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女性研究者の比率は増えている?【学校基本調査編 part2】

 今回は,学校基本調査の統計分析によって,研究者への登竜門,博士課程の進学における女性比率の変化を検討してみます。女性研究者の活躍が注目され始めた2010年以降の女性比率を文系理系含めて,検討してみましょう。

 前回は,学校基本調査の統計分析によって,男女雇用機会均等法の制定と期を同じくして,女性の大学進学数が上昇したこと,大学院の女性比率は工学部を除いて修士課程から博士課程にかけて低下することが見えてきました。しかし,これらは2018年の1カ年のデータです。女性比率の時間変化を検討することで,全体の傾向が見えてくるでしょう。

1 女性研究者育成を伸び率から考える

 この8カ年の女性比率の平均伸び率を比較すると,一般的に理系の伸び率が高く,文系は減少傾向にあることが示されました。理系女性研究者を養成する政策は,順調に成果を上げていると言えそうです。前回と同様にe-Statを使って,学校基本調査のデータを2010〜2018年まで取得して分析しています。2010年からとしたのは,いわゆる「リケジョ」がメディアに登場し,女子研究者の活躍や支援について世論が大きく動いたのが2010年だったからです。

2 データの集計

 学校基本調査のデータから学部(4カ年),修士(2カ年),博士(3カ年)の男女の合計在籍数を,8カ年分抽出します。在籍総数のなかの女性比率を求め,前年度から伸び率を計算し,8カ年分の伸び率の平均を伸び率8年間平均としました。今回もTableauを使って作図しています(図1)。今回は理系の女性研究者について知りたいので,理系分野は藍色文系分野は空色に色分けしました。


図1 各学部の女性比率の伸び率8年間平均(出典:学校基本調査)

 図1は,上に伸びるほど「女性比率の伸び率が高い」=「女性の数が増えた」ということです。学部,修士,博士の3つのカテゴリで女性比率の伸び率8年間平均を見ていきましょう。

3 学部における女性比率伸び率トップは工学部!

 伸び率8年間平均が,もっとも上昇率が高いのは工学部(約4%)であり,群を抜いて高い伸び率を示しています。もともと女性が少ない分野でしたので,伸び率が高く出やすい側面はありますが,大きな変化を感じます。もともと女性比率が高かった一部の分野を除いて,多くの学部で女性比率は上昇しています。つまり,この8カ年で,女性の活躍の場は少しずつ広がっていることになります。大学に進学しなければ大学院にはいけませんから,とくに女性が少ない学部における女性比率の上昇は,研究者養成の基本として重要です。

4 修士課程でも工学部は高い伸び率を誇る!

 修士課程でも工学部(2.9%)の女性比率の上昇は維持されており,歯学部(2.7%)と並んで群を抜いて高い傾向があります。女性が少ない印象のある理学(1%)や医学(0.5%)でも女性比率は上昇しています。一方で,女性が多い学部である薬学部(-1.5%)および保健その他(-0.3%)では減少傾向があります。修士課程における女性比率の上昇は,専門分野における女性の評価が高まっている傾向を示しているかもしれません。

5 博士課程では薬学・工学が高い伸び率を誇る!

 専門性がもっとも高まる博士課程においても,工学部(2.2%)は女性比率の上昇が認められます。もっとも高いのは薬学部(3%)で,新薬の開発や既存の医薬品の改良のために薬学研究者を目指す女性が少しずつ増えているようです。農学(1.8%),理学(0.2%)も上昇傾向にあります。一方で,医学(-0.1%),保健その他(-0.3%)は若干の下降傾向があるようです。もともと女性が多い分野での女性比率の下降は認められますが,それは研究者を志望する女性が幅広い分野へ進出していることの裏返しかもしれません。

6 選択肢が増え,より細やかな志望に答えられる

 学校基本調査の2010~2018年の女性比率の伸び率8年間平均から,理系分野の博士課程における女性比率は,多くの学部で上昇傾向にあることが示されました。減少傾向も大きくなく,理系の女性研究者への扉は,徐々に開かれていると言えそうです。
 理系研究者という選択肢の増加が,一部の女性比率の減少,たとえば家政分野の減少傾向と関係しているかもしれません。家政分野の博士課程は食物学が主体ですが,農学にも食品関係を扱う分野がありますので,研究内容に多少の重複があります。幅広い選択肢が得られたことで,より細やかに志望に合わせた選択ができるようになっているのだとすれば,家政の減少幅より大きな農学の上昇は頷けます。

 努力を続ける限り,才能に限界はありません。そして,その才能を活かす場は徐々に増えています。まだまだ障害はありますが,女性が活躍できる社会に,少しずつ変わっていることが統計から見てとれそうです。多様な人々の協働によって新たな時代を切り開く,Society5.0の時代の実現に向けて,多くの人の力の結集が必要になります。

 そのひとつとして,あなたの力が必要なのです

追記:2018年12月19日 一部表現を修正しました。

いつもより,少しだけ科学について考えて『白衣=科学』のステレオタイプを変えましょう。科学はあなたの身近にありますよ。 本サイトは,愛媛大学教育学部理科教育専攻の大橋淳史が運営者として,科学教育などについての話題を提供します。博士(理学)/准教授/科学教育