えのプレートとしても働くので、

ストレス原因と舌の動きの両面から舌越しを防止し、いわゆるハミ受けを改善することができるという、なかなかの優れモノです。


 WTPビットには、ハミの横ズレを制限し、馬の操縦性を高めるためのリングがついたタイプもあります。

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 リングビットは、口に大きなリングを咥えたような形から、後に述べる「ハートバミ」と混同して、すごくキツいハミをつかって馬を虐待しているのではないかというように誤解されているような方も時々いらっしゃったりするものの、

実際にはリングには手綱は直線繋がっておらず、あくまで補助的に作用するだけですし、
リング自体にもジョイントの折れを制限し、馬の口への圧力を分散させるような効果がありますから、
むしろ細い水勒ハミだけの場合などに比べて、当たりの優しいハミだとも言えます。


 リングビットは、いわゆる「バカついて」逸走してしまうような若い競走馬を制御して真っ直ぐに走らせるために設計されたハミですから、

手綱操作のまだおぼつかない初心者の方とか、ジュニア会員の子どもたちに、舌を越してハミから逃がれるような一癖も二癖もある練習馬をコントロールしてもらわなければならない、というような場合にも、非常に有効なのではないかと考えられます。

 また、このハミには、

新馬のブレーキング(馴致)のために用いられる、「ブレーキングビット」のように、常に口をくちゃくちゃ、パクパクと動かして遊ぶことでハミへの拒絶感が格段に緩和され、

普段ハミを拒絶して舌越ししたり、口を割ったりして唾液の分泌が止まってしまいがちな馬でも、
適度にリラックスしながら機嫌よく運動してくれるようになる、というような効果もあります。

 意識の何割かをそこに傾注しながら、顎周りの筋肉を常に動かし続けることで適度にリラックスしたり、気分を落ち着かせて集中しやすくなる、というのは、野球選手のガムや、赤ちゃんのおしゃぶりなどと同じですし、

またそれによって、「ナチュラル・ホースマンシップ」でいうところの、『チューイング・サイン』(馬が緊張を解いて相手への恭順の意思を示すときに現れる、口をくちゃくちゃと動かすようなサイン)の発現を促す、というような効果もあるのではないかと考えられます。

 そんなわけで、怖がりで物見が激しい馬や、緊張、興奮しやすくて洗い場などでもソワソワとジッとしていられなかったりする馬、
あるいは、働き過ぎて気持ちが荒みきってしまい、やたらと噛み付いたり蹴ったりしてきてウルサいような馬などに、

手入れや馬装の際にでもこうしたハミのついた天井(頭絡)を着けておいてやると、

案外落ち着いて機嫌よく、こちらの言うことにも従順に従ってくれるようになったりしますし、

粗雑な手綱操作によって口の感覚が麻痺し、鈍く、硬くなってしまったような馬でも、そうした口の反応をリフレッシュさせて再び柔らかくさせるような効果もあるようですので、


興味のある方は是非一度、お試し頂ければと思います。



 ・最後の手段

 色々と試してみたけれど、どうしても舌越しの癖を矯正することが出来ない、というような場合には、いよいよ「奥の手」があります。

それは、ガーゼの包帯などの柔らかい布で、馬の舌を下顎と一緒に縛ってしまうことで、物理的に舌越し出来ないようにする、という方法です。

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 こうした方法は、競馬の世界ではわりと日常的に行われていたりするのですが、だからこそ、というべきか、前述のリングビットなどと同じく、乗馬界では否定的な見方をされる人も多いことでしょう。


 「そんなことして暴れないの?」「可哀想!」「虐待では?」
なんて声が聞こえてきそうな感じでですが、


ある程度の信頼関係さえあれば、意外とすぐに慣れて、大人しく縛らせてくれるようになるものですし、

むしろ、舌越しした状態のまま、力尽くで手綱を引っ張られ続けるストレスや、操作性の安定しない状態で運動するリスクを考えれば、

なるべく苦痛の少ない方法で限られた時間だけ舌の位置を固定することによって正しいハミ受けでスムーズな運動出来るようにしてあげた方が、

よほど安全でしょうし、調教上も、動物愛護という面でも、実はメリットが大きいのではないでしょうか。

 初心者の方や子どもたちにも安全に、安定的にレッスンを楽しんでもらい、馬のストレスによって起こる悪癖や事故なども極力減らしたい乗馬の施設でこそ、
こうした方法を試してみる価値は大いにあるのではないかと思います。


 「あの馬の舌越しはもう癖だから、しょうがない」などと諦められて放置されているような練習馬というのは、あちこちの乗馬施設に結構いるのではないかと思いますが、

 ここに挙げたような方法によって、ひとりでも多くの人馬のQOL (クオリティ・オブ・レッスン)の改善に繋がってくれれば、幸いです。
 


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ジャパン ギャロップス インポーター有限会社
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「馬術の稽古法」を研究しています。 書籍出版に向け、サポート頂けましたら大変ありがたいです。